【アーヤと魔女】ジブリで映画化。ダイアナ・ウィン・ジョーンズの未完の遺作。孤児のアーヤの物語【小学校低学年以上】

2024年3月7日

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アーヤと魔女  ダイアナ・ウィン・ジョーンズ/作 佐竹美保/絵 徳間書店

孤児のアーヤは「聖モーウォード子どもの家」でそこそこ幸せに暮らしていました。ところがある日、魔女と不気味な男にもらわれて、こき使われることになります。さてアーヤはこの困難を乗り越えられるのでしょうか。

この本のイメージ ヒロイン強メンタル☆☆☆☆☆ 負けず嫌い☆☆☆☆☆ 未完☆☆☆☆☆

アーヤと魔女  ダイアナ・ウィン・ジョーンズ/作 佐竹美保/絵 徳間書店

<ダイアナ・ウィン・ジョーンズ> 1934年イギリス生まれ。オックスフォード大学セントアンズ校でトールキンに師事。イギリスを代表するファンタジー作家。

 大好きな作家、ファンタジーの女王ダイアナ・ウィン・ジョーンズが、入院中に最後に書いていた遺作だそうです。DWJはもういないんだ……と、思うと悲しくて、暫く読めませんでした。

 宮崎吾郎監督で3Dアニメとして映像化されたそうなのですが、なんとなく怖くて見られませんでした。好きな作家さんの最後の作品なので、受け止めるのが難しかったのです。アニメは映画公開されました。(アニメを見たので、少し感想を追加しています。2022.01,09)

 じつはこのお話、ちゃんと終わっていません。
 闘病中に執筆されていたらしいので、あきらかに未完なのです。
 最後の最後で、何とか形にしようと結末を書きそえたような雰囲気があり、もっといろいろと書きたかったんだろうなというお話です。

 お話は、

 孤児院で育ったアーヤには秘密がありました。赤ちゃんのとき孤児院に捨てられていた彼女には置手紙がついており、彼女は仲間の魔女に追われている魔女の子どもで、逃げ切ったら迎えに来ますと書いてあったのです。

 手紙に書いてあった名前は「アヤツル」。(原作ではEarwig.ハサミムシ。イギリスにはハサミムシが耳から侵入して人を操ると言う言い伝えがあるらしい)

 変な名前なので、孤児院ではアーヤ・ツールと名づけました。
 アーヤは、孤児院でそこそこ快適に暮らしていました。ところが、あるとき、怖い魔女とおそろしい男の二人組が孤児院に現れて、アーヤを選んで引き取って行きます。

 そこは、出口のない魔女の家。横暴な魔女に虐待されながら働くことになったアーヤは、負けん気強く、なんとかやり返そうとしますが…… 

 と、いうのがあらすじ。

 アニメーションのほうもだいたい、この流れ。
 魔女たちが昔ロックバンドをしていた設定と、美人のアーヤのお母さんはアニメオリジナル。原作ではすべてが謎です。

 ダイアナファンが読むと、「アーヤと魔女」は長い長い物語の導入にしか感じられず、「誰一人として最初のすがたのままではない」ダイアナ・ウィン・ジョーンズの作風からすると、とんでもない展開が待っていたはずなので、続きがないのは本当に残念なのです。

 たとえば、(以下はただのわたしの妄想ですが)

 じつはアーヤ自身が「追われていた魔女」本人で、自分を赤ん坊に変えて追っ手をまこうとしていた。 とか、
 じつはカスタードも魔法使いで、アーヤと一緒に駆け落ちしたのだが、アーヤと一緒に子どもになる魔法を自分にかけて孤児院にもぐりこんだ とか
  じつはトーマスは、本当にカスタードだった とか

 そういう「じつは」が山ほど出てくるのがダイアナのファンタジーなのです。(そして、こんなわたしが思いつく程度のわかりやすそうな話ではなかったりする)

 アーヤは、ダイアナ・ウィン・ジョーンズのヒロインによくある、「本人は魔法を使えると思っていないけど、無意識に魔法を使っている」タイプの少女。「魔法使いハウルと火の悪魔」のソフィーも原作ではそういう設定です。
 ソフィーは無意識に帽子に魔法をかけて売っていて、それがあまりにも強力だったので荒地の魔女に目をつけられて、襲われてしまう、というのが原作の設定でした。

