【魔女の宅急便】キキの物語三冊目。はねっかえり魔女ケケ登場【キキともう一人の魔女】【小学校中学年以上】

2024年3月7日

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魔女の宅急便その3 キキともう一人の魔女 角野栄子/作 福音館書店

コリコの町での生活も安定してきたキキのもとに、不思議な女の子がやってきました。彼女の名前はケケ。ケケは魔女なのか、魔女じゃないのか……はねっかえりのケケにキキはふりまわされっぱなし。

この本のイメージ 魔法とは☆☆☆☆☆ 自分とは☆☆☆☆☆ 生き方をえらぶ☆☆☆☆☆

魔女の宅急便 その3  キキともう一人の魔女 角野栄子/作 福音館書店

<角野栄子>
日本の童話作家、絵本作家、ノンフィクション作家、エッセイスト。日本福祉大学客員教授。代表作は「魔女の宅急便」。

 「スタジオジブリ」によって、アニメーション映画にもなった「魔女の宅急便」3巻目です。

 映画からこの物語を知って読み始めたわたしですが、いつも元気はつらつとしたキキではなく、原作のキキは、かなり繊細で傷つきやすく、悩みやすい子だと気がつきました。けっこう内にこもるタイプなのです。

 はじめての町での生活や、魔女として働き始めたわくわくと、仕事へのとまどい、出会った人との交流を描いた1巻と2巻に比べ、3巻は強烈な新キャラが現れてキキを振り回します。

 キキは16歳になりました。

 そんなキキのもとに、不思議な少女、ケケが現れます。髪をさかだててふたつに結び、黒いドレスを着たケケはまだ12歳。こまっしゃくれていて、ずうずうしく、ズケズケとモノを言うのに正体不明。
 ケケはいつのまにか、キキのもとに居候してしまいます。

 いっぽう、キキのもとに、不思儀な手紙に導かれて、古い本がやってきます。
 中を見ることも出来ない、不思議な本。誰のものかもわからないまま、キキは本を預かります。

 ケケが来てからの毎日は、なんだか調子が狂いっぱなし。ジジとケンカしたり、自分の流儀をやぶってしまったり……
 自己嫌悪に陥ることもしばしばなキキですが、それでも、こつこつと仕事をこなし、困っている人を助け、迷いながら悩みながらがんばります。

 そして、やがて…… というのがあらすじ。

 今回のお話では、キキとケケのでこぼこな交流を軸にして、様々な人たちのお困りごとを助けます。
 テーマは「自分とは何なのか」

 自分は何をするべきなのか、どう生きてゆくべきなのか。

 これと言うものを見つけて生きている人でさえ、道のりの途中で迷うことや悩むこと、くじけそうな時があります。
 そんなときに、どう自分の中心へと戻ってゆくか、そういうお話です。

 キキは、地道に一つ一つ、できることを増やしてきました。最初は「ほうきで飛ぶ」だけ。これは生まれつきの「血」で飛ぶものでした。つまりキキには才能があったのです。

 「空を飛ぶ」と言う才能を生かして、幼いキキはただただ楽しく人の役に立っていました。けれども途中で才能だけではうまくゆかない事態が出てきます。それが、スランプでした。

 スランプとは、いままで「感覚的に」うまくできていたことが、どういうわけかできなくなってしまうこと。本能でできていたコツを忘れてしまうことです。

 そんなとき、キキはお母さんから「くしゃみの薬」を教えてもらい、作れるようになりました。これは、勉強してあとから身につける技術です。
 技術と言うのは、先天的な才能や本能で行う仕事が、なんらかの事情でできなくなったときに、人を支えてくれる後天的な財産です。手順どおりにしっかり創れば完成するものですから。

 3巻のキキは、この「くしゃみの薬」も、自分なりのアレンジで使えるようになりました。これは職人的成長です。

 ここまで段階を踏んで成長してきたキキのもとに、ケケが現れます。

 ケケはまだ12歳。魔女なのか、魔女じゃないのかわからない、正体不明の女の子です。
 でも、なんだかふてぶてしくて、強気で自信満々。かわいらしくてこまっしゃくれていて、キキは心をかき乱されてしまいます。

