【ブレーメンのおんがくたい】【絵本】グリム童話「ブレーメンの音楽隊」徹底比較。あなたはどれが好き?【読み聞かせ】
あるところに、年老いたロバがいました。もう重い荷物を運べなくなったので、飼い主はロバに餌を与えるのをやめようと思いました。このままでは死んでしまうので、ロバは逃げ出します。「そうだ、ブレーメンに行って音楽隊に入ろう」……
このお話のイメージ 老後問題☆☆☆☆☆ 相互扶助☆☆☆☆☆ ひょうたんから駒☆☆☆☆
ブレーメンのおんがくたい グリム童話
グリム童話「ブレーメンのおんがくたい」は、様々な絵本が出版されていて、どれも魅力があります。お話はとても有名ですが、あらすじをかいつまんで説明すると
・あるところに年老いたロバがいて、もう重い荷車を引けなくなったので飼い主が餌を与えるのをやめ、飢え死にさせようとします。ロバはこのままでは死んでしまうので、脱走し、ブレーメンに行って音楽隊に入ろうと決心します。(このあたりの説明はないのですが、音楽隊なら荷車を引かなくてもいいと考えたのでしょう)
・ロバが歩いていると、年老いた犬に出会います。もう猟ができなくなったので、飼い主が撃ち殺そうとしたので逃げてきたのです。ロバは犬をブレーメンへの旅に誘います。
・ロバと犬が歩いていると、老いた猫に出会います。もう、ねずみが獲れなくなったので、寝てばかりいると飼い主に井戸に投げ込まれそうになったので逃げてきたのです。ロバと犬はブレーメンへの旅に誘います。
・ロバと犬と猫が歩いていると、声を限りに鳴いている、老いた雄鶏と出会います。明日訪ねてくるお客のためにスープにされようとしていました。ロバたちは、雄鶏を旅に誘います。
・旅の途中で、夜、森の中の一軒家を見つけます。そこは盗賊たちの隠れ家でした。ロバの上に犬が乗り、犬の上に猫が乗り、猫の上に鶏が乗って、窓から顔を出し、それぞれが大声で鳴くと、得体の知れない影から得体の知れない声がするので、盗賊たちは幽霊か何かだと思って、逃げ出します。動物たちは、盗賊たちの食べ残しの食事をおいしくたいらげました。
・動物たちは、その家が気に入り、それぞれに気に入った場所を見つけて落ち着きました。
・盗賊たちは慌てて逃げてきたことを後悔し、若僧にもう一度隠れ家の様子を見てくるように言いつけます。
こっそりもどって来た盗賊は、動物たちに見つかり、暗闇の中でいっせいにひっかかれたり噛み付かれたり、蹴飛ばされたり、甲高い鳴き声で脅されたりして追い出されます。
・逃げ出した盗賊は、「あの家にはおそろしい魔女がいる」と言い、盗賊たちはその家に寄り付かないことにしました。
・動物たちは、ブレーメンに行くのはやめて、その家でいつまでも幸せに暮らしましたとさ
……と、言うお話です。
グリム兄弟は、民間伝承を集めてまとめた人たちなので、もともとこういうお話が地域の話として、残っていたのだと思いますが、わりと残酷な要素が含まれています。
マイルドになっている本もありますが、本来は動物たちは全員、殺されそうになっていたんですね。ここらへんの表現は、曖昧にされている本もあります。
ようするに、これは動物にたとえられていますが、じつは「姥捨て山(うばすてやま)」のようなお話なのです。「ヘンゼルとグレーテル」も同様のテーマですが、昔は貧しい村に飢饉が続いたりすると、わずかな食料を守るために「口減らし」と言って子どもや老人を山に捨てる風習があったのです。
しかし、殺されそうになった動物たちが大活躍し、悪を倒した上に、ちゃんと居場所を見つけられたのですから、痛快なハッピーエンドです。
さて、現在入手可能な「ブレーメンのおんがくたい」のバリエーションを見てみましょう。
ブレーメンのおんがくたい グリム/作 村岡花子/文 中谷千代子/絵 偕成社
「赤毛のアン」の翻訳で有名な村岡花子が文章を書いています。全文ひらがな。読みやすい絵本で、挿絵は素朴です。盗賊たちもあまり怖そうには描かれていません。
動物たちのことも、飼い主が殺そうとしたことは書かれず、マイルドな表現になっています。
ところが、この絵本は特筆すべきは巻末の「この絵本について」という解説で、村岡花子自身の文章が添えられています。
