【ランサム・サーガ】本気で遊ぶ「冒険ごっこ」。子ども心はずむ、湖と無人島の夏休み。【ツバメ号とアマゾン号】【小学校高学年以上】
ジョン、スーザン、ティティ、ロジャの、ウォーカー四きょうだいは、夏休み、小さな帆走船ツバメ号を操り、子どもたちだけで湖の無人島でキャンプすることになりました。わくわくの休暇の始まりです。でも、実はその無人島には、先客がいたようで…… 船と子どもと冒険と。心躍るランサムの世界、シリーズ第一巻です!
この本のイメージ 帆走船☆☆☆☆☆ キャンプ☆☆☆☆☆ 本気の「ごっこ」遊び☆☆☆☆☆
ツバメ号とアマゾン号 上下 ランサム・サーガ 1 アーサー・ランサム/作 神宮輝夫/訳 岩波少年文庫
夏です!
今年の夏は、おでかけできない夏ですが、心だけはいくらでも大自然へと旅に出ることができます。
夏になったらご紹介しようと思っていた作品が、これ。
大好きな児童文学、「ランサム・サーガ」です。
これ、ながいこと宮崎駿監督で映画化してほしいと思っていたんですよね。たぶん、もう実現は難しいとは思いますが、いまでも私の頭の中では、読みながらときどきジブリ絵で再生されます。
わたしは、もともとそんなに身体が頑丈なほうではなく、山登りやキャンプがばりばりできます!という人ではありません。実際には体力的に船にも乗れません。そんなわたしが子どもの頃むさぼるように読んだ本です。
「ランサム・サーガ」は、子どもたちと帆船と冒険をテーマにしたシリーズで、「ツバメ号とアマゾン号」はその第一巻。昔は「アーサー・ランサム全集」という、分厚い本のシリーズが出版されていました。(本の装丁も、帆走船が並んでいてかわいいのです)
ウォーカーきょうだいの登場する話は、とにかくお気に入りで、何度も読みました。
頼りになるジョン、しっかりもののスーザン、繊細だけど行動的なティティ、やんちゃなロジャ。そして、魅力的なブラケット姉妹、ナンシイとペギイ。
とくに、女の子はみんなナンシイのファンになったんじゃないでしょうか。「ワンピース」のルフィをそのまんま女の子にしたような、快活で頼りになる姐さんです。(誰もが覚えている名シーンですが、寝ていたナンシイが雨が降り始めたと気づき、がば!と跳ね起きたかと思ったら、急いで薪の束をテントに入れ、その後はぐうぐう寝てしまうところなど、素敵すぎる。そうです、薪さえ乾いていれば、なんとでもなるのです)
彼らが、夏休み、大きな湖に浮かぶ無人島で、本気の「ごっこ遊び」をします。
子どもたちだけで帆走船を操り、子どもたちだけで無人島にテントを張り、子どもたちだけで竈を作り、釣りをし、料理をし、生活します。それが、たいへん細かく、リアルに描かれているのです。
自作の白地図を作り、大きな湖と無人島の随所に自分たちだけの名前をつけたり、ジンジャーエールやレモネードを「ラム酒」と呼んでみたり、大人たち(「冒険ごっこ」に参加しない人)を「原住民」と呼んでみたりして、「日常」と「非日常」の住み分けをして遊ぶのは、なかなか本気の「冒険ごっこ」。レジャーキャンプとはちょっと違います。
親たちもほったらかしにしているわけではなく、実にいい距離で子どもたちのことを気に掛けてサポートしており、こんな素敵な両親だからこそ、こんなにまっすぐて誠実な子どもたちが育ったんだなと、心から納得できるのです。
また、子どもたちの繊細な心のひだも丁寧に描かれており、彼らが子どもたち同士だけの「冒険ごっこ」を楽しみつつも、その「ごっこ」世界と現実の折り合いをどうつけてゆくか、真面目に考えているところも描かれています。
こういうところは、大人になったら忘れがちなのに、著者は大人になっても子どもの頃どう感じていたのかを覚えていたんですねえ。
とくに繊細で考え込むたちのティティが、自分たちの「冒険ごっこ」のルールと、大人たちの社会のルールの間で、なんとか折りあいをつけようと悩むシーンは、子ども時代独特の誠実さが伝わってきます。
濡れ衣を着せられて落ち込んだジョンが、無人島を泳いで一周することで気持ちを静めたシーンは、ファンならだれでも心に残っている名場面ですが、わたしは、ティティがジムおじさんからお礼を言われた後にひとりで船の舵をとるところが好きです。
ティティは一見、夢見がちな不思議ちゃん扱いされそうなところがあるのですが、とても繊細で考え深い子どもなのです。彼女は、ずっと自分が主張してきて誰も信じてくれなかったことを自力で証明してみせました。
その結果、助けてあげた人からは「ありがとう」とは言ってもらえたのですが、誰も「信じなくてごめんね」とは言いませんでした。
ティティがモヤモヤしていたのは、そこだったんじゃないでしょうか。でも、それを詳しく書かず、ただしばらく彼女が1人でツバメ号を操る時間だけを淡々と描いているのです。
ランサム作品の魅力は、こういう「全部は書かない」ところにあります。
子どもたちはみな、それぞれの頭で、一生懸命考え、判断し、行動します。その結果、うまくいくこともあるし、失敗することもあります。でも、彼らの心にはいつも深い海があって、大人が想像もつかないほど、様々なことを考え、思いやり、想いあっているのです。
子どもは大人が考えているほどばかじゃない。でも、それをいちいちクドクドとは説明しません。だって当然のことでしょ?
そんな感じなのです。
内向的でインドアな方にも、アウトドア大好きでふだんは読書しない方にも、とにかく大人でも子どもでも、子ども心がある人にはどなたにもおすすめします。
そうそう、作中では「宝島」と「ロビンソン・クルーソー」については「当然、読んでるよね!」くらいの勢いで語られているので、少なくとも「宝島」は事前に読んでいただきたいです。面白さが二倍になります。
ちょっと不自由な夏ですが、心は冒険の旅に出かけましょう!
読んでいるだけで、さわやかな風を感じる小説です。
※ちょっと奥さん!イギリスで映画になってたみたいですよ!なんと言う事でしょう。最後にリンクしておきます。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はいっさいありません。内向的でインドア志向のお子さまにも、やんちゃで外遊びが好きなお子さまにも、ゲームや漫画の冒険ものが好きなお子さまにも、どなたにもおすすめの冒険物語です。
作中のキャンプ料理がとにかくおいしそうなので、読後は、家でキャンプ風の料理を食べると楽しいかもしれません。
イギリスのお話なので、キャンプ中でもお茶の時間だけはしっかりとってるところもさすがです。
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