【魔法博物館の謎】魔法博物館に残された謎の巻物は? アメリカ発ゴシックファンタジー児童文学【ルイスと不思議の時計 7】【小学校中学年以上】

2024年3月7日

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魔法博物館の謎  ルイスと不思議の時計 7   ジョン・べレアーズ/作 三辺律子/訳 静山社

ルイスとローズ・リタは、学校のタレントショーで手品をやることになりました。そのネタ探しに近くの「魔法博物館」に訪れます。そこで怪しい巻物に出会い……

この本のイメージ ホラー☆☆☆☆☆ 学園ドラマ☆☆☆☆☆ 思春期☆☆☆☆

魔法博物館の謎  ルイスと不思議の時計 7   ジョン・べレアーズ/作 三辺律子/訳 静山社

<ジョン・べレアーズ>
ジョン・ベレアーズ(John Anthony Bellairs、1938年1月17日 ~1991年3月8日)は、アメリカの小説家。児童向けのファンタジー小説を得意とした。代表作として『霜のなかの顔』、「ルイスと不思議の時計」シリーズ、「ジョニー・ディクソン」シリーズなど。

 

 アメリカ発子供向けゴシックホラー小説「ルイスと不思議の時計」シリーズ第7巻です。原題はThe Specter from the Magician’s Museum.(魔法博物館の幽霊)
 原作者のジョン・べレアーズは、実は3巻が出版された後死去しており、4巻以降はべレアーズの死後遺稿をもとにSF作家のストリックランドが引き継いで執筆しました。6巻の「オペラ座の幽霊」まではべレアーズの原案が残されていたようです。

 ですので、この7巻から完全に、新しい作者に引き継がれて書かれたようです。

 お話は……

 学校の課題でタレントショーという、一人ひとりが(チームを組んでも良い)ステージの上で芸をするイベントがやってきました。ルイスとローズ・リタは嫌でたまらなかったのですが、二人で組んで手品をすることにします。

 近所にあった手品師の博物館「魔法博物館」にネタを探しに行ったふたりですが、そこで奇妙な巻物と灰色の粉を見つけます。

 紙で指を切ったローズ・リタの血が灰に触れ、何かが生まれた気がする二人。でも、ジョナサンたちに言い出せなくて、なんとなく時を過ごしてしまいます。

 いっぽう、がんばって準備をしていた「タレントショー」は、当日の手違いで大失敗、ふたりは生徒たち全員に大笑いされてしまいます。

 傷つくルイスと怒るローズ・リタ。しかし、その日からローズ・リタの様子がどんどんおかしくなって……

 と、いうのがあらすじ。

 ふたりが思春期の悩みや、つらさからどう立ち直るかというのが今回のテーマです。

 ちょっと脱線してしまって恐縮なんですが、
 わたしは、フィギュアスケートが大好きです。超古参ファンというわけではありませんが、浅田真央ちゃんが話題になって、華やかにテレビ放送が始まったころから、楽しく試合を見てきました。

 わたしがフィギュアの試合、とくに日本開催の試合でいいなあと思うことのひとつに、選手のミスや、ジャンプの失敗に対しての、観客の温かい激励の拍手があります。

 フィギュアの試合って、ノーミスで勝った選手だけでなく、ミスをしても頑張っている選手に対して、心のこもった手拍子をするんです。すると、どんどん選手の表情がよくなって、生き生きと滑り、後半見事に巻き返す展開を見せてくれて、これが醍醐味なんですよ。

 もちろん、巧みにミスを振り付けのように踊ってしまう人や、ジャンプの失敗を神業的にリカバリーする選手もいます。でも、そんなふうにできなくても、観客は必死に手拍子するし、そういう雰囲気が好きなのです。

 有名なのは、2014年の羽生結弦選手の、中国杯のフリーです。プログラムは「オペラ座の怪人」

 フィギュアスケートファンなら誰もが忘れない試合ですが、このときの羽生選手は三回転ジャンプをひとつと、コンビネーションをふたつ以外、五つのジャンプを失敗し、転倒しています。しかし、これは伝説のプログラムとなりました。(なぜ、このような試合になったのか、詳しくは検索してみてください。じつは中国語版解説が一番詳しいのですが、もう見られないかもしれません)

 この状態で試合に臨むことの是非は後日問題になりましたが、このときの割れんばかりの拍手が、これぞフィギュアスケートと思わずにはいられません。会場は中国でしたが、日本からの応援団もたくさんいましたし、勝ち負けを抜きにして、選手を応援するすばらしい試合だったと、今でも思います。

