【ハックルベリー・フィンの冒険】トム・ソーヤーの冒険の続編。ハックルベリーとジムの大冒険。【小学校高学年以上】

2024年1月29日

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ハックルベリー・フィンの冒険 上下 マーク・トウェイン/作 千葉茂樹/訳 岩波少年文庫

ダグラス夫人に引き取られたハックは、厳しい礼儀作法にうんざりしていました。そこへ、ハックが大金持ちになったと知って、飲んだくれの父親がやってきたのです。ハックは、父親から逃れようとしますが…

この本のイメージ 逃亡☆☆☆☆☆ 相次ぐ絶体絶命☆☆☆☆ 正義とは☆☆☆

ハックルベリー・フィンの冒険 上下 マーク・トウェイン/作 千葉茂樹/訳 岩波少年文庫

 「トム・ソーヤーの冒険」の続編。主人公は、ハックルベリー・フィンです。トム・ソーヤーは、冒頭と、最後に登場します。

 長い長いお話ですが、140年前のアメリカの事情が詳しく書かれており、歴史の勉強にもなります。と、同時に、そのようなことを考慮しながらきちんと読み込もうとすると、もしかしたら小学校高学年では少し難しいかもしれません。
中学生にはおすすめです。

 「トム・ソーヤーの冒険」のラストで、大金持ちになったハックは、ダグラス夫人の養子になります。夫人は善良で礼儀正しい人で、ハックにきちんとした礼儀作法を教えようと善意で厳しくしたため、彼はへとへとになっていました。

 そんなとき、ハックの飲んだくれの父親が、息子が大金持ちになったと聞きつけて、親権をもとめて裁判を起こします。
事情を知らない新任の判事は、ハックの父親のでまかせを信じてしまい、彼を父親の元に返してしまうのでした。

 もうね、このあたりが現代でもあるあるの毒親問題ですよ。いくら、子供が毒親だと言っても、親が親権を主張したら誰も逆らえないのは今でも同じです。

 ハックは、このままではいけないと思い、豚の血と死体を利用して、自分は何者かに殺されて川に捨てられたように偽装して逃げ出します。
そんなころ、ダグラス夫人の妹、ワトソン夫人の家の黒人奴隷、ジムは自分が800ドルで売られると知って逃げ出していました。ふたりは逃亡先でばったりと会い、一緒にミシシッピ川を筏で下って逃げることにします。

 ここでジムの状況が詳しく書かれており、当時のなんとも残酷な事情を知ることが出来ます。ジムは5ドル前後のお金を手にして「たくさんお金を持っている」と喜ぶレベルの経済状態なのに、彼自身は奴隷として800ドルの値がついて売られるわけです。
800ドルって、ジムの「人生」の値段なんですよ。

 ハックも、ジムも、自分の人生を自分で決定できる立場にありませんでした。その二人が、一緒に逃亡しようと企てるんです。

 このあたりで、「この話はトム・ソーヤーの冒険とはちょっとちがうぞ」とわかってきます。明るい冒険譚だった「トム・ソーヤーの冒険」とはちがい、「ハックルベリー・フィンの冒険」は、当時の等身大のアメリカを描いているのです。

 ハックとジムが逃げながら、様々な場所、町を通過します。行く先々で出会う人、出会う人、ろくでなしばかり。黒人奴隷のジムのほうがずっと人間として上等なくらいです。
ひとり、ハックが女装して訪ねた家のおばあさんが、人格者な上にものすごい洞察力でたまげます。が、これもマーク・トウェインの計算なのでしょう。つまり、片田舎のおばあさんと言う、世間が侮っているようなところにこういう賢い人がいて、世間が評価している場所で偉そうにしている人なんてたいしたことありませんよ、と言う…。(なにしろ、判事さんはハックの父親にだまされちゃいましたからね)

 様々な街を流れ流れて、偶然、ハックはトム・ソーヤーに再会します。
流れ着いた先のご婦人が、トムの親戚だったのです。

 そこから、トムのいたずらがはじまって、最終的にはハッピーエンドを迎えます。

 もしかしたら、男の子はこの本を読んだときに、大きな山や谷がなくてつまらないと思うかもしれません。大事件はおきますし、登場する悪人たちも「トム・ソーヤーの冒険」とは比べ物にならないくらい残酷で、凄惨なシーンもあるのですが、ハック自身があまりめざましい行動を自分で起こさないからです。

 じつは、ハックルベリー・フィンという少年は、読み書きも出来ず家もないような生活をしてきましたが、夢見がちなトム・ソーヤーと比べてきわめて現実的で、内省的な子供なのです。

 ハックは、厳格で善良なダグラス夫人と奔放で悪辣な父親の二択で真剣に悩みますし、逃亡した後も、ジムをどうするかで何度も悩みます。なぜなら、黒人奴隷の逃亡を助ける事は、当時の法律で禁止されていて、宗教的にも「悪」とされていたことだからです。

 自分はジムを助けたい。でも、それは「悪事を働くこと」になる。神様はお許しにならないし、しかも法律的にも重罪だ。でも助けたい。
何度も何度も考え、考え抜いた末に、ハックは、「たとえ悪人になろうともジムを助けよう」と決心するのです。

 現代の我々からは想像もつかない葛藤です。
わたしたちの感覚だと、ジムを助ける事はまったくの正義ですから。つまり140年の間に、正義と悪は逆転してしまってるんです。

 ハックは、ちゃんとした教育を受けないで育ち、父親は飲んだくれの悪党です。それでも、これだけの深い思考ができる子供なんですよ。このあたりが、マーク・トウェインが言いたかったことなのじゃないかと思うのです。

 時代背景やキャラクターを理解しながらストーリーをきちんと追おうとすると、小学校高学年ではちょっときついかもしれません。けれどもだいたい、このような「お話の輪郭」を頭にいれて読むと、理解が深まると思います。

 毒親からの独立や価値観の多様性など、現代にも通じるテーマがたくさん盛り込まれています。中学生くらいの内向的な学生さんにはおすすめの児童小説です。古い小説だからって侮らないでください。これはなかなか深い物語です。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 はっきりいっておすすめしません。流血シーンもありますし、出てくる人たちの大半がろくでなしなので、精神的には負荷が大きいお話です。前もって「そういう話なのだな」と覚悟して読めば大丈夫な方にはおすすめです。毒親問題はちゃんと解決しますし、ハッピーエンドです。

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