【ランサム・サーガ】難破をどう乗り越える?本気で遊ぶ二年目の「冒険ごっこ」。山と渓谷の夏休み【ツバメの谷】【小学校高学年以上】

2024年2月12日

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ツバメの谷 上下  ランサム・サーガ 2  アーサー・ランサム/作 神宮輝夫/訳 岩波少年文庫

ナンシイたちと知りあってから二年目の夏、ウォーカーきょうだいは大好きな湖水地方にやってきました。ところが、ブラケット姉妹は、マリア大おばさまのせいで、冒険を禁止されてしまいます。おまけに、ジョンはツバメ号を座礁させてしまい……

この本のイメージ 難破☆☆☆☆☆ 遭難☆☆☆☆☆ 渓谷☆☆☆☆☆

ツバメの谷 上下  ランサム・サーガ 2  アーサー・ランサム/作 神宮輝夫/訳 岩波少年文庫

 「ツバメ号とアマゾン号」から一年が経ち、ウォーカーきょうだいは、再び湖水地方に夏休みをすごしにやってきました。
 ところが、ナンシイたちは、まだヤマネコ島に到着していません。じつは、ナンシイの家には、おそろしいマリア大おばさまが滞在していて、彼女たちの自由を奪っていたのです。

 なんとかジョンたちに合流できたナンシイたちブラケット姉妹でしたが、そんなとき、ジョンは些細なミスで、大切なツバメ号を座礁させてしまいます。せっかくの夏休み、ジョンたちはどうなるのでしょうか。

 思い通りにゆかない時にどうするか

 ジョンは自分の些細な判断ミスで、帆走船ツバメ号を座礁させてしまいます。
 また、ナンシイとペギイのブラケット姉妹は、しつけとマナーに厳しいマリア大おばさまの襲来により、楽しい「冒険ごっこ」を全部禁止されています。この大おばさま、なんとナンシイたちのママが逆らえないだけでなく、フリント船長ことナンシイたちのジムおじさんも太刀打ちできないくらいのキョーレツなおばあさまなのです。

 そして、物語中盤では、登山の帰り道、ティティとロジャは霧にまかれて遭難してしまいます。
 ティティたちがはぐれたと知って、ショックをうけるスーザン。

 それぞれが、困難に立ち向かうお話です。

 ツバメ号が座礁した後、責任感の強いジョンを励ますナンシイやフリント船長の発言がかっこいい。

 「でもね、」とナンシイがいった。「あなたたちはツバメ号を引き上げたのよ。だいじなのはそこ。」(上巻p144)

 「賢明な解決法は、ただ一つだ。」と、キャプテン・フリントがようやく考えを口にした。
「君たちは難破したんだ。難破水夫でいたらいいじゃないか? うち上げられたところにいて、船が直って海に出られるようになるまで、それを最大限に活用するんだよ。」(上巻p152)

 実際、ジョンは座礁した瞬間からは冷静な判断で乗組員を泳いで避難させ、船が沈んだ後すぐに引き上げられるように急いで碇を投げ下ろしました。碇のロープはふだんから正しく巻かれていたため、からまることなく下りました。
 フリント船長が合流するまでに、荷物はほとんど引き上げることができましたし、失敗のリカバリーとしては、満点に近かったのです。

 けれど、責任感が強いジョンは、それでも自分を責めて落ち込んでいました。
 そこに、かけられたのが上記の言葉です。この一族はメンタルが強い!

 とくに、キャプテン・フリントことジムおじさんのアドバイスは、すばらしい。難破したんだったら、そのシチュエーションを楽しめよ、それが冒険だろ? ってことです。

新しいキャンプ地の発見

 このアドバイスで、ジョン以外は新しい「冒険ごっこ」をはじめます。
 ティティとロジャの年下組は、陸地を探検しているうちに、美しい渓谷を発見し、「ツバメの谷」と名づけます。
 難破水夫たちの新しいキャンプ地が決まりました。

 そして、まだまだ落ち込みが続くジョンには、フリント船長が「新しいツバメ号のマストを一緒に作ろう」と丸太と大工道具を運んでやってきます。

 マストは、ツバメ号を修理に出している船大工さんにつくってもらってもいいんです。けれど、おそらく、ジョンが座礁のショックを乗り越えるためには、相応の時間が必要だと思ったんでしょう。その時間を、二人で一緒にマストを作ってすごそうと考えてくれたフリント船長の心遣い。

 でも、「一緒にやろうよ、これで元気出せよ」みたいなことは言わないんです。こういうところを詳しく書かないのがランサム作品の魅力です。

 ちょっと元気のないジョンのかわりに、しっかりものの長女スーザンががんばります。スーザン航海士の作るお料理はみんなものすごくおいしそう。

 「一つ言っておきたいのは、」と、キャプテン・フリントがしめくくった。「君たちの航海士ほど思慮深い航海士はいないってことだ。ビレーピンで若い水夫の頭をなぐりながらどなってまわる航海士は山ほどいるが、たき火をもやしつけ、ロープで物干しをつくって、乗組員ぜんぶの服をかわかしにかかる分別をもった航海士など、千人に一人もいない。ところで、航海士君、船長が着るものは今どんなぐあいだろう?」(上巻p160)

 そんなしっかりもののスーザンも、物語後半でロジャたちが遭難したかもしれないと知ると真っ青になります。こういうとき、大人があてにしているのは兄のジョンではなく、長女の自分だと自覚しているからです。

アクシデントを楽しんで

 今回のお話では、それぞれが全員、予想通り予定通りにはならないことの連続で、それぞれががっかりしたり、落ち込んだり、いらいらしたり、怒ったりします。けれど、最終的に、みんなはそれを全部「冒険」にしてしまいます。

 なにもかもが思い通りになることなんてないし、それじゃあつまらない。

 思い通りにならないなら、それを楽しんじゃおう。

 ウォーカーきょうだいとブラケット姉妹の「冒険」は、「ごっこ」だけど、どこまでも真剣なのです。その真剣な冒険に付き合ってくれるキャプテン・フリント、ウォーカー夫人、ブラケット夫人の大人たち。

 去年は、ただの「子どもたちの保護者同士」だったウォーカー夫人とブラケット夫人のあいだにも、今年は固い友情がむすばれました。困難は人を結束させるのです。

  今年の夏は、自由におでかけ出来ない夏ですが、いろんな問題が片付くときはきっとやって来ます。
 だから、つらいこと、めんどくさいこと、うっとおしいこと、それら全部を「冒険」だと思って楽しんでしまいましょう。

 「ツバメの谷」は、そんなことを教えてくれる物語です。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はほとんどありません。少年少女のさわやかな夏休みの冒険物語です。ちなみに恋愛要素はゼロです。とにかく、ナンシイとペギイがすがすがしい。
 イギリスの物語らしく、お茶や食事のシーンがおいしそうなので、濃い紅茶やマーマレードつきパン、ビスケットなどをご用意くださいね。

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