【E.ネズビット】本当の気高さとは?あのJ.K.ローリングがこよなく愛した、孤独な少年が幸せを探すタイムトラベルファンタジー。【ディッキーの幸運】【小学校高学年以上】

2024年2月12日

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ディッキーの幸運 E.ネズビット/作 井辻朱美・永島憲江/訳 東京創元社

ディッキーには、両親がいません。血のつながらないおばさんのもとで、貧しい暮らしをしていました。友達は、赤ちゃんのときから持っている小さなガラガラだけ。ある日、たまたま種屋で手に入れた種を庭に蒔いたら、不思議な美しい花が咲きました。そのときからディッキーの運命は転がり始めたのです……

この本のイメージ タイムファンタジー☆☆☆☆☆ 幸運☆☆☆☆ 気高さとは☆☆☆☆☆

ディッキーの幸運 E.ネズビット/作 井辻朱美・永島憲江/訳 東京創元社

<E.ネズビット>
イーディス・ネズビット(Edith Nesbit, 1858年8月15日 – 1924年5月4日)イギリスの小説家、詩人。E・ネズビットの名義で多くの児童文学を書き、多くのファンタジー作家に影響を与える。代表作は「砂の妖精」三部作。

 「アーデン城の宝物」の続編です。「ディッキーの幸運」を先に読んでしまうと、いろいろネタバレがあってつまらないので、必ず、こちらを先にお読みください。

 ネズビットお得意のタイムファンタジーですが、お話はパズルのように入り組んでいて、複雑です。
 けれど、「アーデン城の宝物」より数段面白く、続けて読むと間違いなく感動するので、とにかく、「ディッキーの幸運」を読むためにもまず「アーデン城の宝物」をお読みいただきたいのです!

 さて、あらすじは……

不思議な少年、ディッキー

 ディッキー・ハーディングは、血のつながらないおばさんと貧しい暮らしをしていました。

 けれど、素直なディッキーは、与えられた環境で頑張って生きていました。彼には、出会った人がなんとなく彼によくしてあげたいと考えてしまう不思議な魅力がありました。例外は、彼のいじわるなおばさんだけでした。

 だから、彼は一見不運に見舞われたようなことも、幸運に変えてしまうのです。

 種屋で間違って買った種からは、見たこともない美しい花が咲きました。その花を質屋に持っていったら、質屋はおばさんが勝手に質に入れたディッキーのガラガラを返してくれ、そのうえ何冊か本もくれました。

 迷子になった先で、うさんくさいおじさんに誘拐のようにさらわれましたが、一緒に旅するうちにいろんな人にかわいがられて、家にいるときよりずっといいものを食べられるようになりました。

 騙されて泥棒の片棒を担がされたときは、忍び込んだ先のレディに捕まったものの、気に入られ、養子にならないかと提案されます。

 そんなふうに、だんだんとディッキーの身の上は幸せになっていくのです。トラブルと謎を抱えながら……

タイムトラベルの魔法

 あるとき、ディッキーは、彼が蒔いた種から咲いた美しい花、ムーンフラワーの種とディッキーのガラガラを、魔方陣のように並べていました。

 ところが、それが何かの合図になったらしく、ディッキーは見たこともない世界に来ていたのです。そこでは、ディッキーの足は健康で、身体も丈夫で、そして、彼はお城のご子息でした。

 文明的には100年ほど前のようです。

 でも、ディッキーには、貧しい家で暮らしていたときの記憶も、ビールおじさんと貧乏旅行をした記憶もあるのです。あれは夢だったのでしょうか?

 しばらくお屋敷のご子息として、幸せな日々をすごしたディッキーでしたが、ビールおじさんと待ち合わせをしていたことを思い出し、帰りたいと思うようになります。
 そして、そう強く願ったとき、目が覚めたら、種とガラガラの魔方陣のそばでディッキーは目が覚めました。時間はほとんど経っていませんでした。

 いったい、どっちが夢なのでしょう?

ここからネタバレ 平気な方だけクリック

二つの世界を行き来する

 ディッキーはふたつの世界を行き来しながら、エルフリダとエドレットのきょうだいと仲良くなります。そう、彼は、「アーデン城の宝物」で登場した、あの謎めいたリチャードだったのです。

 仲良し三人組となった、ディッキーたちは、アーデン城の宝物を一緒に探し出し、アーデン城や周囲の人たちを助けようと決心します。

 もちろん、不思議な白いモグラ、モルディワープも出てきます。
 それどころか、モルディヤーワープ、モルディエストワープの三兄弟(?)だったことがわかり(三段活用かよ!)びっくり。
 モルディヤーワープとモルディエストワープは、モルディワープよりずっと強力な魔力を持つらしいのです……

 三人は、このモグラたちの力を借りようとします。

 これで、ふたつのお話がしっかりとつながりました。「アーデン城の宝物」で未回収だった伏線の回収が始まります。
 このまま、ごくふつうのハッピーエンドになってもよかったのですが……

気高さとは何か

 この後は、「本当の気高さとは何か」と言うお話になって行きます。
 まず、エドレットが試されます。そして、次にエドレットのお父さんが、そして、最後にディッキーが試され、そして選択します。

 人が何かに立ち向かう姿は美しい。そして、それは、自分の損得を捨てて、あえて損になるけれど気高い道を選んだときに発せられる美なのだ、と著者は語りたいのかもしれません。

 エドレットも、エドレットのお父さんも、ディッキーも、それぞれの選択のときに常に、誇り高き「アーデン卿であろう」とします。徹底的に誠実であろうとするのです。

 ラストはちょっとせつないハッピーエンド。でも、みんな幸せになります。
 もしかしたら、著者はさらにこの続編も書くつもりだったかもしれません。彼らの物語は、もしかしたらまだ続くかも、と言う余韻があります。とはいえ、100年以上前の話なので、残念ながらここで終わっちゃってるんですけどね。

 誠実さ、正直さ、人助け、優しさ、愛情、そういったものについては日本の物語でも読むことができますが、「気高さ」について書かれた童話や児童小説はあまりありません。

「ディッキーの幸運」は、読んでいる人に、「気高さ」について問いかけます。そして、その気高さが幸運を引き寄せるのだ、と語りかけてくるようです。

 薄汚れた路地の奥の小さな家で、いじわるなおばさんと暮らしていた貧しい少年が、タイムトラベルを繰り返しながら、気高い少年に成長してゆくお話です。彼が成長する過程で魔法が介在しますが、シンデレラとかとはまったく違う、読めば納得のサクセスストーリー。

 そして、ファンタジーならではの、展開と結末です。

 読んで後悔なしの名作です。「ハリー・ポッター」のJ.K.ローリングがこよなく愛したネズビットの不思議物語をぜひお楽しみください。

 ※現在入手困難ですが、中古か、電子書籍なら読めます。購入が難しい場合は図書館か、電子書籍でお求めください。また、 Kindle Unlimited に登録すると、無料で読むことが出来ます。すごくいい本なので、出版社様、重版してください!

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繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はほぼありません。ちょっとだけ中世の乱闘シーンがありますが、それだけです。登場する子どもたちがみんな、すがすがしく、純粋で心が洗われます。HSPやHSCのほうがたくさんの事を感じ取れると思います。
 お茶のシーンがとてもおいしそうなので、読み終わったときのために英国紅茶とビスケットなどをご用意くださいね。

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