【アンナの赤いオーバー】実話をもとにした心温まる名作。30年以上愛されるロングセラー絵本。クリスマスプレゼントに。【6歳 7歳】
アンナのオーバーは小さくなってすりきれていました。けれど、戦争が終わったばかりで街には何もありません。お母さんは、アンナのオーバーを手に入れるために、どうしたでしょうか。これは、実話をもとに作られた心温まる物語です。
この本のイメージ 愛☆☆☆☆☆ 創意工夫☆☆☆☆☆ つながり☆☆☆☆☆
アンナの赤いオーバー ハリエット・ジィーフェルト/文 アニタ・ローベル/絵 松川真弓/訳 評論社
<ハリエット・ジィーフェルト>
1941年、アメリカのニュージャージー州に生まれる。幼稚園教諭、出版社勤務をへて作家に。作品多数。
冒頭に、「事実に基づいた本はその生きた材料を提供した人びとに捧げられるのが最もふさわしい」とあり、「インゲボルグ・シュラフト・ホフマン博士と今は亡き彼女の母親━(中略)━ハンナ・シュラフトにこの本を捧げる」(引用)とあります。
どうやら、実話のようです。
どこの国のお話だろうと、調べてみたのですが、はっきりとはわかりませんでした。作家はアメリカの方なのですが物語の舞台はヨーロッパのどこかのようです。作者の方は、実際にこの赤いオーバーを見せていただいたようで、それをもとにして1986年に作られた絵本です。30年以上愛されるロングセラーですね。
第二次世界大戦直後、街には何もありませんでした。お店には品物はなく、着るものも食べ物も売っていません。また、お金(紙幣や貨幣)すら、ありませんでした。
アンナたちも、崩れたおうちのようなところに住んでいて、お父さんはいないようです。
アンナの古いオーバーはもう擦り切れていて、アンナの成長とともに小さくなってしまっていました。新しいオーバーが必要です。けれども、お店に品物はなく、家にもお金がありません。
でも、お母さんはあきらめませんでした。「うちにはお金がない。でも、おじいさんの金時計とか、すてきな物がいろいろあるし、きっとそれでオーバーの材料が手に入る」と言います。
まずおひゃくしょうさんのところへ行き、おじいさんの金時計と羊毛を交換してくれないかと頼みます。
おひゃくしょうさんは快諾。そのかわり、春まで待ってくださいと言われ、アンナは楽しみに春を待ちました。
日曜日は、羊に会いにいき、クリスマスは紙のネックレスとリンゴをプレゼントし、クリスマスキャロルを歌ってあげます。
春になったら羊毛を刈ってもらい、今度は、その羊毛を糸つむぎのおばあさんに、ランプと引き換えに頼みます。
サクランボがじゅくすころにおいで、と言われて夏になって、アンナたちはランプと糸を交換しました。
お母さんとアンナは、夏の終わりに森でコケモモを摘み、その実で糸を赤く染めました。
さて、次は機織(はたおり)です。お母さんは真っ赤な糸とガーネットのネックレスを持って機織の女性の家に行き織ってもらいます。
そして最後は仕立て屋さんに、ティーポットを持って行き、ティーポットと引き換えに仕立ててもらいます。仕立て屋さんはできばえに満足して、しばらくショーウィンドーにそのオーバーを飾りました。
そんなふうにして、アンナのオーバーは、様々な人に助けられて冬に出来上がったのでした。
その年のクリスマス、アンナとお母さんはオーバーを作ってくれた人全員を招待し、ささやかなクリスマスパーティーをします。みんながアンナのオーバーをほめてくれました。
戦時中や戦後、農家に着物を持っていって米と交換してもらったという話は祖母からよく聞いていましたが、どこでもあったことなんですね。アンナの新しいオーバーはできるまでに一年かかりましたが、世界でたった一つの、お金には換えられない宝物になりました。
このお母さんがとにかく偉大です。
お金はなくて、人もいなくて、物もなくて、お店はあっても売るものがない、そんな時代です。
普通の人なら、まずなんとかしてお金を稼いで、そのあと闇市などでオーバーを売ってくれる人をさがして……と考えるはず。(そして、たいていはぼったくりの高値で、誰かの古着なのです)
でも、そうしていたら、たぶんこんな立派なオーバーは手に入らなかったでしょう。なにしろ、純毛で自然染めで、オーダーメイドのお仕立てオーバーです。最高級品ですよ!
いちばん遠回りに見えた道が、いちばん近道だったのです。
お百姓のおじいさんには上等の金時計、糸紡ぎのおばあさんには手元を照らしてくれる上等のランプ、若い機織の女性にはガーネットのネックレス、仕立て屋の主人には上等のティーポット……
それぞれの仕事に携わった人たちが、実は自分の実力を発揮したがっていたこと、そしてお礼としてもらったものが、みんなぴったりでちょうどほしかった物だったことなどから、お母さんが人を思いやることが出来る、そして観察眼のあるかしこい人だとわかります。
ここからはただの想像なんですが、
この人、たぶん戦争で財産を失う前は、働いたこともないようなお嬢さんだった気がするんです。でも、「困ったときに何をすればいいか」きちんと判断できて、そのために躊躇せず前に進める人なんですね。
そして、苦しいときに、どうすれば自分だけでなくみんなが幸せになって、自分自身もほしいものが手に入るのかを考え、計画的に目的にむかってこつこつとがんばることを知っている人です。
「うちにはもう男の人がいないから、この金時計はいらないわね」「わたしたちはまだ若いからランプで手元を照らさなくてもいいわね」「わたしにはこのネックレスは若すぎるからもういらないわね」「うちはもう二人家族だから、こんな大きなティーポットはいらないわね」
そんな感じで、どんどん手放す判断をしていったんだと思います。そして、「ほんとうに必要な方に使っていただきましょう」と考えたのでしょう。そのかわりに、自分たちも「ほんとうに必要なもの」を手に入れる。
クリスマスにはみんなが来てくれて、みんなの前でアンナはオーバーを着て、くるりくるりと回りました。
その場にいた全員が、アンナのオーバーを「自分のオーバー」だと思って、うれしくなったはずです。
……ちょっとこのお母さん、すごくないでしょうか。
このお母さんのしたことって、ただ「オーバーを作った」だけじゃないですよね?
ばらばらに暮らしていた人たちが、アンナのオーバーを作ると言う、ひとつの大事業を成し遂げることで、仕事の達成感と同時に心のつながりを得たのでした。絵本のなかで、おひゃくしょうさんも、糸紡ぎのおばあさんも、機織の女性も、仕立て屋さんにも、家族がいないように描かれています。けれど、最後のシーンでは、その場の全員が「家族のクリスマス」をすごしているような幸せな笑顔なのです。
これこそが、このお母さんが生み出したものではないでしょうか。
クリスマスのプレゼントにぴったりの絵本です。
親子で読み聞かせをしながら、いろいろと想像してたくさんのおしゃべりができます。
小さなお子さまだけでなく、大人の和みタイムにも。
多くのことを教えてくれる絵本です。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はありません。ほのぼのとしたなかに、深い叡智がひそむ物語です。繊細で感受性の高い方のほうが多くのことを読み取れると思います。
もしかしたら、今、学校や職場で苦しい気持ちになっている人にも、なんらかの助けになるかもしれません。
また、下手なビジネス書や自己啓発本などよりも学べる部分もあり、ほんとうにさまざまな角度から得るものがある名作だと思います。
最近のコメント