【宇治拾遺ものがたり】平安~鎌倉時代に編纂された説話集の児童書版。むかしむかしのものがたり【中学生以上】

2024年3月7日

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宇治拾遺ものがたり 川端善明 岩波少年文庫

むかしむかし、あるところに……と、日本で語り継がれる不思議なお話の数々。宇治拾遺ものがたりは、日本の古い民話を現代の子供たちにわかりやすく伝えています。

この本のイメージ 歴史☆☆☆☆☆ オカルト☆☆☆☆☆ 平安・鎌倉☆☆☆☆☆

宇治拾遺ものがたり 川端善明 岩波少年文庫

 日本の昔話や民話のもとになった説話集と言えば、今昔物語と宇治拾遺物語です。

 その昔、宇治大納言と言う人がいて、彼がさまざまな地方に伝わる不思議な話を人々に語らせ、それを書き留めて編纂した「宇治大納言物語」と言うものがありました。その中の一部が今昔物語、そして宇治大納言物語に収まらなかった「あまり」の物語が宇治拾遺物語だと伝わっています。

 けれども、「宇治大納言物語」は、散逸してしまって現代には残されていないようです。

 なので、この説もどこまで本当かはわからないのですが、もともと「宇治大納言物語」と言う大きな物語集があって、その派生に今昔物語と宇治拾遺物語があると仮定すると、いろいろと収まりがいいのです。

 昔は、これらの児童版が様々なバージョンであったような気がしたのですが、今調べてみると、案外ないようで、本日は岩波少年文庫版をご紹介します。

 ものすごく短い短編集で、短いものだと三ページくらいのものもあるので、非常にたくさんのエピソードが収録されています。今昔物語よりは、ややオカルト色が強く、おどろおどろしい部分もあるのですが、ほのぼの話や、ちょっといい人情話などもあります。

 そうそう、「あの」安倍晴明が登場するお話もありますよ。

 ただの怪異話も多くオチがない場合もあるので、やはり、誰かが創作した「物語」ではなく、実際に当時の人が見聞きしたことを「事件簿」としてまとめた感じです。

 大昔の日本は、今よりずっとオカルトが日常の国だったようです。

 ハイテクに支えられた現代日本からは想像もできないのですが、昔の日本はかなりファンタジックな国でした。幽霊やお地蔵様、観音様が現れたり、鬼が出たり、動物が不思議な力で恩返ししたりと、こういうお話が土着の言い伝えとして数多くあったというのだから、驚きです。

 私が好きなのは、「隣のお葬式」。ある舎人(とねり 役人のこと)がお隣が貧しく小さな家なので、葬儀の列を方違い(家のいい方角から出てゆくこと)できず、ひとつしかない悪い方角の玄関から葬儀を出そうとしているのを知り、見るに見かねて、自分の家の垣根を壊して「ここから葬儀の列を出せばいい」と心意気を見せたお話です。

 隣人が悪い方角から葬列を出そうとするのは「いかんいかん、あなたには子供もいるのに」と縁起をかついでやめさせるのに、自分の家の垣根を壊して葬列を通過させると言う「縁起の悪さ」は気にしないのです。

 この徳の高さでこの方は、その後たいへん出世されたというお話です。なんか、いいですよねえ。縁起担ぎとかはこういうふうにするのが正しいんでしょうね。

 他にも、いい人が報われる話もあれば、ちゃっかり者が得をしてしまうお話もあり、白とか黒ではない、奇妙奇天烈なグレーの世界が展開されます。

 そして、これが当時の「実話」だったのだ、とふと気づいて、なんともいえない不思議な気持ちになります。

 現代人はあまり触れない物語だと思いますが、この機会に読んでみてはいかがでしょう。漫画やアニメの元ネタになっているものもあり、ピンと来る人もいるかもしれません。

 いにしえの摩訶不思議な日本に触れてみてくださいね。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 大昔の民話なので、残酷なシーンはわりとあります。また、今昔物語よりはオカルト色が強く、怖い話も収録されていますので、そのような話が苦手な方は、要注意です。「そういうお話もあるのだな」と身構えていれば大丈夫な方で、平安時代や和風ファンタジーに興味がある方にはおすすめ。

 人名など少し難しい漢字がありますが、短い話ばかりなので、小学生でもがんばれば読めると思います。読み聞かせにも。

 読後は、温かい緑茶と和菓子で一休みしてください。

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