【ナンシー・ドルーミステリ】90年前から愛されてきた少女探偵の事件簿。シャドー牧場の秘密を暴け【シャドー牧場の秘密】【電子書籍】【小学校高学年以上】
従姉妹のジョージとベスに誘われて、休暇をすごすためにシャドー牧場にやってきたナンシー。ところがこの牧場では、次々と怪奇事件が起きていたのです。その牧場行きを妨害するかのような事件も起き、闘志を掻き立てられたナンシーは、この事件に敢然と立ち向かいます。ナンシー・ドルーミステリ第五弾。
この本のイメージ 見えない敵☆☆☆☆☆ 悲恋の伝説☆☆☆☆☆ 宝探し☆☆☆☆☆
シャドー牧場の秘密 キャロリン・キーン/作 渡部庸子/訳 創元推理文庫
チーム「キャロリン・キーン」が贈る、「ナンシー・ドルーミステリ」第五弾です。「キャロリン・キーン」は、ナンシー・ドルーを生み出した「ストラテマイヤー工房」が作ったチーム名。複数の作家で構成されています。
正体は明らかにはされていませんが、キャラクターや全体設定などの総合監督はエドワード・ストラテマイヤー氏とその娘ハリエット氏だと言われています。
1人の総合監督が全体設計を作り、設定書やあらすじを共有して複数の作家がシリーズを執筆する方法は、テレビドラマシリーズの手法に似ています。
アメリカの長期連続テレビドラマシリーズでは、「ショーランナー」と言う、全体構成とあらすじを決める作家がいて、その全体構成にあわせて、複数のシナリオライターが執筆する形になっています。
小説の世界ではドイツの「宇宙英雄ペリー・ローダンシリーズ」や、アメリカの「サーティナイン・クルーズ」などで行われている手法です。日本では、「グインサーガ」が作者の死後、この手法で続行中です。
ナンシー・ドルーミステリは、チームで書かれているシリーズならではの、それぞれのお話によってテイストが違うのが魅力のひとつでもあります。
今回のお話では、ナンシーが地元のリバーハイツを離れ、アメリカ南西部アリゾナ州のシャドー山のふもとにあるシャドー牧場にやってきます。どうやらこれを機に、ナンシーの活躍の範囲はアメリカ全土に広がるようです。
自宅から遠く離れているので、父親カーソンや、頼もしいメイドのハンナなどは登場しません。また、いままで親友として行動をともにしてきたへレン・コーニングが退場し、ジョージとベスという女の子ふたりが登場します。ボーイッシュなジョージと、おっとりしたベスは今後ナンシーの冒険のパートナーになるようです。
ナンシーは、ジョージとベスに誘われて、シャドー牧場で休暇をすごしに来たのですが、牧場主は次々と起きる怪奇事件に頭を悩まされていました。さらに、ナンシーの牧場行きを妨害する事件も起きたことから、ナンシーは闘志を掻き立てられ、事件解明に乗り出すことになります。
実は、その牧場、1880年頃(この物語の50年ほど前)にアウトローの青年と牧場主の娘との間に悲恋があり、その伝説のアウトローが残した宝がどこかにあるようなのです。
さて、怪奇事件の正体は? 宝はほんとうにあるのでしょうか? ナンシーは事件をどう解決するのでしょうか?
……と、いうのがあらすじ。
ナンシーは聡明で快活、スポーツ万能な美人です。よくいる男勝りで男子っぽい格好をしているタイプではなくて、おしゃれでかわいい女の子。それなのに、必要とあれば大立ち周りをし、悪漢をグーで殴ります。そして、ごはんはもりもり食べる。
こんなに美人なのに、美を武器にすることはいっさい無し。すがすがしいほど、体育会系なんです。
でも、おしゃれすることは忘れない。
このお話の中でも彼女は何度も着替えます。登場時のスタイル━オリーブグリーンのニットドレスに同色の靴、アクセサリーやバッグはベージュ、と言うコーディネイトは、金髪で白い肌の女性が身につけたら映えそう。それに、すごく上品です。
ところが、こういうお嬢様ファッションだけでなく、ロデオ大会ではインディアン風の民族衣装を身に纏ったりと、なんでも着ちゃう。この頻繁なお着替えに関しては、ストーリーにまっったく関らないので、どうやら女の子読者へのサービスのようです。
ナンシー・ドルーが生まれた1930年頃は、イギリスではアガサ・クリスティによる無敵のヒロイン「ミス・マープル」が誕生しています。欧米ではそういう時代だったようです。
体育会系美女のナンシーと、知的おばあさまミス・マープルと言うのが、それぞれアメリカらしくイギリスらしい。でも、どっちもかっこいいですね。(ちなみに、ミス・マープルはわたしの憧れの女性です)
今読んでも、まったく古さを感じさせない探偵小説です。
携帯電話やインターネットがないので、そのぶん砂漠で立ち往生したときなど危険なシーンでは、よりいっそう緊迫感を掻き立てられ、ドキドキして読むことができます。また、古き良き時代の香りもするので、ナンシーの快活さとともに、さわやかなポジティブさが魅力です。
どんな困難があっても、「大丈夫よ」と、すくっと立ち上がるナンシーがたくましい。
ヒラリー・クリントンや合衆国初の最高裁女性判事サンドラ・デイ・オコナー、ローラ・ブッシュなど、そうそうたる女性たちが幼いころにナンシー・ドルーの愛読者だったと言うのですから、その影響力は絶大だったのでしょう。
ナンシー・ドルーの初期シリーズ「オリジナル・クラシック」と呼ばれている56作品は、殺人などの残虐シーンが無く、「子どものための良質なミステリを」と言うストラテマイヤー工房の願いをこめられて作られたものだそうです。たぶん、アメリカの水戸黄門みたいなものじゃないでしょうか。
残念ながら「ナンシー・ドルーミステリ」は、紙の本では入手困難になっていますが、電子書籍で楽しむことが出来ます。
アメリカでは知らないものはいないくらいのミステリシリーズなので、一度くらいは読んでおいても損はないでしょう。
振り仮名が少ないこともあり、中学生未満だと少し心配ですが、かしこい子なら小学校高学年からでも大丈夫でしょう。内容的にも小学校高学年以上なら理解できるはず。
電子書籍で、良質な小説を探しているなら、ぜひこれを。
90年以上愛され続けている、少女探偵の事件簿です。
1930年代の香りとともに、美少女探偵の活躍をお楽しみください。
※ Kindle Unlimited に登録するとこの本が無料で読めます。端末は、機能が読書に限定された、Kindleキッズモデルがおすすめです。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
崖崩れや暴漢に襲われたりと、危機に継ぐ危機ではあるのですが、流血シーンや暴力シーンは驚くほどありません。ナンシーがいつも明るいので、ネガティブに感じられず、安心して読めます。
子どものために作られた、良質のミステリです。
現在、電子書籍以外は中古でしか入手できませんが、電子書籍で良質な探偵小説を楽しみたいときはぜひ。
ナンシー特製のチョコレートケーキがとてもおいしそうなので、読後はおいしいチョコレートケーキと紅茶をどうぞ。
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