【あひるのジマイマのおはなし】とぼけたあひるの災難と幸運。ハラハラして癒される、かわいい絵本です。【ピーターラビットの絵本】【4歳 5歳 6歳】
あひるのジマイマは、いつも自分の卵をとりあげられてニワトリに孵されるのを不満に思っていました。だから、ある日、卵を自分で孵そうと決心したのです。いい卵の隠し場所はないかしら、とさがすジマイマの前に、うすちゃいろのひげの紳士が現れます。そして…
この本のイメージ 女性の自立?☆☆☆☆☆ 世間は怖い☆☆☆☆☆ 山あり谷あり☆☆☆☆☆
あひるのジマイマのおはなし ビアトリクス・ポター/さく・え いしいももこ/やく ピーターラビットの絵本 福音館書店
<ビアトリクス・ポター> イギリスの絵本作家。ヴィクトリア時代の上位中産階級に生まれ、遊び相手も少ない孤独な環境で育ち、学校に通うことは無かった。幼いころから絵を描くことを好み、多くのスケッチを残している。代表作は「ピーターラビット」シリーズ。
ピーターラビットシリーズの一冊ですが、ピーターは登場しません。主人公はあひるのジマイマです。
大昔に大好きで愛読していた少女漫画家桑田乃梨子先生のキャラクターが、ジマイマというあひるを飼っていて、それを強烈におぼえていたのですが、出典はこれですね。
桑田先生、いまどうしていらっしゃるのかしら、と思ったら、現在も活躍中でした。昔、「おそろしくて言えない」とか、「卓球戦隊ぴんぽん5」とか大好きでした。ただ、本が荷物の奥に入り込んでしまって、今は読み直せないんです。
ただただ、猛烈に面白かった、と言う記憶だけが残っていますが、今は詳しくは思い出せないのがくやしい。
なんで、「新名のスリップストリーム」とか「あひるのジマイマ」とか、どうでもいいことだけ記憶に残っているんだろう……
さて、今回は、そんな(どんなだ)あひるのジマイマのお話。
あひるのジマイマ・パドルダックは、農場の女主人が自分の卵を取り上げて、めんどりに孵化させているのが不満でした。あひるのひよこたちは、めんどりをお母さんだと思って、なついているのです。
ジマイマは、自分でも卵を孵せるし、孵してやる! と思って、卵をあちこちに隠すようになりますが、すぐに見つかってしまいます。
それで、農場から遠く離れたところで卵を産もうと出かけます。よそゆきのショールとボンネットをかぶって、空を飛んで旅立つジマイマ。ひょんなことで、耳のつきたった、うすちゃいろのひげの紳士(つまりは狐だ! 気づけ、ジマイマ!)に、自分の夏の小屋を使いませんかとすすめられます。
そこには羽毛がたくさんありました。羽毛で巣を作り、明日から卵を温めようと決心した日、うすちゃいろのひげの紳士は、セージとタイムとはっかを少々、そして玉ねぎをふたつとパセリ(つまりはオムレツと鳥の丸焼きの材料だ! 気づけジマイマ!)を持ってきてくれれば、明日一緒にパーティーをしましょうと提案します。
玉ねぎをさがすジマイマの行動を不審に思った、番犬のケップは、友達のフォックス・ハウンドの子犬二匹とジマイマについてゆき、そこから大混戦がはじまります。騒動のあと、うすちゃいろのひげの紳士はいませんでしたが、ジマイマの卵はフォックス・ハウンドに食べられてしまいました。
ジマイマは犬たちに守られて家に帰り、次の卵は自分でかえしましたが、4つしか孵せませんでした。
と、いうのがあらすじ。
めんどりに卵を抱いてもらってもへいちゃらなジマイマのお姉さんと違って、「自分で卵を抱きたい!」と決心して、あれこれがんばるジマイマは、気が強いですね。
それに、ばっさばっさと飛ぶ姿もりりしい。
でも、農場の外に出るときに余計なおしゃれをしたり、見ず知らずの紳士を信用して、怪しげな場所に巣を作ろうとしたり、世間知らずでまぬけなところもあります。
とはいえ根が単純なので、番犬が事情を問いただしたときに、なんの疑いもなく聞かれるままにあらいざらいしゃべってしまい、それはそれで危ないところを助けられるのです。ところが、ここで卵は番犬が誘った猟犬に食べられちゃう。幸運だと思っていたことが不運で、不運だと思っていたら幸運で、と塞翁が馬みたいな感じです。
でも、次の孵化は自分でさせてもらうところは、めげないジマイマなのでした。
当時、実際にあひるの孵化はめんどりにさせていたようで、どうもあひるは卵を抱くのがそんなにうまくないようです。
けれども、これは、そうした当時の動物事情だけでなく、イギリスの上流階級の子供は、親が直接子育てをせずに乳母(ナニー)に世話をまかせるという風習の比喩もあると想像できます。
だから、ジマイマは世間知らずなおしゃれさんで、騙されやすいのです。
世間知らずのお嬢さんが、「わたしだって自立して、自分で子育てできる!」 と、お屋敷を飛び出し自分だけの家を借りようと外に出たら、偶然出会った「親切な人」が詐欺師で子供も自分も食われそうになる……あわやというところで、実家の用心棒たちに救われる、みたいなお話です。
確かに世間は怖いですが、相手が玉ねぎだのパセリだの言い出した時点で気づけよ……というあたりが、ハラハラします。「志村、うしろ、うしろーー」って感じ。
で、本当は賢くて頼りになるはずの番犬のケップのことを、ジマイマは怖いと思っていて、そんなに懐いていないんですね。だから、見た目が優しそうなうすちゃいろのひげの紳士に、だまされちゃう。
身近な一見怖そうな人より、よく知らない優しそうな人のほうが信用できると勘違いしてしまうのです。もう、箱入りのお嬢さま、あるあるです。
それでも、聞かれたことは正直に話すジマイマなので、あわやと言うところを命拾いしました。
意外に怖くて、すっごくハラハラするお話なのですが、それでもちょっぴりゆかいで不思議に癒されるのは、ジマイマが最後まで一部始終をよく理解していないから。
彼女は、「よくわからない怖い思いをした」と思っているけれど、うすちゃいろのひげの紳士の正体や、自分がどれほど危険な状況にいたか(卵だけでなく、自分も丸焼きにされて食べられそうになっていた)ことなどは、まったくわかっておらず、彼女のあたまの中では、世界は(卵を食べてしまったフォックス・ハウンドの子犬たち以外は)いい人ばかりだってことになっているのです。
ジマイマ、最強ですね。
とぼけた物語ですが、短いお話の中で、世間の怖さや、意外なところに味方はいることや、めげないジマイマのしぶとさなど、読み取れることも多いお話です。
そして、おまぬけなお話なのに、不思議と癒されます。
お子様には単純に楽しく、大人にも味わい深い絵本です。読み聞かせにおすすめ。
自粛期間のお供に、ぜひどうぞ。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素があるとしたら、ジマイマの卵が食べられてしまうところくらいですが、ジマイマはめげずに卵を産みます。絵はリアルななかに豊かな表情があり、古風な貴婦人風のジマイマがなんとも愛らしいのです。
小さくて持ち運びのしやすい、かわいい絵本です。プレゼントにも最適。犬のケップがかわいく、そしてかっこいいので、犬好きさんにもおすすめです。
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