【オペラ座の幽霊】古いオペラ座に秘められたおそろしい秘密とは? アメリカ発ゴシックファンタジー児童文学【ルイスと不思議の時計 6】【小学校中学年以上】

2024年3月5日

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オペラ座の幽霊  ルイスと不思議の時計 6   ジョン・べレアーズ/作 三辺律子/訳 静山社

ジョナサンおじさんとツィマーマン夫人が古い友人のお葬式に行くためにニュー・ゼベダイを離れているあいだ、ルイスとローズ・リタは街の古いオペラ座を訪ねました。ところがそこには恐ろしいものが封印されていて……

オペラ座の幽霊  ルイスと不思議の時計 6   ジョン・べレアーズ/作 三辺律子/訳 静山社

<ジョン・べレアーズ>
ジョン・ベレアーズ(John Anthony Bellairs、1938年1月17日 ~1991年3月8日)は、アメリカの小説家。児童向けのファンタジー小説を得意とした。代表作として『霜のなかの顔』、「ルイスと不思議の時計」シリーズ、「ジョニー・ディクソン」シリーズなど。

 アメリカ発子供向けゴシックホラー小説「ルイスと不思議の時計」シリーズ第六巻です。原題はThe Doom of the Haunted Opera.(幽霊オペラの運命)
 原作者のジョン・べレアーズは、実は3巻が出版された後死去しており、4巻以降はべレアーズの死後遺稿をもとにSF作家のストリックランドが引き継いで執筆しました。この「オペラ座の幽霊」まではべレアーズの原案が残されていたようです。

 前回の「魔女狩り人の復讐」から、ルイスについて熱烈なシャーロキアンだと言う新設定(この設定自体はどうやらべレアースのものらしい)が追加されたりと少しずつ雰囲気が変化していたシリーズですが、この巻でかなり当初の雰囲気とは違ってきた気がします。
 ただし、もちろん、ニュー・ゼベダイの雰囲気や、ルイス、ローズ・リタ、ジョナサン、ツィマーマン夫人の魅力はそのまま。

 もともと、ジョン・べレアーズの書いた三冊は、書かれた当時としても新しい、多様性に満ちた雰囲気があり、もしかして新しすぎて受け入れられなかったのではと思うくらいでした。

 男の子なのに内向的で繊細なルイスと、女の子なのにスポーツ万能で勝気なローズ・リタ、優秀すぎる魔女ツィマーマン夫人と、おっちょこちょいでドジだけど癒しの雰囲気に満ちたジョナサンというように、べレアーズの設定したキャラクターは、1973年に出版されたとは思えない新しさでした。

 プリデイン物語の最終巻が1968年だと考えると、なかなか衝撃を感じます。あの物語のエイロヌイ王女でさえ、当時としては「強くて新しい」お姫様像だったはず。

 このべレアーズの持つ、繊細で独特な雰囲気は、残念ながら少し薄まってしまった感はあるのですが、面白さは健在です。

 今回のお話は、

 古い友人の魔法使い、ルキウス・ミクルベリーがフロリダで死に、ジョナサンとツィマーマン夫人はお葬式と形見分けに出かけました。その間、学校の課題の自由研究をしようと考えたルイス。
 近所にある閉鎖されたオペラ座の設計をしたのがローズ・リタのおじいさんだと知り、そこを題材にしようと考えます。
 ところが、そのオペラ座には恐ろしい「何か」が封印されており、ルイスは知らずにその封印を解いてしまったのでした。

 その「何か」は、だんだんと街を侵食し、街をほとんど乗っ取ってしまいます。

 ジョナサンもツィマーマン夫人もいない、他の魔法使いも消えてしまったこの街で、ルイスとローズ・リタだけでこの恐ろしい敵に立ち向かえるのでしょうか。

 というのがあらすじ。

 ルイスが自覚なしに魔法の封印を解いてしまい、おそろしい「何か」が復活してしまって、その責任をとるためにルイスががんばる、というのがいつものパターン。今回もそういうお話です。

 敵と同格に戦える強い力を持った人は、すべて遠くに追いやられてしまい、魔法使いではない、ただの子どものルイスとローズ・リタ、ほとんど力のないミルドレッド、すでに死んだ幽霊など、無力な存在たちが、力を合わせて知恵と工夫で敵と戦います。

 自分たち以外の街の人間がどんどん悪の魔法に侵食されてゆくさまや、自分の言葉が相手にまともに伝わらなくなる不安など、目に見えない敵がじわじわと力を広げてゆく怖さはさすがという感じ。

 基本的に、「ルイスと不思議の時計」シリーズの敵は姿がないか、あるとしても最後に正体を現すことが多く、最終決戦にいたるまでは、人間の怖さや子供心の葛藤などが描かれます。

 それだけでなく、原作者のべレアーズの担当部分には、1巻のルイスのタービーとの友情の破綻や、2巻のいじめ問題、3巻のローズ・リタの葛藤など、多様性に満ちたキャラクターたちに加えて、非常に内省的な、深い心理描写がありました。

 残念ながら、べレアーズが直接書いていた頃の繊細で情緒的な魅力はだんだん失われてきていますが、4巻以降の、さわやかな少年冒険小説のイメージも好みなので、このまま読み続ける事はできると思います。

 字はほどよい大きさで読み易く、すべての漢字にふりがながふってありますので、小さいお子さまでもがんばれば1人で読めます。だいたい、小学校中学年以上向けですが、賢い子なら低学年からでもこつこつ読むことができるでしょう。

 しかし、これがまた、大人が読んでも面白いんです。これがこの小説のすごいところ。

 「ハリー・ポッター」ほどボリュームがあるものには挑戦できないけど、ああいう、魔法が日常に満ちている世界を楽しみたい人にはおすすめです。小さな子どもから大人まで楽しめるファンタジーです。

※この本だけでも話は通じますが、一巻から読んだ方が理解しやすく面白いです。現在、単行本版は一時品切れになっているものもあり、全巻そろえようと思うとペガサス文庫版のほうが入手しやすくなっています。どちらもリンクしておきます。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ゴシックホラーなので怖い描写はありますが、非常に気をつけて書かれており、残酷シーンや流血シーン、暴力シーンはありません。ただ、同時にアクションシーンなどもありません。

 しかし、どきどきして面白い児童小説です。知恵を絞って強大な敵に立ち向かってゆくストーリーは、純粋にわくわくします。

 読後は、ルイスシリーズではおなじみの、チョコチップクッキーをご用意ください。

 

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