【丘の家のジェーン】「赤毛のアン」のモンゴメリが描く、家族再生の物語。【中学生以上】

2024年3月11日

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丘の家のジェーン モンゴメリ/作 木村由利子/訳 角川文庫

ジェーンは、裕福ではあるけれど厳しく冷たい祖母の屋敷で、社交界での交流に忙しい母と暮らしていました。父に似た自分を祖母が疎んじていることに気づきながら。そんなとき、彼女のもとに、死んだと思っていた父から手紙が送られてきて、ジェーンはプリンス・エドワード島に旅立つことになります。

この本のイメージ 自己肯定☆☆☆☆☆ カナダの大自然☆☆☆☆☆ 家族再生☆☆☆☆☆

丘の家のジェーン モンゴメリ/作 木村由利子/訳 角川文庫

<モンゴメリ>
ルーシー・モード・モンゴメリ(Lucy Maud Montgomery、1874年11月30日 – 1942年4月24日)はカナダの小説家。「赤毛のアン」の作者であり、本作を第一作とする連作シリーズ「アン・ブックス」で知られている。国際的に親しまれる英系カナダ文学の草分け的人物であり、日本で訳書が出版された最初のカナダ文学者。(Wikipediaより)

 

 本日は、「赤毛のアン」のモンゴメリの作品、「丘の家のジェーン」のご紹介です。
 原題はJane of Lantern Hill. 初版は1937年です。

 物語は…

 トロントのゲイ・ストリート六十番地のお屋敷に住むジェーンは、厳格で威圧的な祖母と、優しいけれど社交界の仕事に忙しい母と一緒に暮らしていました。

 父に似ているジェーンを祖母は可愛がらず、大きなお屋敷の中で、孤独に暮らしていたジェーンのもとに、死んだと思われていた父からある日突然手紙が届きます。

 なんと父は生きていて、プリンス・エドワード島でジェーンと夏の休暇をすごしたいと言うのです。
 戸惑うジェーンですが、それから彼女の運命は大きく動き始めました……

 と言うのがあらすじ。

 モンゴメリは、当時の女性としてはかなりのインテリで、しかも夫は牧師だったので、心理学的にも深い洞察があったように感じられます。

 「アンの愛情」でアンが結婚を決意する前に自分のルーツを訪ね、「自分が愛されて生まれてきたのかどうか」を確認するエピソードがあります。つまり、モンゴメリはアンが自立した女性として他者と新しい家庭をつくるために必要なことは「自己肯定」だと知っていたのです

 「丘の家のジェーン」は、それを一歩進めた物語です。

 ジェーンは、優しいけれど繊細な母とともに祖母の屋敷で暮らしていました。母は祖母にたいへん愛されていて、毎日きらびやかなドレスをまとい、社交界の交流に出てゆきます。母は上流階級の付き合いが忙しく、ジェーンと一緒にいる時間をつくるのがとても困難でした。

 父に似ているジェーンを祖母が憎んでおり、母と一緒にいることを歓迎しなかったためです。
 ジェーンは、大きなお屋敷で孤独に暮らし、そりのあわない上流の学校におびえながら通っていました。

 威圧的な祖母に𠮟られながら育ったジェーンは、痩せていて、いつもびくびくとおびえ、自分に自信はなく、成績は悪く、何をしても失敗ばかりでした。

 そんなとき、死んだと思われていた父から手紙が届きます。
 父とプリンス・エドワード島で夏休暇を一緒に過ごすことにしたジェーン。最初は嫌でいやでたまらなかったのに、父に会ったとたんにそれはすばらしい体験になります。

 父が自分を愛していることがわかったからです。

 その後は、ジェーンの成長と、そして家族再生の物語となってゆきます。

 自分がこの世に望まれて生まれてきた、父は自分を愛している、と知ったときからのジェーンの成長はめざましく、三ヶ月の休暇を終えたジェーンは別人のようになって屋敷に戻ってきます。

 そして、成長した気持ちで母や祖母を見ると、祖母や母の問題点も見えてきます。祖母から𠮟られてばかりだった自分の問題点も、どこまでが直すべき自分の問題で、どこからは祖母の問題かが、冷静に切り分けて考えられるようになります。

