【ウエズレーの国】文明の誕生?はみ出し少年の、夏休みの自由研究は……? 摩訶不思議な絵本。【9歳 10歳】

2024年2月12日

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ウエズレーの国 ポール・フライシュマン/作 ケビン・ホークス/絵 千葉茂樹/訳 あすなろ書房

ウエズレーはピザやコーラ、サッカーは大嫌い。みんなと同じ服や髪型にもしない、ちょっとはみ出した男の子。そんなウェズレーの家の庭に、ある日、不思議な種が降ってきた。

この本のイメージ マイペース☆☆☆☆☆ 不思議☆☆☆☆☆ 文明の誕生☆☆☆☆☆

ウエズレーの国 ポール・フライシュマン/作 ケビン・ホークス/絵 千葉茂樹/訳 あすなろ書房

<ポール・フライシュマン>
アメリカの児童文学作家。シド・フライシュマンの息子。テーマは歴史・音楽・自然科学、形式は詩からサスペンスものまでを書き分け、も娯楽的な幼年向け作品からシリアスなヤング・アダルトまでを書き分ける。「種をまく人」など。

 誰もが同じ趣味、同じ服、同じ髪型のその町で、ウエズレーは、みんなと同じになれない、はみ出した男の子。仲良しの友達は、いない。ちょっかい出してくるやつはいるけれど。


 でも、逃げるのは得意だから、怪我はしない。そんな子が、ウエズレー。

 夏休みの自由研究に、ウエズレーは「自分だけの文明」を作る、という壮大な計画を立てます。

 その夜、ウエズレーが耕した庭に、風に乗って不思議な種が舞い降りてきます。

 それは、誰も見たことがない、不思議な草でした。その草は、どんどん大きくなり、花が咲き、実がなります。その実は甘く、根っこはお芋のようにおいしく、種からは油が取れました。

 草の繊維は丈夫でやわらかく、ウエズレーは、それで服を作りました。また、草を編み合わせて寝床を作ったり、新しい遊びを考え付いたり、いろんなものに自分だけの名前をつけたり、新しい文字を作ったり。
 ウエズレーは、自分の庭を「ウエズランディア」と名づけました。

 面白そうだと思った近所の子たちが、ウエズレーの「新しい文明」ごっこにどんどん参加するようになります。

 そして、夏休みが終わり、新学期がはじまるころ、ウエズレーは一人ぼっちではなくなっていたのです。

 この本は、小さな子どもも大きな子どもも、そして、大人も楽しめる、貴重な絵本です。様々な年齢の人が、それぞれの視点で面白さを発見できます。

 子どもの気持ちで読むと、「新しい国」を作りあげたウエズレーの空想力にわくわくし、自分も「自分だけの国をつくりたい」とノートに地図を書きたくなるでしょう。

 大人の気持ちで読むと、「流行に乗る」人たちと、「流行を作り出す」人の物語だと思うかもしれません。
 ウエズレーは、他人の作った流行には参加できない子どもでしたが、短い夏休み中に、あっという間に自分だけの文化を作り出し、周囲の人を巻き込んでしまいました。

 ウエズレーはみんなの「輪」の中に入れないはみ出し者だったのに、いつしかウエズレー自身がみんなが入る「輪」を生み出していたというのが、なんとも痛快です。

 「空気が読めない」なら、「空気を生み出せ」と言う、パワフルな解決方法の提示を感じます。

 もちろん、現実にはこんなに都合よく、万能な植物の種は降ってこないのかもしれません。でも、この不思議な植物は、ウエズレーが「自分だけの文明を作りたい!」と強く願ったときに、降ってきたのです。

 つまり、ウエズレーが「自分の文明を作ろう」と思わなければ、この植物は、ただのデカい花が咲く不思議な植物のままで終わっていたのです。この植物を、「新しい文明」にまでしたのはウエズレーなのです。

 もしかしたら、わたしたちもウエズレーのような強い想いや、創意工夫や、なんでも面白がれる気持ちがあれば、こんなふうにすばらしい「世界」が生み出せるのかもしれません。
 そして、かつてのいじめっ子に、新しい遊びを根気よく教えてあげるくらいの広い心があれば。

 たくさんのことを教えてくれる、奇妙な雰囲気いっぱいの不思議絵本です。
 ウエズレーなら、この先どんな困難も、独創的な方法で解決していきそうじゃないですか。そして、これからは、きっとそんな時代なのです。

 今年の夏は、おでかけできない奇妙な夏ですが、親子で絵本を読んで、空想の世界に旅するのも楽しそうです。

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