【お姫さまとゴブリンの物語】約150年前の、星を知らないお姫様の大冒険【小学校高学年以上】
山奥の館にアイリーン姫は住んでいました。あるとき、地の底に暮らす恐ろしいゴブリンたちが、お姫さまを誘拐しようと企てます。人間対ゴブリンのすさまじい戦いが始まろうとしていました……
この本のイメージ 幻想的☆☆☆☆☆ 可憐な☆☆☆☆ 大冒険☆☆☆☆
お姫さまとゴブリンの物語 ジョージ・マクドナルド/作 脇明子/訳 岩波少年文庫
<ジョージ・マクドナルド>
スコットランドの小説家、詩人、聖職者。『リリス』などの幻想文学や、「かるいお姫さま」など児童向けファンタジーの作者として知られる。彼の作品はW・H・オーデン、J・R・R・トールキン、C・S・ルイス、マデレイン・レングルらに賞賛され、マーク・トウェインも彼と友誼を結んだ。
アイリーン姫は八つになるかならず。お母様の王妃様が身体が弱かったので、山奥の静かなお屋敷に預けられ、乳母に育てられておりました。
その館は、不思議な場所に立っていて、地下には鉱山があり、ゴブリンたちが住んでいたのです。
ゴブリンは、夜になると地下から出てきて人間を襲うこともありましたので、お姫さまは日が暮れてからは外に出ないよう、館の中で守られて過ごしました。ですから、お姫さまは星を見たことが無かったのです。
このお姫さまが、ひょんなことからその存在をゴブリンたちに知られ、ゴブリンたちがお姫さまを誘拐しようと企てたことから、物語が大きく動き始めます。
お姫さまを助けてくれるのは、鉱夫の息子、カーディ。この物語は、お姫さまとカーディの出会いと心の交流の物語でもあります。
ジョージ・マクドナルドは、150年ほど前のファンタジー作家ですが、多くの作家に影響を与えました。「不思議の国のアリス」のルイス・キャロルとは親友だったそうです。
マクドナルドの小説は、独特の幻想的な雰囲気があり、それがなんともいえない魅力になっています。
「お姫さまとゴブリンの物語」は、幼いアイリーン姫の愛らしさもさることながら、彼女のひいひいおばあさまであるアイリーンさまが、荘厳な美しさを放っています。
結い上げていない滝のような金髪やシンプルだけど豪華なロングドレスなど、松本零士ワールドの女性キャラの原点はもしかしたらここなのじゃないかしら、と思いました。
あらすじとしては、人間の姫を誘拐して地上を支配しようとするゴブリンたちと、アイリーン姫さま、鉱夫の息子カーディ、そして人間たちの戦いなのですが、そのなかに、さまざまなメッセージが含まれた童話になっています。
とくに、ひいひいおばあさまのアイリーンさまの存在。彼女は見える人には見え、見えない人には見えないという超自然的な存在として登場します。
「世の中はこういうもの」と言う固定観念で生きている乳母たちには見えないし、不思議なものや見たこともないものをすんなり受け入れられるアイリーン姫さまにはありありと見えるという存在なのです。
彼女が手助けしてくれることで圧倒的に不利だった人間側は、その危機を逆転することができました。
ジョージ・マクドナルドは男性ですが、彼の作品に女性ファンが多いのは、おそらく、わかりやすい正義と悪で物事が動いているのではなく、信頼や思いやりなどを軸にして、ゆらぎやすい人間の心やつながりを描いているからだと思います。
人の心は揺らぎやすく、もろい。しかし、柔軟な強さもあるのです。
心の柔軟さは、時に揺らぎやすさやもろさになりますが、しなやかな強さにもなりえるのです。
周囲から守られ、幼く弱い存在のアイリーン姫ですが、このお姫さまが全員の危機を救ってしまうくらいの強さを発揮するとき、弱さと強さ、短所と長所は表裏一体なんだなと思わせられます。
心が疲れて、なんだか美しいものを見たり感じたりしたいなあ、と言うとき、マクドナルドの童話を。岩波少年文庫版は、日本語も美しく、古風な表現が好きな方にはおすすめです。今風のイラストがお好きな方は、角川版をどうぞ。
ありがたいことに、どちらの版も電子書籍版もありますよ!
「お姫さまとゴブリンの物語」は続編もあります。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はほとんどありません。むしろ、HSP向けの小説です。HSCのお子様にもおすすめです。哲学よりも感受性寄りの物語です。香りのいい紅茶や、ハーブティなどをお供に、一輪挿しにお花など飾って、休日の午後にお楽しみください。読み聞かせにもおすすめです。
最近のコメント