【E.ネズビット】「あの」四きょうだい再び。砂の妖精と時を旅するファンタジー【魔よけ物語】【小学校高学年以上】

2024年2月13日

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魔よけ物語 上 イーディス・ネズビット/作 八木田宣子/訳 H・R・ミラー/絵 講談社青い鳥文庫

1年前、 シリル、アンシア、ロバート、ジェインの四きょうだいは、1日にひとつ、なんでも願いを叶えてくれる砂の妖精サミアッドに出会い、別れます。偶然再会したサミアッドときょうだいたちは、再び不思議な冒険の旅へでかけるのです。「砂の妖精」の続編、「魔よけ物語」上巻です。

この本のイメージ タイムトラベル☆☆☆☆☆ 歴史ミステリー☆☆☆☆ 家族愛☆☆☆

魔よけ物語 上 イーディス・ネズビット/作 八木田宣子/訳 H・R・ミラー/絵 講談社青い鳥文庫

 これは、福音館文庫から出版されている「砂の妖精」の続編です。

 もしかしたら絶版になっているかもしれず、現在中古か図書館でしか読むことができません。とても面白いので、どこかの出版社が再版してくださればと思い、レビュー。

 目はカタツムリ、耳はコウモリ、身体はクモの不思議な妖精サミアどん…もとい、サミアッドと出合った、シリル、アンシア、ロバート、ジェインの四兄妹。彼らは、楽しく愉快ながらも、さんざんな体験をして、いったん別れます。

 一年後、きょうだいの父親は満州に出張になってしまい、母親は体調を崩して末っ子の赤ちゃん(ヒラリー)を連れてアフリカに療養に行ってしまいました。

 取り残されたきょうだいは、ばあやの家に預けられます。今回の不思議物語はここから始まります。

四人の子どもたちの願い

 また家族一緒に暮らしたい……そう思いながら街に出たきょうだいは、なんとなんとペットショップで檻に入ったサミアッド(サルのふりをしている)と再会するのです!

 「砂の妖精」をお読みになった方はご存知だと思うのですが、この四人は最後の願いによって、サミアッドの「願いを叶える力」はもう使えません。けれど、サミアッドは不思議な知識をたくさん持っていて、助けてくれたお礼に重要な情報を与えてくれます。
それが「何でも願いを叶えてくれる魔よけ(アミュレット)」でした。

 サミアッドを救出した四人は、古道具屋で魔よけを手に入れますが、それは不完全な、魔よけの「半分」だったのです。
そんなすごい力を持った魔よけがそこらへんで売られてるのもすごいですが、当時のイギリスはエジプトをはじめとして、様々な国から不思議なものがたくさん集められ、あやしげな物がたくさん売っていたのだと思います。そんな時代を感じさせるシーンです。

 さてさて、残りの半分を探して、四人と一匹の不思議な冒険がはじまります。

謎の考古学者

 ばあやの家は下宿屋だったので、上の部屋を奇妙な男性に貸していました。その人は、考古学者で、部屋はエジプトやらアフリカやらわけのわからない古いものでいっぱいでした。

 きょうだいたちは、まずは魔よけの事を知るために、この考古学者の先生をたずねます。
こどもたちだけでは、魔よけに書いてある文字を読むことすらできなかったからです。

 これが、この物語のキーマンになる、ジェイムズ先生との出会いです。

 ジェイムズ先生に解読してもらった呪文を唱え、魔よけそのもののメッセージを受け取った四きょうだい。魔よけの半分はもう失われて塵になっているので、完全な魔よけがほしければ、魔よけが完全だった頃の過去に行く必要があるのでした。

紀元前6000年のエジプト

 ジェインが魔よけを掲げるとアーチが出来て、そこをくぐると時と空間を超えることかできます。
アーチの向こうは、紀元前6000年のエジプトでした。

 どういうわけか、不思議な力で言葉が通じるきょうだいは、驚く現地の子どもたちと会話して仲良くなります。そして、現地の争いに巻き込まれ、ほうほうのていで戻ってくるのでした。

 そのときの冒険の結果、魔よけを使ったタイムトラベルは、現代の時間をすこしも使わないことがわかったのです。

 エジプト人とシリルたちのカルチャーギャップや、彼らに「鉄」と言う概念がないので言葉が通じないところなどが面白いです。きょうだいのことなんてほったらかしで、質のいい砂に夢中のサミアッドがかわいい。

謎の王国バビロンとロンドンの大混乱

 次に旅したのは、伝説の王国バビロンです。
誰も見たことのない、伝説の王国に来た四人。最初はバビロンの女王に歓待され、おいしいものを食べたり楽しい思いをする四人ですが、ちょっとした間違いから、サミアッドや魔よけを持ったジェインと離れ離れになり、たいへん恐ろしい思いをします。

 しかし、話はそれですみませんでした。
 女王が現代に来てしまったからなのです。

 四きょうだいは以前の願い事により、もうサミアッドの願いを叶える力は使えませんが、他の人たちは違います。不用意にサミアッドのすぐ近くで願いを口に出すと、それが全部現実になってしまう。

 それによって、ロンドンは大混乱になります。

 それがどう解決するかは、読んでのお楽しみ。

 古代の女王が現代にやってきてしまうのは、「ナルニア国ものがたり」の「魔術師のおい」を彷彿とさせます。(よく考えたら、ネズビットのほうが年代的に古いので、「ナルニア国ものがたり」は「砂の妖精」に影響をうけていたのですね…… 2021.01.06 追記)
でも、バビロンの女王のほうが、愛嬌もあり、憎めないキャラクターとして描かれています。
何度もアクシデントが起き、そのたびに、誰もが「ここで『自分の城にもどりたい』と願うはず」ってところで、絶対にそうは願わないんです。なので、どんどん事態は収拾がつかなくなるのですが、さすがに児童文学なので、最後は奇跡的に解決します。ようするに、他人の願い事なんてものは、コントロールできないんですね。著者は徹頭徹尾「願い事」に関してシビアです。

 うずたかく積まれた骨董品にまみれて、生気を失っていたジェイムズ先生が、子どもたちと交流していくうちに、だんだんと瞳に光が宿っていくのも印象深いです。

 ネズビットの作品は、子どもたちのやんちゃ具合と善良具合がちょうどよく、基本的にどの子も、本質的には家族を愛し、「いい子でいたい」という気持ちがあるのが魅力です。そして、ちゃんと教訓的側面もあり、小さなお子様が読む児童文学としても良心的作品だと思います。
皮肉屋のサミアッドも、子どもたちと交流するうちに、意地悪なところがどんどん削げていき、よくいる「ツンデレ」程度になっていくのも可愛らしい。彼らの不思議物語は、後編へと続きます。

後編のレビューはまた明日。お楽しみに!

※この本は現在、Amazonでは新品は入手困難です。中古(古書)でお求めになるか、図書館、または書店に置いてある場合があるので、お近くの書店の書店員さんにお尋ねください

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ちょっと流血シーンがあるので、そこは負担になるかもしれません。「そういうシーンがあるのだな」と最初からわかっていれば大丈夫な方にはおすすめ。流血シーンはあるけど、残酷シーンはありませんから、それほどひどくはありません。
「砂の妖精」で、ネズビットの魅力に取り付かれた方はぜひどうぞ。まだの方は、まずは「砂の妖精」をお読みください。

あつあつの紅茶と、ピーナツバターのサンドイッチなどをお供にお楽しみくださいね。

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