おかしなおかしな竜退治。「たのしい川べ」のケネス・グレーアムのほのぼの童話です。読み聞かせにもおすすめ。【小学校中学年以上】

2024年1月26日

広告

おひとよしのりゅう ケネス・グレーアム/作 石井桃子/訳

ある日、男の子が出会ったのは竜。のんびりやでお人よしの竜でした。ところが、村にセント・ジョージがやってきて…?

この本のイメージ ほのぼの☆☆☆☆☆ 風刺☆☆☆☆ くすっと☆☆☆

おひとよしのりゅう ケネス・グレーアム/作 石井桃子/訳

 あの「たのしい川べ」のケネス・グレーアムが書いた童話を、「クマのプーさん」の翻訳で知られる石井桃子さんが訳した本です。このスペシャルな組み合わせの本は、学研プラスから出版されていましたが、現在は市場にないようです
今は、「のんきなりゅう」として、別の方の翻訳版がでているようです。

 石井桃子版も再版してほしいですけど、おそらく、この組み合わせの価値がわかるマニアは買ってしまったんでしょうね。

 おはなしは…
主人公の「男の子」のお父さんがある日、洞窟で竜に出会います。この竜は、争いが大嫌いなのんびりやの竜で、地震の時に地面の割れ目に落っこちたのをいいことに、ながいこと洞窟の奥でひとりでのんびり暮らしていたのでした。

 男の子は、読書家で頭が良かったので、お父さんが見たものが竜だとわかりました。そして、竜と仲良くなり、この竜が争いを好まない、気のいい動物だと知るのです。

 男の子たちの家族は竜と仲良くなりました。

 しかし、次第に、洞窟の前に竜がいることが村人に漏れ、村で噂されるようになりました。
そこへ、竜退治で有名なセント・ジョージが村にやってきたのです。

 「ちゃんばら」が大好きな村人たちは、よろこんで、自分たちの村に獰猛な竜がいて困っているとセント・ジョージに訴えました。それはかなり誇張した話で、竜にとってはいい迷惑でしたが、娯楽の少ない村の人たちは、これでセント・ジョージが竜退治をすれば面白いことになると思ったわけです。

 セント・ジョージは善意で「悪い竜から村を救うために、竜を退治してあげよう」と申し出ます。

 男の子はびっくり仰天して竜に知らせに行き、竜は騎士と対決するなんてごめんだと言って男の子に仲裁を頼みました。今度は男の子はセント・ジョージに竜はいい竜だと説明に行きます。すると、セント・ジョージは事情は理解してくれましたが、村人たちがあまりにも期待しているので、何もしないわけにはいかないというのです。

 なんというか、現実にもありますよね。
別に争う必要もない人たちが、周りの都合で対決したりしなきゃいけなくなることが。

 そこで、竜とセント・ジョージ、男の子は三人で一計を案じ、村人たちを満足させて、平和に事を収めることにします。

 ネタバレしてしまいますと、ようするに八百長をするわけです。
いまで言うところのプロレスですね。別に「ちゃんばら」みたいなのが見たいだけだろうから、本当に殺したり死んだりしなくてもいいんだろう、だったら「ふり」でいいじゃないか、と。

 で、実際、「ふり」で村人は大喜びだったのです。

 それで、セント・ジョージはこれでもう、おかしな娯楽はおしまいにしよう。竜はいい竜だから、村人と共存したほうがいい、と言って、宴会を開きました。最後は、男の子とセント・ジョージと竜が、三人で歩いて、男の子を家まで送っていきます。竜が歌っているようでした。

 このお話は、ケネス・グレーアムが大人のために書いた童話だそうです。
最後に、セント・ジョージが行った演説に、言いたいことが詰まっているのでしょう。

おまえたちは、ちゃんばらを見たがってはいけない。
あまり、ちゃんばらがすきだと、しまいには、じぶんたちで、ちゃんばらをするようになる。ところが、ちゃんばらは、ひとにやってもらっているうちはよいが、じぶんでやりだすと、これはたいへんなことなのである。(引用)

 セント・ジョージ、いい人です。他人にちゃんばらをやらせて、それを見物して楽しむレジャーもどうかと思うのですが、それは責めないんですね。

 きっと、彼はこんなことを繰り返して旅をしてきて、今度の竜と出会って、いろいろ嫌になってしまったのでしょう。

 この物語は、様々な示唆に富んでいます。男の子は本好きで暇さえあれば本を読んでおり、両親はそれをとがめないで尊重していること。そして、読書家の少年は固定観念に囚われず、「いい竜もいるはずだ」と想像力をめぐらせること。
竜も詩を書いたり歌を歌ったり、文化的なことを愛する性格だったこと。

 竜退治で有名なセント・ジョージは、いろんな村で村人たちから祭り上げられ竜退治をけしかけられるので、内心、うんざりしかけていたこと…

 現代でも似たようなことがあります。そして、今はそれがインターネットでも行えてしまうので、一気に事が大きくなってしまうことがありえます。今回の男の子のように、機転を利かせてこじれたものごとを収められる人がいればいいのですが、電子の情報は速いので、こじれを修正できなくなってしまうことも、往々にしてあるわけです。

 「男の子」も「竜」も「セント・ジョージ」も、何かの比喩だと思います。とても、ほのぼのとした童話ですが、インターネットリテラシーを説明しながら、親子での読み聞かせするのもおすすめです。

 いまは、外出しないで家にいたほうがいい時です。こんなとき、ふだんはなかなかできないけれど親子で本を読む時間が取れればいいな、と思います。
読み聞かせは、親が子供のために読んでも、子供が親のために読んでも、それぞれ効果があります。この本を読んで、ぜひ、のんびりした時間をお過ごしください。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

ネガティブな要素はありません。温かいお茶を飲みながら、お風呂上りなどに。おやつタイムに、親子で読み聞かせもおすすめです。

商品紹介ページはこちら

お気に入り登録をしてくださればうれしいです。また遊びに来てくださいね。
応援してくださると励みになります。

にほんブログ村 本ブログへ

広告