「ブレーメンのおんがくたい」をおおくりします。
この話には、不滅の心理がおりこまれています。年老いて廃物のようにみなされている者でも、心がけしだいで生きがいのある余生をすごすことができるということを、子どもの心にはそんなに重くるしいこととしてではなく、子どもたちの相互扶助にもことよせて、語っているのです。(巻末より引用)
は、廃物て。
なんだか強烈な文章ですが、さらに文末では「グリム童話こそは、人類のうけついでいく遺産のひとつです。」とまで書いています。
絵本としては、これと言った特徴は薄い本なのですが、この解説がメガトン級のパンチ力です。人間として生きていたら、一生に一度は読んだほうがいい解説かもしれません。この解説のために買うのも価値があります。
ブレーメンのおんがくたい グリム/原作 いもとようこ/文 絵 金の星社
絵がかわいい、いもとようこ先生の絵本です。すべての表現はマイルドになっており、盗賊は怖い顔はしていますが、そんなに恐ろしくはありません。
すべてひらがなで読みやすく、王道と言った感じの絵本です。
でも、「絵がかわいい」って小さいお子さまにとって、かなり大切な要素です。
かわいい絵がお好みのお子さまには、これがおすすめ。
ブレーメンの音楽隊 グリム童話 バーナデット/絵 ささきたづこ/訳 西村書店
このサイトで「ヘンゼルとグレーテル」のレビューでご紹介した、イギリスの作家バーナデット・ワッツの絵本です。森など自然の描写が美しく、動物たちも素朴であたたかみのある絵柄です。
ただ、「ヘンゼルとグレーテル」で雰囲気ぴったりだった、幸薄げな人物像がちょっぴり盗賊たちとそぐわないかも。盗賊たちは、はかなげで、そんなに怖くありません。でも、怖くないのがいい人にはおすすめ。
お話はかなり詳しく、突っ込んだ描写もあります。文章には漢字も含まれていて(ふりがながふってあります)幼稚園の年長さんか、小学校低学年向けの絵本です。
ブレーメンの音楽隊 原作 グリム兄弟 リスベート・ツヴェルガー/絵 池田香代子/訳 BL出版
オーストリアの作家、リスベート・ツヴェルガーの、イラストが美しい「ブレーメンの音楽隊」です。
絵がデザイン的で美しく、めくってもめくっても、どの絵も一枚画としてさまになります。全体的に青いトーンで統一されており、繊細で美しい絵本です。女の子など、きれいなものが好きなお子さまにおすすめ。
また、池田香代子先生の文章のふしまわしがテンポ良く、言葉選びが美しい。全体的におしゃれな雰囲気です。ちょっと大人っぽい、上品な絵本です。文章はやや高度なので、小学校低学年向き。
わたしが子どもの頃は、こんなハイセンスな絵本はなかったなあ……
ブレーメンのおんがくたい グリムのどうわより ゲルダ・ミューラー/作 ふしみみさを/訳 BL出版
今回、イチオシです。
作者のゲルダ・ミューラーさんはオランダの方で、原作はフランス語だったようです。
絵は細密で美しく、動物たちはリアルななかに生き生きとした表情があります。農場も森も、草花などの自然も詳細に描かれており、どの絵もすばらしい。また、盗賊たちの家も絵本らしくわかりやすいアングルで描かれていますが、リアルで、ちゃんと怖そうです。
ストーリーはいちばん詳しく、飼い主が動物たちに残酷な仕打ちをしようとしたことはぼかさずストレートに書かれています。文章はそこそこの漢字が含まれており(ふりがながふってあります)、長めの文章もあるので、小学校低学年から。
とにかくロバがかわいい。どの絵のロバも目がくりくりとしていて表情豊かで、作者のロバ愛が伝わってきます! 動物たちはどれも最小限のデフォルメで、それぞれの動物特有の個性が魅力的に描かれています。
植物や建物も細密に描かれており、一枚絵としての美もあります。おすすめです。
昔話や童話って、知れば知るほど面白いですね。童話のバリエーションにははまってしまいそうです。
その他、童話のレビューはこちら
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