【神秘の島】海底二万里の続編。孤島に流れ着いた男たちのサバイバル【中学生以上】

2024年3月7日

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神秘の島 上下 ジュール・ヴェルヌ/作 清水正和/訳 Jフェラ/画 福音館書店

南北戦争のさなか、南軍の捕虜として囚われていたサイラス、ジュデオン、ペンクロフ、ハーバート、ナブの五人は気球で脱出を試みました。しかし、折からの嵐で気球の軌道はそれ、絶海の孤島に漂着します。彼らのサバイバルがはじまりました……

この本のイメージ サバイバル☆☆☆☆☆ 無ければ創る☆☆☆☆☆ ネモ船長の謎☆☆☆☆☆

神秘の島 上下 ジュール・ヴェルヌ/作 清水正和/訳 Jフェラ/画 福音館書店

<ジュール・ヴェルヌ> 
1828~1905年。ブルターニュ地方生まれ。フランスの作家。法律を学ぶが,文学の道を志す。30代半ばに出した『気球に乗って五週間』で成功をおさめ,以後つぎつぎに80作を超える冒険小説を書き「空想科学小説の父」と呼ばれる。著書に「地底旅行」「月世界旅行」「八十日間世界一周」など

 ジュール・ヴェルヌの名作、「神秘の島」です。原題は、L’Ile mysterieuse (1875年)
 福音館書店から、人も殺せる分厚さの上下巻が出版されています。厚い。重い。でも、面白い。

 福音館の、この完訳シリーズ、(古典童話シリーズ)本当にいいですね。「ニルスのふしぎな旅」も面白かった!
「神秘の島」でも、表紙裏は島の地図になっており、読みながら主人公たちの位置を確認することができます。

 お話をかいつまんで説明しますと、

 南北戦争のさなか、南軍の捕虜として囚われていた北軍の技師のサイラス・スミス、新聞記者のジュデオン・スピレット、水夫のペンクロフ、ハーバート・ブラウン少年、サイラスに助けられた召使いナブの五人と犬のトップは、南軍が北軍を攻略するために使われる予定だった気球に乗ってリッチモンドから脱出します。
 しかし、折からの嵐で気球は軌道をそれ、彼らは絶海の孤島に漂着してしまいました。

 無人島に遭難した五人は、その島をリンカーン島と名づけ、生き延びますが、そこは大きな秘密を抱えた島でした。
 そして、やがてその島には、脅威が訪れ、彼らは凶悪な敵たちと戦うことになります。

 彼らは生き延びられるのでしょうか。そして、この島の秘密とは?

 ……と、いうのがあらすじ。

 無人島でのサバイバルものの主人公と言ったらどんな人を想像するでしょうか。おそらく、ほとんどの人が、体力があってクマやジャガーとでも格闘できる、武術にすぐれた人間だと思うんじゃないでしょうか。

 ところがどっこい、この「神秘の島」の主人公は、サイラス・スミスという技師なのです。

 技師は技師でも、不可能な事はないのじゃないかと思えるくらいの天才技師。
 「サイラスぬきでニューヨークの大都会にゆくより、サイラスと無人島にゆくほうがいい」と言われるほど、仲間たちに信頼されている彼ですが、ここまで頭の中の知識のみでカリスマを放つ人間を描けるのはジュール・ヴェルヌくらいじゃなかろうか。

 最初、サイラスと他の四人は、嵐でばらばらに漂着するのですが、ペンクロフたちが火を起こすだけで四苦八苦してきたのに、サイラスと合流したら、彼は一分とかからずに火をおこしてしまうのです。
 自分たちの時計に使われていたガラスをレンズとして使って。

 火が使えるようになったら、次は、彼は粘土をこねてレンガを作り、レンガを積んで釜を作りました。釜はレンガを積んだ状態でそのまま焼成。

 その後は、その釜でありとあらゆる容器と食器、鍋を作ります、お次は鉄を製鉄し、斧、つるはし、シャベルを製造。こんな感じで、次々と必要なものを生み出してゆくのです。

 最初は貝を食べるしかできなかった彼らも、サイラスのおかげで、弓やナイフを手に入れ、あっという間に食生活が豊かに。

 火薬や爆薬を作れるようになると、岩壁を爆破して河の軌道を変えたり、岩壁の内側に住居を作ったりと、生活をどんどん快適にしてゆきます。

 こう書くと、文明の発展の歴史みたいですね。前半はまさに、そんな「開拓の歴史」が描かれます。
 後半では、この島の秘密が明かされてゆき、彼らが北軍の兵士だったことが重要な意味を帯びてきます。黒人奴隷解放のために戦ってきた彼らだからこそ、わかりあえる相手との出会いがあるのでした。

 基本的な展開は「二年間の休暇」に似てはいるのですが(「神秘の島」のほうが先に出版されていたようです)、あれは船ごと漂着したので、もともと船にあった設備や備蓄食料をかなり使うことができ、少年たちが二年間生き延びるのを助けてくれました。

 ところが、この「神秘の島」の5人には、身につけているもの以外何もなし。
 しかし、五人で力を合わせて、なんでも作ってしまうのです。本当に、「なんでも」

 ジュール・ヴェルヌのお話は、膨大な知識と緻密な計算で、想像上ではあるけれど「かぎりなく可能そう」に書いてあるので、リアリティがあり、それが読者をひきつけます。

 また、製鉄や鋳造の技術だけでなく、植物、動物、海洋生物の生態についても詳しく書かれており、お子様の知識欲を刺激してくれそう。「知っている」ってことはこんなにすごいことなんだ、と、わかりやすく教えてくれる冒険小説です。

 この物語は、「グラント船長の子どもたち」「海底二万里」「神秘の島」三部作の最終話らしく、「グラント船長の子どもたち」のネタバレと言うか、伏線回収のような展開があるので、こちらも読みたい。(現在はキンドルでしか読めないようです)

 いまでこそ名作、古典と呼ばれていますが、執筆された当時は、SFやファンタジーは文学とはみなされず「くだらない」と言われていたはず。しかし、やはり風雪に耐えて「名作」と呼ばれる古典には、骨太の力があります。
 子ども時代の忘れ物みたいな読書なのですが、やっぱり、古い本を読むのはやめられません。

 かなりボリュームがあり、読み応えのある上下巻です。中学生以上向けではありますが、難しい漢字にはふりがながふってあるので、できればぜひ、小学校高学年から挑戦していただきたい。子どもが読んだほうがわくわく感が大きい本です。読むのはちょっと大変ですが、面白いですよ!

 もちろん、まずは「海底二万里」から。「海底二万里」で謎のままだったことが、「神秘の島」でかなり明らかになります。

 今は、大人気のゲームでもネモ船長がキャラクターとなって登場しているようですから、ゲームでネモ船長を知った方も、原作に触れてみてくださいね。

 まだまだ地球上に未知の場所がたくさんあったころの、冒険小説です。地球儀や生物、植物図鑑を傍に置いてお楽しみください。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 後半の最後のほうに少し暴力シーンがあります。そう言うシーンがあるのだな、と身構えていれば大丈夫な人にはおすすめです。老若男女問わず、正統派の冒険物語を愛する方に。

 知ること、学ぶことの面白さ、素晴らしさを伝えてくれる物語です。

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