 今回の「魔法博物館の謎」では、ルイスとローズ・リタは、念入りに準備していたタレントショーで、大失敗をしてしまいます。失敗の理由は、ルイスが不測の事態に対応できないことや、失敗したときの予備策を考えていなかったこと、アドリブで失敗をお笑いにできなかったことなど、さまざまありました。

 また、ローズ・リタは思春期で、恥じらいを強く感じる年頃になっていて、舞台の上で失敗したのを生徒たち全員に笑われることが耐えられなかったのです。

 このあたり、当初の「ルイスと不思議の時計」の雰囲気と違ってきてると思うのは、おそらくべレアーズが書いたら、「タレントショーでルイスの手品が失敗し、生徒たちに大笑いされて傷つき」「傷ついているルイスを見てローズ・リタがクラスメイトを憎み、その憎しみが亡霊を呼ぶ」と言う展開にしたと思います。今回、ふたりの精神的な傷に関連性がなくばらばらだったのは、唯一残念なところ。

 さて、この失敗に対して、ジョナサンは「失敗をうまくお笑いにできたらよかったのに」と言うアドバイスをします。

 たしかに、そういうふうに演出すると「笑われている自分」は「笑わせている自分」に転換できるので、少し楽になるんでしょうね。これは処世術です。

 でも、フィギュアの振り付けを失敗したときに失敗を振り付け風に見せてしまうのにも、事前にたいへんな練習と技術が必要なように、手品の失敗を即座にギャグにしてしまうのは、なれない子供にはすぐにできることではありません。

 実際にそういう場になったときに、どれだけの人がうまくできるか。

 ツィマーマン夫人は「あなたもいずれ、忘れて、こういうことはどうでもよくなる」とローズ・リタに言いました。
 それが本当にそうなるかどうかは、その時の周囲の人々がどれだけ温かかったかにかかってくる気がするのです。

 「いつかどうでもよくなるわよ」と言ったツィマーマン夫人は、彼女本人が非常に愛情深く、わが子のようにルイスやローズ・リタを想い、絶体絶命の時には命がけで駆けつける人だからこそ、彼女の言葉が予言のように心に響くわけで、そこは誰もが言っていい言葉ではないし、難しい問題だと感じました。

 
 ふたたびフィギュアスケートの話になりますが、フィギュアの、ジャンプしている瞬間の写真って、歯を食いしばっているので絶対変な顔になるんですよ。
 でも、ニュースなどで使われるのは、たいていその空中写真なので、気の毒なんです。

 転倒したときの変なポーズとかも、よく使われます。思春期の女の子達なのに。
 そういう場でいつも闘っている人たちは、本当に大変なのだろうと感じて応援してきました。
 そんな写真、見ているほうはぜんぜん楽しくないんです。負けた試合だとしても、もっといい写真を使ってほしいと、どんな選手のときも思います。

 そして、やっぱり、失敗した選手にあたたかい手拍子がはずむ、フィギュアスケートの試合は、わたしは好きなのです。

 今回、ルイスたちは、辛い体験を乗り越えて、一回り大きく成長します。ルイスの体験したことは、両親を失う辛さとか哀しみに比べたら小さいことです。けれど、種類の違う辛さだし、そういう辛さを持つことが、欠点だとは思いません。

 もちろん、乗り越える強さをもてれば、生きやすくなる事は確かですが……。

 けれど、大事件を乗り越えたルイスとローズ・リタの友情は深まったし、ジョナサンやツィマーマン夫人たちとの結束も強くなりました。そうやって、人と人のつながりは強くなってゆくものなのかもしれません。

 字はほどよい大きさで読み易く、すべての漢字にふりがながふってありますので、小さいお子さまでもがんばれば1人で読めます。だいたい、小学校中学年以上向けですが、賢い子なら低学年からでもこつこつ読むことができるでしょう。

 大人が読んでも楽しめる、ゴシックホラー小説です。

※この本だけでも話は通じますが、一巻から読んだ方が理解しやすく面白いです。現在、単行本版は一時品切れになっているものもあり、全巻そろえようと思うとペガサス文庫版のほうが入手しやすくなっています。どちらもリンクしておきます。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 HSCにとっては、つらい、精神的に負担の多い展開があります。タレントショーで失敗して、その後ルイスとローズ・リタが落ち込みます。そこは、共感力の強いお子様の場合は、保護者の方が気をつけてあげてください。
 ベテラン手品師たちが、自分のステージでの失敗談を話して、ルイスを励まそうとするシーンが、ほろりとします。途中で読むのをやめそうになった場合は、ここまで読ませてあげてください。いいシーンです。

 「ルイスと不思議の時計」のシリーズは、食事シーンやおやつのシーンがとにかくおいしそうなのが魅力です。
 読後は、熱い紅茶とチョコチップクッキーでティータイムを。

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