【星の王子さま】サン・テグジュベリの不朽の名作。愛とは、命とはを考える児童文学【小学校高学年以上】
「ぼく」の飛行機はサハラ砂漠に不時着した。そのとき、ぼくは不思議なぼっちゃんに出会ったのだ。彼は遠い星から来たと言う。ぼくとぼっちゃんは、短い間に深く心を通わせるようになり……
この本のイメージ 愛とは☆☆☆☆☆ 命とは☆☆☆☆☆ 大切なものは目に見えない☆☆☆☆☆
星の王子さま サン・テグジュベリ/作 内藤濯/訳 岩波書店
<サン・テグジュベリ>
アントワーヌ・マリー・ジャン=バティスト・ロジェ・ド・サン=テグジュペリ(Antoine Marie Jean-Baptiste Roger, comte de Saint-Exupery、1900年6月29日 ~1944年7月31日)は、フランスの作家、操縦士。郵便輸送のためのパイロットとして、欧州-南米間の飛行航路開拓などにも携わる。読者からは「サンテックス」の愛称で親しまれる。(Wikipediaより)
サン・テグジュベリの名作、「星の王子さま」のご紹介です。あまりにも有名な話なので、ご存知の方も多いと思います。ラストはすこし物悲しく、アンハッピーエンドのようでもありハッピーエンドのようでもある、切ないお話です。
かいつまんで説明しますと、
飛行士である「ぼく」は、飛行機がサハラ砂漠に墜落して困っているときに、星からやってきたという不思議な「ぼっちゃん」に出会います。
ぼっちゃんは、遠い、小さな星から地球に旅してきたのでした。
王子さまの小さな星は、小さな三つの火山とバラの花しかない星でした。そこから、様々な星を旅して、地球にやってきたのです。
それらの星とは「王様の星」「うぬぼれ男の星」「呑み助の星」「実業屋の星」「街頭と点灯夫の星」「地理学者の星」です。
それらをめぐって、王子さまは地球にたどり着き、蛇と狐に出会い、地球のバラを見て、そして、「ぼく」と出会います。
「ぼく」は、王子さまと心を通わせますが、やがて王子さまは自分の星にかえろうとします……
と、いうのがあらすじ。王子さまがどうやって星に還ろうとしたのか、彼は還れたのか、様々な解釈が成り立つので、ぜひお読みになってみてください。
多くの比喩に満ちた物語で、そのままファンタジーで読むこともできるし、哲学的なメッセージを受け取ることもできます。子どもの頃に感じなかったことを、大人になってから受け取ることもあり、何度読んでも新しい発見があります。
六つの星は、支配、見栄、自己嫌悪、金銭欲、労働、学問の象徴でもあり、それぞれの星の人が、それぞれの概念に縛られ、心がまったく自由でないように感じます。ちょっぴりだけなら、または人生の一部なら人を幸せにすることでも、それが人生のすべて世界のすべてになってしまったら、心はからっぽになってしまう。
彼らの星を通過したあと、たどり着いた地球で、王子さまはキツネと交流することで、「愛とはなにか」を知り、どこにでもあるありふれたバラの花と同じ、王子さまのバラの花は、実は宇宙でたった一輪の王子さまだけのバラの花だと知ります。
子どもの頃には、ここはとても難解だったのですが、いまならすんなりわかります。
このバラの花がね、素直な花ではないんですよ。けっして、かわいい花ではない。
子どものころ「このバラは、シンデレラや白雪姫のような、けなげで優しくてかわいらしい花じゃないな」と思ったのは今でもおぼえています。
おとぎ話では、こういう女の人はたいてい悪役で、幸せにはならないのです。
けれども、王子さまはバラをとても大切に思っていて、宇宙でたったひとつのバラだと思うのでした。
作者はバラをどうしてこんな花にしたのでしょう。
もしかしたら、モデルになった、大切な女性がいたのかもしれません。
けれど、それだけではないように思えるのです。
わたしには、この欠点だらけでかわいげのない、ありふれた花を大切に思う心、それこそが愛情なのだ、と言っているように思えます。
美しくて、やさしくて、親切で、いつも気にかけてくれて役立ってくれて、それでいて控えめで、困ったときは助けてくれる、そんな花だったら、王子さまはどうしてその花が大切なのか、とっても簡単に説明できます。
そして、きっと星を捨てて旅に出ることもなく、ずっとそばにいたと思います。
でも、王子さまは、バラの花があんまりにも素直でないので、星を捨てて旅に出てしまいました。そして、遠い地球で自分はバラを大切に思っていた自分に気がつくのです。
美しいから、かわいいから、かしこいから、役に立つから、便利だから、助けてくれるから……
そんな理由で大切に思うのは愛情ではない、愛とはすべての欠点をひっくるめて「あなただから」大切なんですよ、と言う心だと、キツネが教えてくれたのです。
王子さまに大切なことを教えるのが、一般的にはずるがしこい害獣と考えられているキツネだったり、王子さまが大切に思う相手が一般的な価値観では高慢で冷血に感じられるバラの花だったりすることは、深い意味があると思います。
キツネの言うように「かんじんなことは目に見えない」のです。
王子さまがバラのために手間ひまをかけたから、バラの面倒を見たから、だからそのバラは特別な存在になったんだよとキツネはいいます。子供の頃には、難しい言葉でしたが、大人になった今では、とてもシンプルな言葉で言い換えることができます。
愛とは与えることだ。
そう考えてさかのぼって読み返すと、バラはバラなりに王子さまを深く愛していたことがわかります。
遠い星からたったひとり、種だけになって飛んできたバラには、自分以外の同族はいません。そして、花なのでそこから動いてゆくことはできません。
世話をしてくれる王子さまに少しでも喜んでもらいたくて「自分は特別な花だ」と言い、王子さまが旅立つときには、悲しまないでいてあげるのが、せめてものはなむけだと思って平気なふりをしていたのでしょう。
バラは、自分なりに考えて、自分が与えられるものを王子さまに与えていたのです。
「相手が自分に何をしてくれるのか」を基準にしたら、星を捨てて旅に出た王子さまも、プライドの高いバラも、小難しいことを言うキツネも、毒をもった蛇も、そして、飛行士の「ぼく」も、なんだかつめたい人に思えてきます。
けれど、「彼らが相手のために何をしたか」を基準にして考えると、それぞれがとても愛情深い存在だと気づくのです。
これは、単に「恋愛」のような狭い意味での愛情だけではないと思います。
おりこうだから、家のお手伝いをするから、役に立つから、成績がいいから、かわいいから、自慢が出来るから……だから大切なのではなく、「あなただから」。
そして、手間をかけて面倒を見れば見るほど、病弱な子どもや出来の悪い子ども、手のかかる子どもほど、大切に思う……そういう気持ちは、親子の愛情にも通じるものがあります。
大人になってから読むと、何度読んでも最後には泣いてしまいます。冒頭で「昔子どもだった大人へ」捧げられている意味がよくわかります。
クリスマスに、もう一度読み直してみてください。
必ず、新しい発見があります。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
感情をゆさぶられる物語なので、時間がたっぷりある時に読むのがいいかもしません。HSPやHSCのほうが多くのことを受け取れます。小学校高学年以上なら読める児童文学となっていますが、本来は大人のために書かれた童話なので、大人にこそおすすめです。
ただ、単純な和む童話ではないので、繊細な感情を受け止める余裕があるときにお読みください。
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