【大草原の小さな町】長い冬を越えて、大草原の小さな町で暮らす日々。ローラの成長物語。【ローラシリーズ 7】【中学生以上】

2024年2月13日

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大草原の小さな町 ローラ・インガルス・ワイルダー/作 谷口由美子/訳 岩波少年文庫

厳しい冬に備えて、町に移ってきたローラたち。メアリーは大学に、ローラは学校に通い、町での生活が始まります。町は成長し、コミュニティを築きつつありました。ローラは、少しずつ成長してゆきます。

この本のイメージ  コミュニティとは☆☆☆☆ 歴史を知る☆☆☆☆☆ 生きる力☆☆☆☆☆

大草原の小さな町 ローラ・インガルス・ワイルダー/作 谷口由美子/訳 岩波少年文庫

 これは、ローラ・インガルス・ワイルダーの7冊目の著書です。
 現代になって、さまざまと物議をかもしている問題も含まれている巻です。しかし、読むことが出来ないよりも、できるだけそのままの状態で読むことができ、歴史を知ることができるのは、かえってよいことのように思います。

この本の初版は1941年とあり、著者ローラの人生と照らし合わせるとだいたい1880年頃の物語です。
 日本人のわたしにはアメリカの歴史はあまりなじみがありません。ですから、様々な物語を読みながらその歩みを知ることができるのは、まさに「本」の力だと思います。本が読めるってありがたいことですね。

 ローラの物語シリーズは、アメリカが育っていく時代の光の部分である、「生きる力」のようなものが学べますし、様々な人種が共存してきた国の、影の部分はマーク・トウェインが子どもにもわかりやすい形で物語として残してくれています

 これは日本でもそうなのですが、現代に作られる時代ものはどうしても「政治的に正しく」する必要があるので、本来の史実からはかけ離れてゆく傾向があります。それは「エンタメ作品」としては正しいし、誰もが楽しめる娯楽作品としてはそうすべきなのですが、歴史的には正しくない部分もあり、いまなお難しい問題が横たわります。

 しかし、昔から残る「古典」は大切なことがたくさん詰まっています。できれば解説をつけた上で、ありのまま残してほしいなあ、と常々思っているのです。

 アメリカの成り立ちって、墾田永年私財法だったんですね。やっぱり荒地に領土を拡張していくためにはこの方法が合理的なのかしら。どこでもやることなんですね。

 さて、それぞれが自分の農地を耕して生活を確立させようと頑張っていた時代、「町で働く」と言うのは、どちらかというと「副業」でした。農地での収穫は自然が相手ですから安定しませんし、旱魃や虫害が続くことあります。自分の家の収穫だけで生きてゆければよいのですが、なかなかそうはいかないので、家族の誰かが町に出て働くわけです。

 面白いなと思うのは、この時代の人たちにとっては、自分の農地の世話が「本業」なので、「町で働いてお給料をもらっているうちはまだまだ一人前じゃない」みたいな感覚があることなんですよ。もちろん、町の人には町の人のプライドがあります。
 でも、開拓時代のアメリカの主役は農家なんですね。

 で、「本業」の仕事と言うのは、雇われているわけではないので、お金になるとは限らないことばかりです。農作物をブラックバードやイナゴから守ったり、冬に雪かきしたり、雨漏りする屋根を修繕したり、井戸を掘ったり、暖炉やストーブのための薪を拾ったり、干草を集めたり。

 これらは、全部、自分の農地のため、生活のための「仕事」ですから、「他人からお金をもらう事はできない」仕事です。けれども、この時代の人たちにとって、まずこの仕事がいちばん大切なわけです。

 人類は、本当に遠くに来てしまったんだなと思います。今、しばしば問題になる、「主婦業は仕事か否か」と言う問題と通じるところがありますが、150年前は男も女も「家を維持する」行為は全部「仕事」だったのです。
 ですから、もちろん、主婦が食事を作ることや保存食を作ること、家族の着物を縫うことや、つくろいもの、小さな小物を作ることなど、全部、あたりまえに「必要な仕事」でした。なにしろ、この時代はパンも自宅で焼いてたわけですから。

 今では、逆ですよね。外で雇われてお金をいただく行為だけが「仕事」で、それ以外は「仕事じゃない」。だから、「仕事」で得たお金で、草むしりや雪かきを業者に頼んだり、お弁当屋さんからお弁当を買ったり、掃除屋さんに掃除してもらったりする。

 こういう考え方は、ごく最近の、せいぜいここ40年くらいの価値観なんだ、と思い至りました。
 よくよく考えたら「働いている」とか「働いていない」とか、「仕事だ」とか「仕事じゃない」とか、あまりにもナンセンスだし、問題にするには小さすぎる。これは、21世紀の今、大草原シリーズを読んだわたしの最大の収穫です。

 ローラがまだ幼かったころ、目の届くところに他の家があると「人が多すぎる」と言って引っ越していたローラの父、チャールズ・インガルスは、いまやコミュニティのまとめ役になっていました。

 ローラは学校に行き、様々な人たちと、いいことも悪いことも経験して、成長していきます。
 物語の中で、学級崩壊みたいなことも起きるのですが、昔も今もトラブルの本質は同じなんですね。そんな時、ローラの人間性は信じ、過ちは指摘するお父さんは、やっぱり理想の父親像だと思います。(今は逆が多いように思います。「こういう事をしでかす人間の本性はこうなんだ」と言う理屈です。これをやりはじめたらきりがない)

 15歳のローラは、アルマンゾと出会い、馬車で家に送ってもらったりして、少しずつ親しくなります。お母さんは「まだ15歳なのに!」と心配しますが、ローラはアルマンゾの馬のことしか頭になく「素敵な馬の馬車に乗れた!」と大喜びなのが、なんとも可愛らしい。

 この巻では一箇所だけ、気になるところとして、町の大人たちがコミュニティの娯楽を自分たちでつくるために演芸会を行う場面で、顔を黒く塗って黒人の真似をするショーを行うシーンがあります。

 おそらく、当時ローラが住んでいた田舎の小さな町では、実際にこういうショーが流行っていたのでしょう。この部分だけは、お子様が読む場合は説明が必要です。

 ただ、それさえ説明すれば、当時のアメリカの様子がよくわかり、そして、大自然に立ち向かって生きてゆく人たちのたくましさを感じることができる作品です。

 ローラ自身だけでなく、「町」そのものが育っていく過程が興味深いです。大自然の脅威にくじけそうな気持ちになることがある今だからこそ、読みたい物語です。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 白人が黒人の真似をしてショーをする、いわゆる「ブラックフェイス」の場面があります。お子様が読む場合は説明をしてさしあげてください。それ以外は、ネガティブな部分はほとんどありません。盲目のメアリーは大学に行くことができますし、ローラは成長して優秀な成績をおさめることができます。15歳のローラがアルマンゾ(実は年齢を3歳ほど多くさばよんでいる)と出会い、だんだん親しくなってゆく様子もさわやかです。

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