【魔法の文字】「魔法の声」の続編。文字と声に導かれて本の中の世界へと入り込むファンタジー。【小学校高学年以上】

2024年3月5日

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魔法の文字 コルネーリア・フンケ/作 浅見昇吾/訳 WAVE出版

カプリコーンの事件が解決したあと、メギーは彼らの世界……本に書かれた物語の世界に憧れを持つようになりました。「あの世界に行ってみたい」……そんな強い願いを抱いた頃、ホコリ指は本来の世界へと戻ろうとしていました。オルフェウスと言う男の力で…。

この本のイメージ 今度は本の中へ☆☆☆☆☆ 作者VS世界☆☆☆☆☆ 作者VS同人作家☆☆☆☆☆

魔法の文字 コルネーリア・フンケ/作 浅見昇吾/訳 WAVE出版

<コルネーリア・フンケ> 1958年ドイツ生まれ。ハンブルク大学で教育学を修める。フリーのイラストレーター、作家。ウィーン児童文学賞など多くの児童文学賞を受賞。

 日曜朝の某特撮番組のモチーフになったんじゃないかなと、思われる、ドイツの児童文学作家コルネーリア・フンケのファンタジー三部作の第2巻
 映画化もされた傑作「魔法の声」の続編です。三冊それぞれが、人も殺せる分厚さです。

 メギーは13歳の女の子。彼女と、彼女の父モルティマの声には不思議な力がありました。
 心をこめて本を読むと、物語の中の物や生き物が呼び出されて実体化してしまうのです。

 つまり、物語中の金銀財宝の場面を読むと、実際に本の世界から金銀財宝が呼び出され、本に書かれている人物を読むと、その人物が呼び出されてしまうのでした。

 第1巻「魔法の声」は、モーことモルティマが、「闇の心」(インクハート)と言うファンタジー小説を声に出して読んだことで、その物語の中の最低の悪党カプリコーンを読み出してしまい、それが大事件になると言うお話です。

 「魔法の文字」は、「魔法の声」の続編です。「魔法の声」は本来は1冊で完結するはずのところ、読者の要望と作者の意欲によって生まれた続編で、この巻では完結していません。お話は、完結編「魔法の言葉」へ続きます。

 「魔法の声」では、架空の世界の住人たちが現実の世界に飛び出してきて、現実の世界で事件を起こすストーリーでした。「闇の心」の作者フェノグリオと、魔法の声の持ち主モー、メギー父娘が力を合わせてこの大事件を解決します。

 「魔法の文字」では、「闇の心」の世界にあこがれたメギーが本の世界の中に入り込む冒険物語です。
モーがアラビアンナイトの世界から読み出してしまった少年ファリッドは、父のように兄のように熱烈に慕うホコリ指を追って、メギーの声の力を借りて「闇の心」の世界に飛び込みます。失踪したメギーを追い、メギーの両親、モルティマとレサも物語の中に飛び込んできます。

 そして、「魔法の声」で生き残った悪人たち、カプリコーンの母親モルトラやバスタも、ついに「闇の心」の世界に戻ってきました。

 メギーたちは、本の世界の中で、そこそこ幸せそうに暮らしているフェノグリオを探し出し、再会します。
しかし、この世界では作者のフェノグリオの想像を超えたことがおきていたのです。

 カプリコーンの親玉である悪の王スネークヘッドが、オンブラの都を自分の物にしようと侵攻を開始しました。
本来の物語の筋書きよりも、ずっと悪の力が強くなってしまったこの「世界」。はたして物語の軌道修正はできるのでしょうか。

 と、いうのが今回のあらすじ。

 今回、新キャラとして登場するのは、声と文字の両方の力を持つオルフェウス。
 「闇の心」の作者であるフェノグリオと魔法の声の持ち主であるモルティマとメギーは、力を合わせることで、本の中の人を呼び出したり、本の中に人を送り出したりができます。

 オルフェウスは、この両方を1人でできるのです。ただし、それぞれの力はそれぞれには少しずつ劣ります。
 彼はフェノグリオの書いた「闇の心」の熱狂的なファンなので、「闇の心」っぽい文章が書けるのです。たとえて言うなら同人作家みたいなものですね。そして、それを読み上げる能力があるため(この能力もモルティマたちにはやや劣る)1人で「書いて、読む」ことができるのでした。

 そして、「闇の心」(インクハート)の世界での悪の帝王、スネークヘッド、スネークヘッドの娘で本を愛するヴィオランテ、美しきロクサンナなど、この世界の住人にも魅力的なキャラクターたちが登場します。

 ヴィオランテって名前、何か出典があるのだろうかと探したんですけど、「ゴジラ対ビオランテ」の「ビオランテ」はどうやら原作者の方の造語らしいので、神話などに出てくる一般的な言葉じゃないようなのです。
もしかしたら、この名前、本当に出典はゴジラなのかもしれません。

 今回は、「本の世界」と「現実の世界」が並行して描かれ、前作よりハラハラドキドキ感がさらに大きくなっています。
 現実とはかけ離れたファンタジーの世界でサバイバルするメギーたちと、誰よりも本の世界を愛しているのに、本に入れずに現実の世界でつらい思いをするエリノア。
 ふたつの世界は、交わることなく、それぞれの困難は続きます。

 あまりにも、制御不能になった物語に絶望してしまったフェノグリオ。ホコリ指の危機に、メギーたちはやむなく、トラブルメイカーの「あの男」を呼び出しますが、さて、これは吉と出るか凶と出るか……

 物語は、このまま「魔法の言葉」へと続きます。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 剣と魔法の世界なので、たくさん人が死にますし、暴力的なシーンもあります。「そういうシーンがあるのだな」と承知していれば大丈夫な方にはおすすめ。「はてしない物語」を読んで、「こんなふうに本の世界に入りたいな」と思ったことがあるなら、ぜひ一度読んでみてください。
 本が生み出す不思議な力を、ここまでうまく表現している本はありません。

 読後は、ドイツのお菓子とコーヒーで、ひとやすみ。たいへんボリュームのある本なので、長く楽しめますよ。

 

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