【ピッピ南の島へ】世界一つよい女の子の物語完結編。ついに南の島へ【小学校中学年以上】

2024年3月9日

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ピッピ南の島へ アストリッド・リンドグレーン/作 桜井誠/絵 岩波少年文庫

ごたごた荘に一人で暮らすピッピ・ナガクツシタは、パパは元船長で南の島の王様。そして、馬も持ち上げられるほどの力持ちで大金持ちなのです。さて、今回のピッピの冒険は……

この本のイメージ 荒唐無稽☆☆☆☆☆ 抱腹絶倒☆☆☆☆☆ 絶対無敵☆☆☆☆☆

ピッピ南の島へ アストリッド・リンドグレーン/作 桜井誠/絵 岩波少年文庫  

<アストリッド・リンドグレーン> スウェーデン生まれ。小学校の先生や事務員をしながら数多くの作品を発表し続けた。国際アンデルセン賞受賞。作品に「長くつ下のピッピ」「やかまし村の子どもたち」など。

 

 「長くつ下のピッピシリーズ」第3巻「ピッピ南の島へ」のご紹介です。原題はPippi Långstrump i Söderhavet.初版は1948年。
 この本は、現在、岩波少年文庫からしか出版されていません。 以前、小さなお子様のためのピッピ入門編としておすすめした「角川つばさ文庫」版では、「船にのる」までが翻訳、出版されています。つばさ文庫版の「船にのる」は一時、絶版かと思われましたが、再版されたようです。現在は、アマゾンで手に入ります。(そして、今度は「ピッピ」のほうが品切れ……)

 大人の読者は、岩波少年文庫で、「長くつ下のピッピ」「ピッピ船にのる」「ピッピ南の島へ」の三部作をそろえるのが良いでしょう。

 今回も、ピッピの無敵ぶりは健在。

 ごたごた荘を買収しに来たらしい大金持ちのおじさんを蹴散らし、ふさぎがちなラウラおばさんを励まし、生徒に点数をつける慈善家のルーセンブルムさんをやっつけます。

 爽快なのは、生徒にテストをして成績のいい子にはお菓子を上げるけど、悪い子には恥をかかせるルーセンブルムさんに対して、ユーモアで返しながら、成績の悪かった子どもたちにピッピが金貨とお菓子をあげてしまうところ。

 ピッピ、素敵すぎる。

 子供心で読むとピッピは、最高にかっこいいんです。けれど、大人になってから読むと、「こんな子がいたら、困っちゃうな」と大人の気持ちで考えてしまうので、ピッピの魅力が伝わりにくくなってしまいます。
けれど、今回、読み直して、そして、しみじみと考え直しました。

 大人が、大人の世界でいちばん必要とするものは、「お金」と「健康」です。

 お金と健康さえあれば、たいていの問題は解決できます。つまり、大人の世界では、お金と健康、どちらかが足りなかったり不安があるから、そのために、さまざまな事が思うようにゆかないのです。

 ところが、ピッピはどうでしょう。
 すでに金貨をざくざく持っている大金持ちです。そして、たいそう力持ちで、身体はとにかく頑丈で、運動神経も抜群。気持ちも優しくて、正義感も強く、性格は実に善良です。

 お金の心配はなく、健康で力持ちで、性格も良いとしたら、確かにピッピの言うように、無理して学校に行く必要はあるでしょうか。

 現実には、馬を持ち上げられるような力持ちなんていませんし、家のトランクに金貨が入っている家はないし、お父さんが南の島の王様なんて子もいません。

 だから、子どもたちは、毎日学校に行って勉強しなくちゃならないし、好き嫌い言わずになんでも食べなきゃいけないし、嫌いな体育の授業もうけなきゃいけません。

 けれど、まあ、それだけなんですよ。
 別に、ルーセンブルムさんのような人にほめられるために、頑張るわけではないんです。

 なんとなく、リンドグレーンが言いたいことが、おぼろにですが、わかってきました。

 わき目もふらずにしゃかりきに頑張っている子どもたちへのメッセージなのです。

 なんのために、そんなに頑張っているの、幸せになるためでしょ。幸せになるのって、もっと単純なことよ。ピッピをごらんなさいよ……

 そういうことなんだと、思います。

 最初は、ピッピのお行儀の悪さに辟易していた、トミーとアンニカのママ、セッテルグレーン夫人も、ピッピの優しい心根がわかってきます。
 そして、はしかにかかって身体が弱ってしまったトミーとアンニカが、ピッピと一緒に南の島へゆくのを許してくれます。

 トミーとアンニカは、ピッピと一緒に南の島で大冒険を楽しみ、ピッピはそこでも悪党を退治して大活躍し、三人の子どもたちは元気いっぱいで帰ってきます。

 「大人になんてなりたくない」と言う、トミーたち。最後はちょっぴりだけせつない雰囲気が漂います。

 「ずっとずっと子どものままでいようね」と幸せに終わらなかったのは、「忘れないで」と言うメッセージのように感じられてなりません。

 子どもたちには「今の気持ちを忘れないで」。
 大人たちには「あのときの気持ちを思い出して」。

 現実には、ずっとずっと子どものままでいることはできません。
 けれど、ピッピを読むと、現実の多くの問題が、大人の心で考えるから、ややこしくこじれているだけで、子どもの心で考えたほうが、単純に解決できるのでは、と思えてくるのです。

 たのしくて、ゆかいで、そして、振り返ると深く考えさせられる物語です。
 子ども時代ど真ん中のお子さまには、純粋に楽しめる物語として。
 大人には、子供心を思い出させてくれる、哲学書として。

 さまざまな側面を持つ児童文学の名作です。日常生活に疲れたら、お気に入りのお茶をいれて、ほっと一息してピッピを読んでみてください。

 人生、もっと簡単に考えていいんだな、って思えてきます。

 

 

 

 

 

※「長くつ下のピッピ」→「ピッピ船にのる」→「ピッピ南の島へ」の順。三冊全部読めるのは岩波少年文庫だけです。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はありません。ゆかいなファンタジーです。けれど、人によっては、「ピッピ、うるさすぎ!」と、思ってしまうかもしれません。そんなときは、「大人の自分」を脇に置いて読んでみてください。
 おばさんとおしゃべりするピッピは、うるさすぎかもしれないけど、悪党を退治してくれるピッピは頼もしいですよ。

 読後は、ジンジャークッキーでお茶をしましょう。ピッピの作るジンジャークッキーはおいしいんですよ。クッキーを床で作るけどね。

 

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