【プリデイン物語】ブタ飼育補佐の大冒険第3巻。エイロヌイ姫を守れ【小学校中学年以上】

2024年2月15日

プリデイン物語3 タランとリールの城  ロイド・アリグザンダー/作 神宮輝夫/訳 評論社

エイロヌイ王女は、モーナの島のルーズルム王とテレリア王妃に引き取られることになりました。モーナまでエイロヌイ王女を送り届けることになったタランたち。ところが、モーナでは、おそろしい陰謀が進行中でした。死んだはずのあの人が生きていたのです……

この本のイメージ 剣☆☆☆☆☆ 魔法☆☆☆☆☆ でかい猫かわいい☆☆☆☆☆

プリデイン物語3 タランとリールの城  ロイド・アリグザンダー/作 神宮輝夫/訳 評論社

<ロイド・アリグザンダー>
アメリカ合衆国の児童文学作家、ファンタジー作家。
ペンシルベニア州フィラデルフィア出身。フィラデルフィアの教員養成大学を中退し、19歳で第二次世界大戦に従軍。ヨーロッパで戦役を終え除隊した後、パリ大学で学ぶ。1946年に帰国し、翻訳や編集の仕事をしながら小説を執筆。長編ファンタジー『プリデイン物語』シリーズの最初の2冊「タランと角の王」「タランと黒い魔法の釜」は、ディズニーアニメ「コルドロン」(Black Cauldron, 1985年)の原作。(Wikipediaより)

 あのディズニーランドの伝説のアトラクション、「シンデレラ城ミステリーツアー」の原作にもなった「プリデイン物語」の第3巻。今回は、エイロヌイ王女をめぐる冒険です。ディズニーで映画化された1、2巻に比べて、3巻以降は入手が難しいのですが、ぜひお読みいただきたい名作です。お話は、シリーズとして大きな流れがありますが、1巻ずつで完結しています。

※現在は、2巻、4巻、5巻が品切れのようです。重版されるといいですねえ…または電子化……(2021.5.20追記)

 孤児のエイロヌイ王女は、タランたちと一緒に冒険した後、カー・ダルペンで一緒に野原を駆け回って生活していました。しかし、まがりなりにも由緒正しい王家の姫なので、やはりしかるべき王家で育つべきだとダルペンは考え、モーナ島の王ルーズルムと王妃テレリアに預けることにします。

 タランたちは、エイロヌイ王女をモーナの島まで送り届ける旅に出ますが、そのころモーナでは、おそろしい陰謀が進行中でした。それは、エイロヌイ王女の出自に関ることだったのです……

 というのが今回のあらすじ。

 タランとエイロヌイは大人になろうとする年齢にさしかかり、エイロヌイは「貴婦人」となるために教育をうけることになります。作者は、「人はみな成長し変わらねばならない時がくる」とし、それを運命を受け入れて立ち向かうことだとしています。

 それについてのエイロヌイ王女の考え方がまたいいんですけど、それは最後に。

 わたしの大好きなフルダーは今回も登場。フルダーは抜けているようだけど頭がいいし、実はしっかり者なのです。彼の最大の美徳は、三流吟遊詩人として活動しているとき、どんなひどい待遇をうけようとも「実はわたしは……」と言い出さないところ。「ふたつの身分は混同しないようにしている」と言い切るフルダー、ちゃらんぽらんのように見えて一本筋が通っているのです。

 さて、今回のお話では、新キャラとしてルーズルム王の息子、ルーン王子が登場します。
 この子が、なかなかいいキャラなんです。野原を歩いていて、ひとつしかない穴に必ず落ちるタイプっていうか。

 「プリデイン物語」には、ギディオン、エリディルなど、様々な王子が出てきます。ギディオンのように完璧に近い王子もいますが、エリディルのような高慢な王子もいます。ところが、ルーンはひどくとんまな王子で、それを本人も自覚しているのです。

 最初は、エイロヌイ王女とこれから一緒に暮らす予定のルーン王子に反発をおぼえていたタランですが、ルーン王子のあまりの抜け作ぶりに、あきれるを通りこして心配になってきてしまいます。

 でも、一緒に旅を続けるうちに、ルーンはただ能力が足りないだけの、なかなか善良で一生懸命な王子だと、タランたちにもだんだんわかってきます。
そして、ルーン王子をこんなふうにしてしまったのはモーナの環境だったこともわかり、タランのルーンを見る目も変化してゆくのです。

 ルーン王子の最大の美徳は、自分がとんまな王子だとわかっているけれど、「ここは王族ががんばらなくては」と言う場面ではひるまず挑戦するところ。そして、その結果失敗してうまくゆかなくてしょんぼりしたとしても、その「しょんぼり」を過剰に引きずらないところ。タランは部下としてルーンを守らなきゃいけないのですが、ルーンは王子として、彼なりにタランを守ろうとがんばるのです(そしてできない)。

 こういうタイプの人は、一昔前だと「お笑い担当」と言われていたのでしょうけど、令和だと「癒し枠」と言われて愛されます。わたしも大好きなタイプですが、殺伐とした物語の清涼剤になってくれます。

 そして、この物語の中でも、ルーン王子はけっして「お笑い」としては描かれていなくて、愛すべき人間として書かれています。そういう愛情あふれる描き方が、この物語の魅力でもあるのです。

そして、今回の物語の鍵となるエイロヌイ王女は……

ここからネタバレ 平気な方だけクリック

 さいごにエイロヌイ王女は、自分の王女としてのつとめを受け入れ、「若き貴婦人」になる決意をします。
この決意の仕方がかわいくて、「タランのために貴婦人になろう」とかじゃないのが、最高に素敵なんです。

「だから、若い貴婦人になることを習いおぼえなくちゃならないとしたら、それがなんであろうと、貴婦人になれば、成長して変わることよね。」と、エイロヌイは話し続けた。
「だから、わたし、ディナス・リードランドのあのおばかさんたちの二倍のはやさでおぼえちゃって、半分の期間で家に帰る。だって、もう、カー・ダルペンだけが、わたしのほんとうの家なんだから。(引用 p237)

 やらなきゃならないことならやるわよ、でも、履修したら自分のしたいことをしますからね、って宣言してしまう。

 プリデイン物語の第1巻初版は1964年に出版されていますので50年以上前の本です。そういう時代に書かれた、剣と魔法のファンタジーながら、エイロヌイ王女のキャラクターは生き生きとして瑞々しく、けっして後ろに下がってばかりのヒロインでないところも、魅力です。

 タランもエイロヌイ王女も、ルーン王子もまっすぐ。

 これから、タランにはちょっぴり苦しい哲学的な展開も待っているのですが、つねに真正面から突破してゆくさわやかなお話でもあります。正統派の「剣と魔法の物語」、どうぞ、お楽しみください。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はありません。正統派の冒険ファンタジーです。主人公が悩むシーンもありますが、正面突破で解決してゆきます。他のキャラクターも魅力的で、いいやつばかり。老若男女におすすめのファンタジー物語です。
 おいしいお茶を用意して、ゆったりした気持ちでお楽しみください。

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