 両親に可愛がられてきた一人っ子の女の子のもとに、歳の離れた妹ができたようでした。
 でも、自信満々でなんでもできる(ように見える)ケケといると、キキは自分のペースを見失ってしまうのです。

 たとえば、ケケは空を飛べません。それだけでもキキは自信をもっていいはずなのに、空を飛べないケケが飛べるキキよりも、どうしてだか速く移動できるようだと気がつくと、キキは自分の能力がつまらないもののように感じられてしまうのです。

 イライラしたキキはジジとけんかをしてしまい、ジジは家出をしてしまいます。

 ジジはジジで冒険のすえ、自分はやっぱりキキといるんだと決心します。今回は、キキとケケの交流物語の合間合間に様々なお客さんの注文が入りますが、どれも「自分の人生とは何か」と言うお話でした。

 さまざまな経験をして、ケケともわかりあうキキ。

 ラストまで読んでよくわかったのですが、この物語は、あくまでキキの内面の物語なのです。
キキは、直接ケケと何をどうするわけでもなく、自分の内面で自分と会話して、自分と決着をつけ、そして成長します。
 「自分の外側でなにがあろうとも、わたしはこうなんだ」と言う軸に戻ってこれたのです。

 それによって、ケケともわかりあうことができました。

 他人とうまくゆかないように見えるときも、それは他人とぶつかっているわけではなくて、自分自身と折り合いがついていないだけなのだ。自分の軸に戻ってくることが出来れば、どんな人ともうまくやってゆける。

 魔女の宅急便第3巻は、こう言うお話でした。

 今回も、われらがおソノさんは健在。特別なにをするというわけではないのですが、いるだけで心が落ち着く、絶対の安定感。娘のノノちゃんと、ちっちゃな息子のオレくんの世話をしながら、元気にグーチョキパン屋をきりもりします。
 おソノさんが出てくるだけで、癒されます。最強。

 このシリーズって、かなり哲学的なお話なんですね。

 一般的な物語なら、何らかの事件でケケが危機に陥って、わだかまりを捨ててキキが助けに行き、それによってふたりが仲良くなるとか、もう少し外的に動きのあるお話になると思います。

 こういうステレオタイプ的な、言ってしまえば楽にまとまる方法をあえてとらず、一人の女の子の内的宇宙の成長をこんなふうに描ききってしまう角野先生の筆力に、ただただ脱帽。

 それなのに、けっして小難しくなく、思春期の女の子の心に寄り添うように、瑞々しく、生き生きとしているのです。

 難しい漢字にはふりがながふってありますので、小学校中学年から読めると思います。
 思春期の女の子の乙女心の描写もありますが、年下の妹みたいなケケとの交流がメインなので、つい張り合ってしまったりつい意地をはってしまう、女の子同士の友情や姉妹愛にも似ていて、小さなお子様でも共感できるでしょう。

 男の子が女の子の気持ちを知りたいなら、「魔女の宅急便」シリーズはおすすめです。魔女と言う不思議な才能はありながら、等身大の、ふつうの女の子のキキの気持ちが、まっすぐにすーっと伝わってきます。

 とても内省的なお話なのに、静かな風がふくようにさわやかなのです。

 小学校中学年以上なら、どんな年齢でもたのしめる、良質な児童文学です。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 暴力的なシーンや残酷シーンはいっさいありません。とても繊細で哲学的な側面のあるファンタジーです。
 HSPHSCのほうがより多くのことを感じ取るでしょう。細かいエピソードのオムニバスだった1巻2巻にくらべ、ケケという強烈キャラクターが振り回してくるので、3巻のお話のほうがダイナミックで盛り上がりもわかりやすい。
 でも、キキの成長は順を追っているので、かならず一巻から順番にお読みください。

 子供向けのお話ですが、大人の心にも入ってくるものがあります。働く女性の週末の和みタイムにもおすすめです。

 読後は、ぜひ、チョココロネでティータイムを。

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