 この物語のヒロイン、アーヤは、たくましく、ふてぶてしく、負けず嫌いです。

 しかし、この可愛げのない性格にごまかされていますが、アーヤの境遇は、よくよく読むと、ふつうの女の子が立たされるにはかなり過酷な状況なのです。
 孤児院でそこそこ快適に暮らしていたアーヤがもらわれた先は、ちっとも優しくない魔女の家。そして、その相棒は、角のある、おそろしげな男。

 家は不思議な構造をしていて、外側からは玄関があるのに、内側からは外へ出られません。自分の部屋の窓も、外は見えるけれど、開けられないようになっています。薬草がジャングルのように茂っている庭には、草をとりにゆくことはできるけど、時空がゆがんでいるのか、玄関側にまわることができません。
 しかも、魔女の部屋は、想像を絶する汚さで、清潔な孤児院で育ったアーヤはびっくりしてしまいます。

 助けてくれる両親もなく、閉塞された魔女の家で、まったくの軟禁状態になったアーヤは、朝から晩まで魔女ベラ・ヤーガの手伝いをさせられることになりました。
 でも、負けず嫌いのアーヤは、なんとかこの状況を打破する決意を固めるのです。

 最初に味方になってくれたのは、黒猫のトーマス。しゃべる猫のトーマスと力をあわせて、アーヤは魔女ベラにひとあわふかせようとします。

 このあとは、すごくたくさんの事件があったんだろうなと思うのですが、物語はベラとの最初の対決でアーヤがやりかえしたあたりで終了しています。
 どう考えても、このあと、何らかの事件がいくつか予定されていたと思うのですが…、いきなり一年後になってお話が終わっているので、このあたりで病状が悪化したのだと思われます。

 アニメーションを見て「続きはないの?」と感じた方が多いと思いますが、そういうわけなのです。

 原作のアーヤの魔法は「どうやったかわからない」とベラに言われてしまうところがあるくらい、無意識レベルなのですが、アニメーションのほうでは、昭和の昔のドラマにはよくいた「ちゃっかりさん」みたいな性格になっていました。

 現代に名残が残っているとしたら、「サザエさん」のカツオ君みたいな感じでしょうか。児童文学の世界だと、トム・ソーヤーとか、男の子だとわりといるタイプ。

 大人がお仕置きをしようと押入れや物置小屋に閉じ込めても、それをなんとかして隙間をこじ開けて、外へ飛び出してしまうような子どもです。

 宮崎駿監督がこの物語を選択し、吾郎監督に託したのは、そんな時代の子どもたちの匂いがしたからかもしれません。

 たしかに、「未来少年コナン」を女の子にしたようなヒロインは見たことがあるけれど(長くつ下のピッピとかね)、トム・ソーヤーを女の子にしたような子は珍しいかも。そして、チャーミングに描くのは、案外難しい。でも、アニメーションでは、かわいく、魅力的に描かれていました。何かをたくらんでいるときのアーヤの、瞳がきらりとする表情がとてもかわいい。いじわるそうにイヒヒと笑うところもコミカルです。

 

  本の「アーヤと魔女」のほうはダイアナファンのコレクションという気持ちでなければ少し物足りないかもしれません。ジョーンズ作品をいちども読んだことがない、という方には、むしろ「魔法使いハウルと火の悪魔」からお読みになるのが良いでしょう。

 内容的には小学校低学年から読めるのですが、簡単な漢字に振り仮名が足りません。簡単な漢字を調べながら、読み聞かせしてもらいながらなら、読めると思います。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブなシーンはほとんどありません。楽しいファンタジーです。ヒロインがとにかく、強くて、負けず嫌いです。ジョーンズの遺作なので、ファンのコレクションアイテムとしておすすめ。

 佐竹美保先生のかわいい挿絵がふんだんに入っています。
 読後は、熱い紅茶とビスケットでティータイムを。

商品紹介ページはこちら

ダイアナ・ウィン・ジョーンズの魔女ものと言えばこれ

「ハウルの動く城」の原作はこちら

宮崎吾郎監督と言えばこれ

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