【星からおちた小さな人】コロボックル物語第3巻。コロボックルと人間の子どもの偶然の出会い【コロボックル物語】【小学校中学年以上】

2024年2月28日

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星からおちた小さな人 コロボックル物語  3  佐藤さとる/作 村上勉/絵 講談社

「矢じるしの先っぽの国、コロボックル小国」は、「せいたかさん」との交流によって、めざましい発展を遂げていました。独自の科学技術で空を飛ぶことまでできるようになったコロボックルたちでしたが、思わぬ事件がおきてしまいます。これは、コロボックルたちを騒がせた「ミツバチ事件」のおはなし。

この本のイメージ ファンタジー☆☆☆☆☆ 異文化の出会い☆☆☆☆☆ ほのぼの☆☆☆☆☆

星からおちた小さな人 コロボックル物語 3  佐藤さとる/作 村上勉/絵 講談社

<佐藤さとる>
日本のファンタジー作家。「コロボックル物語」は日本発のファンタジーとして知られる。

 コロボックル物語シリーズの第3巻。今回は、三人称他者視点で書かれています。
 人間の電気技師「せいたかさん」との交流で、独自の文明を急速に発達させたコロボックルたちは、ついに空を飛ぶことに成功します。

 サクランボことサクラノヒコ技師と、ミツバチ坊やことクルミノヒコは飛行テスト中、鳥のもずに襲われ、サクラノヒコを助けようとしたクルミノヒコは墜落してしまいます。(パラシュートくらい作ろうよ!)

 墜落した先にいたのは、人間の少年、おチャ公。おチャ公は突然落ちてきたミツバチ坊やを拾うと、家に連れ帰ります。
 最初は人形だと思っていたけれど、生きているとわかって興奮するおチャ公。きっと宇宙人にちがいないと思ったのです。

 一方、行方不明になったミツバチ坊やを探して必死のコロボックルたち。さて、クルミノヒコはコロボックル小国に戻れるのでしょうか。そして、おチャ公たちとの関係はどうなるの?

 と、言うのが今回のあらすじ。

 1巻の「だれも知らない小さな国」は、人間の「せいたかさん」が、幼いころコロボックルたちに出会い、もう一度どうしても会いたくて、小さな山を買って自分で家を建てるまでしたことで、コロボックルたちと交流がはじまるお話でした。

 今の感覚では信じられないとは思いますが、戦後直後の時代は、自力で簡単なつくりの家を建てる人は多かったのです。それをだんだんに丈夫な家に作り替えていったり、補強したりして暮らしていたので、主人公の行動はありえることでした。

 また、わりとなんでも自分で作る時代だったので、大工仕事や配線工事ができる人も、一般人にたくさんいました。(言うなれば、朝ドラ「まんぷく」の萬平さんみたいな人です)
 大手デパートが生まれるまでは、「完成した服を売っている店」はありませんでした。誰もがお店で布を買って自分で服を作っていました。ですから、上手い下手は関係なく「自分で作ること」が日常的だった時代なのです。

 逆に、普段使いのものは「使えればいい」と言う許容があったので、むやみなクオリティは求められませんでした。「下手な奴はやってはいけない」とも言われなかったので、そういう意味ではいい時代でもあったのです。

 急速な経済成長によって「買ってすませる」時代に移行したので、それ以前の「作って暮らす」時代の物語は、今読むとそれだけで別世界の話を読むような気持ちになります。

 そんな違いはありますが、いきなり見たこともない小さな人間に出会って、驚いたり、困惑したり、秘密にしようとしたり、また、友達に打ち明けようとしたりする、子どもの行動は今とそんなに変わりません。

 この巻では、おチャ公とミツバチ坊やの交流や、行方不明になったミツバチ坊やをさがすコロボックルたち、せいたかさんたち人間の活躍などが生き生きと描かれています。

 とくに、今回はせいたかさん・ママ先生夫婦の娘、おチャメちゃんと、コロボックルの少女オハナちゃんが大活躍。
 ふたりとも、とても思慮深く、そして勇気と行動力があり、みんなのことを考えて行動してくれる、頼もしい少女たちでした。

 彼女たちのおかげで、あわやという問題が片付き、ほのぼのとしたハッピーエンドへ流れてゆきます。

 自分たちとはまったく違う知らない文明同士が出会い、わかりあって交流してゆく過程が丁寧に描かれており、最終的に誰も悪者になることなく気持ちよく収まるところに収まっています。

 書かれた時代を考えても、「現実もこうであればいいのに」と言う願いを込めて書かれたのだと思います。辛い時代の直後という設定ですが、古き良き、ほのぼのとした優しい雰囲気に包まれている物語でもあります。

 今読むと、古風な雰囲気も漂うお話ですが、若い人が書いた和風ファンタジーとは違う、独特のレトロ感が魅力です。
 実際は、初版当時は最先端を描いたはず。たぶん、昔はSFとファンタジーの融合したイメージの物語として読まれていたんでしょうね。今は、レトロファンタジーですけれど。時代を超えるとはこういうことなのかもしれません。感慨深いです。

 小さなコロボックルたちが自分たちの知恵と勇気と、そして異文明の「せいたかさん」たちの力を借りて、困難を乗り越えてゆく物語は、しみじみと力づけられます。

 いまは、おでかけを控えて困難を乗り越える時期ですが、部屋の中でゆっくりした時間をとって、良質のファンタジーを楽しむのはいかがでしょうか。先人の知恵がたくさん詰まっているかもしれません。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はほとんどありません。気持ちのすれ違いはあれど、悪者はいない物語です。
 大人も楽しめるので、週末の和みタイムに。
 時代設定がかなり古いので、親子三代で楽しむこともできます。お孫さんはおじいちゃんおばあちゃんに当時のことを聞いてみましょう。もちろん、読み聞かせにもおすすめです。

※新イラスト版の装丁は美しいのですが、現在三巻までしか入手できません。全六巻をおもとめになりたい場合は、文庫版のほうが手に入りやすいです。

 

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