【みどりのゆび】不思議な指を持つ少年の美しい物語【小学校中学年以上】
裕福に暮らすチト少年は、自分が不思議な「みどりのゆび」を持っていると気づき、町中に花を咲かせます。チトって、いったい、誰だったのでしょうか。
この本のイメージ 美しい☆☆☆☆☆ やさしい☆☆☆☆☆ はかない☆☆☆
みどりのゆび モーリス・ドリュオン/作 安東次郎/訳 岩波少年文庫
<モーリス・ドリュオン>
フランスのパリ出身の作家。ゴンクール賞を受けた『大家族』で始まる、すぐれた三部作『人間の終末』が有名。
フランスの童話って、「星の王子様」など、美しいけれど少し儚い、哀愁が漂うイメージがあります。ハッピーエンドのような、そうでないような……でも、心には美しいものがたくさん残る。これも、そんなお話です。
チトは裕福な家に生まれた男の子で、お父さんお母さんに愛されて育ちました。
けれど、学校に行くと居眠りばかり。教室で学ぶにはむいていない子どもだったので、学校に通うのはやめてしまい、家でさまざまな人からさまざまなことを学ぶことにしました。
チトがいちばん得意だったのは園芸でした。
なぜなら、チトには不思議な力があったからです。
チトの親指が祈りをこめて押したところからは、緑の芽がふいて茎が伸び、花が咲くのです。それがあっという間におきるのでした。
その不思議な力で、チトは、次々と奇跡を起こします。
美しい物語です。
ありとあらゆる花々があっという間に咲き乱れる光景は、想像するだけで心が穏やかでやわらかい何かに包まれます。
正直言って、現実はこのように簡単に解決はしません。
そして、この物語は、声高に何かを叫び主張するものとは遠いようにも思えます。読んで、ただしみじみと感じていたい、そんな祈りのような本です。
ずっとずっと、解決しない、永遠のテーマを人類は抱えていて、それについて答えを探し続けています。
そういう物語は、イギリスにも、フランスにも、アメリカにも、日本にも、どんな国にもあって、人の祈りは結局は同じなのではないかとも思います。
大声で何かを叫び、反対して、戦うことで、またはののしりあうことで、ぶつかり合うことで、解決はしないからこそ、チトはまったく違う方法を見せてくれて、そして、駆け抜けるように去ってしまったのかもしれません。
これは、「きれいごと」だと思うことも出来ますし、「理想」や「目指すもの」だと思うことも出来ますし、「希望」や「心の支え」だと思うことも出来ます。
物語が投げかけてくれたものに対して、どう受け止め、どう応えるかは、自由なのです。それが物語のすばらしさです。
この本を読んでも、読まなくてもいいんです。本とは出会うものであり、その人が引き寄せれば、きっと出会うことでしょう。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
感受性の高い方のためのような本です。HSCやHSPの方のほうがたくさんのことを受け取れると思います。これは感じる物語であって、思想を語る物語ではないと思います。美しいものが好きな人、花が好きな人にはおすすめです。
静かな場所で、1人で読むのにふさわしい本です。カモミールティーなど、ハーブティーをお供に、ゆったりとお楽しみください。たまには、お部屋に花を飾るのもいいですね。
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