【ポリッセーナの冒険】ほんとうの親はどこにいる?イタリアからやってきた児童文学。風変わりな貴種流離譚。【小学校中学年以上】
家族仲良く幸せに暮らしていたポリッセーナ。でも、ある日、自分は捨て子だと知ってしまい、本当の両親を探しに旅に出ることにします。
この本のイメージ 大冒険☆☆☆☆☆ 意外や意外☆☆☆☆ 家族愛☆☆☆☆
ポリッセーナの冒険 ビアンカ・ピッツオルノ/作 クエンティン・ブレイク/絵 長野徹/訳
「ラビーニアのおかしな魔法のお話」のビアンカ・ピッツオルノのお話です。「ラビーニア」ほどバカ話ではなく、ごくふつうの女の子がひょんなことから大冒険の旅に出るお話です。
ポリッセーナは大好きな家族と仲良く暮らすふつうの女の子。でもあるとき、近所のセラフィーナから「あんたは捨て子だ」と言われます。
ばあやのアニェーゼなら本当のことを知っているはずと思い、妹に聞いてもらうと、実は本当に捨て子だったことが発覚。友達も知っているようなことを自分だけ知らなかったことにショックを受け、ポリッセーナは本当の両親を探しに家出してしまいます。
そこから、ポリッセーナの冒険が始まります。最初の手がかりを探しに、捨てられた修道院に行くと、旅の友、子ブタのシロバナに出会います。その後、動物曲芸一座のルクレチアに出会い、一緒に旅をすることに。
彼女が捨てられていたときに入っていた小さな小箱、そして、箱の中に入っていたマフラーや靴下、ペンダントなどを手がかりに、ポリッセーナとルクレチアは、あちこちを旅します。そして、長い長い旅の末、意外な事実にたどり着くのです。
この先のストーリーを紹介してしまうと、面白くないので、あらすじ紹介はこのあたりにしておきますね。
ポリッセーナはほんとうの両親を探す旅の途中で貧乏漁師の妻のいじわるばばあや、おいぼれ海賊、親切な農家の人々、傲慢な貴族、かわいいお姫様など様々な人に出会います。彼らにはたいてい、何かしら秘密があって苦しんでいるのですが、ポリッセーナとの出会いをきっかけにしてそれが明らかになっていくのです。(ポリッセーナが暴いているわけではありません)
この「実は」「実は」の連続で、ポリッセーナの旅が転がっていきます。
面白いのは、ポリッセーナが終始、ごくふつうの女の子だってことです。苦しい旅の経験から、たしかに少しずつは成長していきます。でも、突然聖人君子になるわけではないし、天使のようにやさしくなるわけでもなく、拗ねたり怒ったり、ぐずったりもするし、思慮は浅いし、子どもっぽいことも言うし、でもかわいくて心のやさしいところもある、本当にふつうの子なんです。
愛情も友情もあるけど、それもふつう。そして、嫌いな人にはいじわるな気持ちになるところや、調子に乗ってえらぶりたいところもふつう。 親友で旅仲間のルクレチアのほうがずっと頭もよく、性格も優しくて、行動力もあり、本来なら彼女が主人公になるタイプです。
でも、ポリッセーナを主人公にしたのは、作者の意図がそこにあったからなんでしょう。
これは、ラストとも深く関っているので、これ以上は書けないのですが、この「ふつうの女の子の冒険」が、心に響く人もいると思います。
でもね、やっぱりポリッセーナはものすごくふつうだけど、ふつうじゃない子なんです。彼女と出会うことで、すべての人が真実に気づき、幸せになれたんですから。本人はどこもすごくないのに、出会う人すべての運命を大きく変えてしまう、ふつうなのにふつうじゃない存在、それがポリッセーナです。(そして、本人はまったく自覚が無い)
あれです、「宝島」のジムのときにも書きましたが、児童文学によく出てくる特異点みたいな子です。
このお話は、ポリッセーナに感情移入して楽しんだ後、すこし視点を遠ざけて物語そのものを遠くから読むと二度面白い。ポリッセーナという台風が、旅をしながら通過する場所の運命を変えていく物語だから。
だからね、どんな人もけっして「ふつう」であって「ふつう」ではないと思うのですよ。平凡で取り立てて特別なところが何一つ無いような子であっても、実はたいへん非凡な何かが隠されている。
本当に貴重なものが、意外なところにある。
これはそういう話なんだと思います。
ネタバレしてしまうと本当に面白くないので、今回は、かなり抽象的なレビューになってしまいました。ボリュームがあり、分厚い本ですが、字は大きくふりがなもついていて読みやすいので、小学校中学年以上のお子様におすすめです。
家族愛にあふれるお話なので、読み聞かせにも。
長いお話ですが、ぜひチャレンジしてみてください。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はありません。安心してお読みいただけます。チュロスとコーヒーをお供にぜひどうぞ。
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