【今昔ものがたり】平安末期に編纂された説話集の児童書版。昔ばなしの元祖とも言うべき本です【中学生以上】

2024年3月5日

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今昔ものがたり  杉浦明平/現代語訳 岩波少年文庫

むかしむかし、あるところに……と、日本で語り継がれる不思議なお話の数々。それを集めたのが、今昔ものがたりです。今昔ものがたりと、宇治拾遺ものがたりは、日本の古い民話を現代の子供たちにわかりやすく伝えています。

この本のイメージ 歴史☆☆☆☆☆ オカルト☆☆☆☆☆ 平安時代☆☆☆☆☆

今昔ものがたり  杉浦明平 岩波少年文庫

 新年なので、日本の昔話に触れてみようと思い、子供時代ぶりに「今昔ものがたり」を読みました。

 わたしの子供の頃は、小学生向けの、ひらがなの多い読みやすい今昔物語集が、いろんな出版社から出版されていて、もっと手軽に読める、字の大きい本がたくさんあったのです。

 アニメ「日本昔ばなし」などに取り上げられていたり、絵本になっている民話も多いため、昔はもっとポピュラーな本だった思い出があります。

 わたしは、不思議な物語が大好きだったので、子供の頃「今昔物語」はかなりのお気に入りの本でした。

 今、児童書でもう一度読めないのかな、と思ってさがしたのですが、昔ほど子供向けのものがなく、本日は、手に入りやすい岩波少年文庫版の「今昔ものがたり」をご紹介します。

 人名など、難しい字が多いので、「中学生以上」と本には書かれていますが、ひとつひとつのお話がとても短く、お話の内容的には単純で理解しやすい話が多いので、小さなお子さまに読み聞かせしてさしあげてもいいと思います。

 芥川龍之介が題材にした「鼻」や「芋粥」は、この本に収録されています。

芥川龍之介と今昔ものがたりの「芋粥」のちがい

 芥川龍之介によってかなりテイストの違うお話にアレンジされているのが「芋粥」です。

・芥川バージョン
 下級貴族の五位は風采の上がらない小役人。彼の好物は芋粥で、「いつか腹いっぱい食べたい」と思っていた。藤原利仁がそれでは腹いっぱい食べさせてやると、ごちそうしてくれたが、いざ食べようと思うと、そんなには食べきれない。貧乏役人の悲哀のようなお話。

・今昔ものがたりバージョン
 関白の執事である五位が「自分は芋粥が好物だ」と言うと、地方豪族の婿である利仁将軍に郷里に連れてゆかれ、とてつもない量の芋粥の歓待をうける。
 この場合の芋粥は、当時の貴重な甘味料である甘茶で長いもを煮たもの。
 利仁将軍の命令で村人たちはめいめい、1.5メートル(五尺)ほどの芋を持ち寄り、甘茶をふんだんに使って大量に芋粥を作った。地方豪族の豊かさは、関白の執事が目をむくほどだったというお話。

 今昔物語のほうの五位は、どちらかと言うとデザートの甘いものが大好きな男の人で、いまの感覚で言うとスイーツ好きなおじさん、と言う感じの人です。
 現代の感覚だと、大きなショートケーキを丸々ひとつ、食べてみたいと言う夢を持っていたおじさんが、「では叶えてやろう」と、超巨大なウエディングケーキをごちそうされた、と言う話に近い感じ。

 かなり違うお話になっているので、ご興味がある方は、読み比べてみるのもいいかと思います。この本の中では「五位と利仁将軍」と言うタイトルで収録されています。

今昔物語とは

 今昔物語は、もともと、11世紀後半に、古くから日本に伝えられている、あちこちの民話を集めて編纂されたもので、実際に誰が行ったことなのかは、はっきりしていません。

 ようするに、日本における、グリム童話のようなものです。

 グリム童話は、グリムという兄弟学者が当時のヨーロッパに伝わる古い民話を集めてまとめたものです。こう言う人たちが過去にいてくれたおかげで、現代のわたしたちが昔話を読むことができるのは、本当にありがたいことです。
(とはいえ、グリム兄弟は1800年代に活躍した人たちなので、1120年代と言われている今昔物語に比べると、グリムのほうが年代的にはかなり新しいです)

 創作童話ではないので、事実の羅列として、お話は淡々と進みます。これこれこういうところに、こういう人がいて、こういうことをしました、みたいな感じの短いお話集です。

 なにしろ平安時代のお話ですから、「事実」として平気でキツネや幽霊が人を化かしに出てきますし、摩訶不思議なお話がたくさんあります。人情話や詐欺話のほかは、たいていはオカルトです。

 けれど、淡々としているから、あまり怖くないのです。平安時代は、オカルトが日常茶飯事でしたから、当時は「怪談」ではなく、根の生えた日常の「事件」だったのでしょう。

今昔物語は当時の「事件簿」

 中には「法くらべ」など、正式な寺の僧侶の祈祷と、天狗などを祭っている行者の祈祷を比べて、天狗などを祭るのは邪道である、というお話もあります。が、現代だと天狗をお祭りしているお寺などもあるので、現代人が読むとあまりぴんときません。

 これって、当時の感覚だと、おそらく、正規の医師と無免許医師のちがいみたいなお話だったのだろうと思います。

 平安時代は、医者と祈祷師が同じ枠に入っていたような時代です。(ようするに、回復魔法ですね。医学と魔法が同じ枠だったのは、大昔では万国共通です) 学問とオカルトの境目がほとんどないのです。

 つまり、当時の感覚では、これらの民話は「おとぎ話」ではなくて、「事件簿」的な扱いなのです。驚愕の温度差。

 平安時代の「あたりまえ」は現代では「ファンタジー」だったんですね。でも、平安時代の人がこのハイテクの現代にタイムスリップしてきたら、きっと、キツネに化かされたと思うでしょう。

 コンピューターとインターネットでつながったハイテクの時代に生きていると、ついつい忘れてしまいがちですが、お正月のおせち料理や鏡餅の由来や、さまざまな縁起かつぎなど、もともと日本はファンタジックな国だったのです。

 現代ではあまり触れることのない昔話ですが、この自粛期間に手にとってみてはいかがでしょうか。
 昔の本好きの子供は好んで読んだので、様々な漫画の元ネタになっているお話も多く、「ああ、これか!」と言う発見もあります。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブなシーンはゼロではないのですが、淡々と書かれているのでそれほど気になりません。また、残虐シーンなどはありません。

 日本の昔話に触れてこなかった方は、この機会にぜひ。
 人名など少し難しい漢字がありますが、短い話ばかりなので、小学生でもがんばれば読めると思います。
 読み聞かせにおすすめです。

 

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