【クリスマス・キャロル】一度は読みたい、クリスマス物語の不朽の名作。プレゼントにも。【小学校中学年以上】
けちで強欲な商人スクルージのもとに、死んだ共同経営者マーレイの幽霊がやってきます。明日から訪れる三人の幽霊の話をよく聞かないと、スクルージは不幸になるというのでした。そして、マーレイの予言どおり、三人の幽霊は現れ、スクルージに過去、現在、未来を見せるのです。
この本のイメージ 運命☆☆☆☆☆ 選択☆☆☆☆☆ お金の使い方☆☆☆☆☆
クリスマス・キャロル ディケンズ/作 脇明子/訳 岩波少年文庫
<チャールズ・ディケンズ>
チャールズ・ジョン・ハファム・ディケンズ(Charles John Huffam Dickens、 1812年2月7日 – 1870年6月9日)は、ヴィクトリア朝時代を代表するイギリスの小説家。下層階級を主人公とし弱者の視点で社会を諷刺した作品を発表した。代表作は「クリスマス・キャロル」「二都物語」など。
この季節には必読の、「クリスマス・キャロル」。
舞台や映画など、さまざまなコンテンツにもなって語り継がれている、名作中の名作です。
新潮文庫版では「赤毛のアン」で有名な村岡花子訳が出版されています。岩波少年文庫では、「お姫さまとゴブリンの物語」などジョージ・マクドナルド作品の翻訳で名高い脇明子訳。どちらも大好きです。
あらすじは、
けちで強欲で狭量な商人スクルージは、明日がクリスマスという日に、死んでしまった共同経営者マーレイの幽霊の訪問を受けます。
マーレイは死後苦しんでおり、スクルージに明日からやってくる三人の幽霊の訪問を予言します。
そして、マーレイの予言通り、彼は三人の幽霊に、過去、現在、未来の幻を見せられ、大きなショックを受けます。反省したスクルージはいままでの生き方を変えて、新しい自分になることを選ぶ……
というストーリー。
あまりにも有名なので、ダイジェスト版の絵本などであらすじをご存知の方は多いと思います。
スクルージは、もとは心の温かい純真な少年だったのですが、人生でさまざまなことがあって、お金のことしか考えない、けちで強欲な人間になってしまっていたのでした。
不思議なことに「どうしてそうなってしまったのか」は書かれていません。おそらく理由はあるのでしょうが、そこはディケンズにとっては必要がないところだったのでしょう。
理由はわからないけれど、スクルージはすでにお金のこと、商売の損得しか考えない人になってしまっていました。そんな彼を心配してクリスマスおめでとうと言って会いに来る甥、そして、彼の下で働く部下クラチットのことを、彼は心からさげすんでいたのです。つまり、目に見える「利益」意外はくだらないものだと思ってしまっていたわけです。
そんなスクルージに、かつての同類マーレイが、そのままでは死後不幸なことになると忠告に来てくれました。
彼の言う不幸なこととはなんなのでしょうか。それは、死後、重い鎖に縛られ、休みなく時空を引き回され、それでいて、苦しんでいる人たちをみかけても助けてやる力もないことでした。
ここが、この物語のテーマで、この人たちはスクルージに自分たちが物理的な苦痛や、拷問をうけているような光景は見せていないのです。
彼らの苦しみは、「苦しんでいる人をみつけても助けてあげられないこと」。かつては何でも出来るほど力があったのに、いまは苦しんでいる人をみつけても何もしてやれない無力感にさいなまれているのです。
それは、自分の力を正しく使えなかったことに対する後悔であり、かつての同僚スクルージに忠告しに来たマーレイは、おそらく、わずかでもその望み━━大切な誰かを助けること━━を叶えようとしたのでしょう。
その後、訪れる三人の幽霊によって、スクルージは人生においてほんとうに大切なものはなにか、ほんとうに大切にしなければならないのは誰かがわかります。そして、未来を変えるのでした。
スクルージも努力していなかったわけじゃないのです。彼は、がんばってがんばって、がんばって会社を大きくしました。さぼっていたわけではありません。そして、他人に親切にしたり、大切にしたりもしました。仕事でのお付き合いのある地位ある人々や、取引上の重要人物たちなどを、です。けれど、彼らはスクルージが死んでも一滴たりとも涙は流さないし、壊れた部品を付け替えるようにスクルージのいた場所に別の人間を据えただけでした。
スクルージは、努力もしたし、他人に親切にもしましたが、方向を間違っていたのです。
そして、彼のことをほんとうに心配して、気遣ってくれていたのは誰だったかが、幽霊との旅であきらかになってゆきます。自分が変えられるかもしれない未来についても。
こんなに意固地になっても心配してくれる人がいるんですから、スクルージは本来は悪い人ではないのです。じっさい、異常なまでのけちで、ごうつくばりだというだけで、真面目に仕事をしていますし、犯罪で他人のお金を巻き上げているわけじゃないですからね。
そして、かつての経営パートナーが幽霊になってまでも、力を振り絞って忠告に来てくれてるわけですから、友情だって、あったのでしょう。救いようがない大悪人というわけではなかったはず。
この話はスクルージが「なにかをしてもらう」話ではなく、「なにかをしてあげる」話であるのがキモだと思っています。合理的に「だけ」考えたら、「誰かになにかをしてあげる」ことは、なんの利益も生まないからです。
でもマーレイは、それで後悔したのです。
わたしは、最終的にスクルージを目覚めさせたのは、最初のマーレイの忠告が伏線となって三人の幽霊との旅に適切な解説をつけた結果だと思うので、マーレイのしたことは大きな意味があると思います。
あらためて読むと多くの発見があり、やはり名作だと感じました。
19世紀イギリスのクリスマスの様子が生き生きと描かれているので異国情緒を感じることもできますし、だんだん寒くなっているこの季節に、クリスマス気分にひたることもできます。
クリスマスを待ちながら、読み聞かせをするのもおすすめです。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブなシーンはありますが、ダメージを伴うものではありません。ハッピーエンドですし、HSPやHSCの方のほうが多くのものを受け取れると思います。クリスマスにぴったりの小説です。
この季節ならではの、シナモンやジンジャーたっぷりのスパイス紅茶をお供に、ぜひどうぞ。
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