 母の「問題に立ち向かえない」性格も理解できるようになり、母の気弱な気質と父の芸術家的な考えがどうすれ違ったのかも理解できるようになるのです。

 これは、古くから言われていることなのですが、問題のある家庭に生まれた子どもは、いちはやく親より成長して、親より精神的に大人になることが、解決の近道になることが多いのです。
 それが、その後の人生に影を落とすこともありますが、ジェーンの場合は吉と出ました。

 天才の父と、深窓の令嬢の母は、ふたりともどこか子どもっぽく騙されやすく、周囲の人間の悪意で簡単に関係を壊されてしまうようなところがありました。
 精神的に成長したジェーンにはそれが理解できるようになるのですが、それは、愛されて育った両親とはちがい、大きな屋敷で祖母に疎んじられて、上流階級の学校になじめなくて孤独だったジェーンだから理解できたのです。

 はじき出されたコミュニティの外側から観察する時間を持てたジェーンだからこそ、そのような細かな人の心の機微を気づくことが出来たのでした。

 このおはなしの前半は、豪華なお屋敷で最高の贅沢に囲まれながら、身も心も縮こまって孤独に暮らすジェーンの物語、後半はプリンスエドワード島で成長を遂げ、自分を肯定できるようになったジェーンが周囲の人々の問題を解決する物語です。

 最初から、明るくてマシンガントークで相手を圧倒するアンとちがい、ジェーンは陰気でいつもびくびくしていて、内向的です。生い立ちを考えると、アンよりジェーンのほうがずっとリアルです。

 ジェーンの美徳はすぐれた問題解決能力。

 アンは、どちらかと言うと、「わたしにまかせて!」と、意気込むとたいていおかしなことになってしまう子でした。
 アンは問題解決に乗り出すより、相手を励ましたり元気付けたりするのが適任で、彼女自身が鼻息荒く行動を起こすと、アンのパワーに気おされてとんでもない方向に事態が動いてしまうタイプ。

 ジェーンは、アンよりずっと内向的で内気な性格ですが、そのぶん、彼女には冷静な解決能力があり、でしゃばりすぎずに現実的な方法で問題を解決できるのです。アンもかわいくて大好きですが、ジェーンもいいですね。

 わたしももう歳ですから、ジェーンの目覚しい成長を見ていると、読んでいるあいだに「ウンウンよかったね」と孫を見るような気持ちで目じりを下げてしまうのですが、ジェーンと同じくらいの年頃の子が読むと、励まされるはず。

 自己肯定できるようになってからのジェーンの精神的な成長やチャレンジ精神、あらゆることに向上心を見せて努力をいとわない姿勢はすばらしい。

 モンゴメリは「自己を肯定できないことで生まれる苦しみ」と、自分の苦しみを他人のせいにする「責任転嫁」や「怠惰」とは別次元の問題として完全に分けていて、そこがさすがと言う感じです。彼女の洞察は、この手の問題で苦しむ人の心のモヤモヤに、解答を与えてくれています。

 実際、アン・シャーリーはあまりにもエネルギッシュでポジティブすぎたため、このあたりの混乱をまねいていたのは事実です。当時「アンシリーズ」は大ヒットしましたから、もしかしたら「アンのように前向きになりなさい」とお説教のネタにされるような弊害があったのかもしれません。

 モンゴメリ自身は、アンよりずっと内向的な性格だったらしいので、ジェーンのほうがアンより作者自身に近いような気がします。

 子どもの頃はわかりませんでしたが、いま読むと、モンゴメリの小説は、小さな女の子から老婆まで、自己実現を望むすべての年齢の女性へのエールで満ちています。
 自分を理解して肯定してくれる人は、きっとどこかにいるのです。もし、いないとしても、物語の中にアンやジェーンがいます。

 「赤毛のアン」やリンドグレーンの「長くつ下のピッピ」は、ポジティブすぎてうるさすぎる、もうすこし落ち着きのある女の子の話が読みたいな、と言う場合は、「丘の家のジェーン」はおすすめです。

 あ、男の子もよかったら、挑戦してみてください。モンゴメリのヒロインは、どの作品でもかなり中性的な魅力があるので、男の子でも楽しく読めると思います。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 おすすめします。HSPHSCの方のほうが、多くのメッセージを受け取れると思います。ど直球の、自己肯定、自己実現、家族再生の物語です。

 人間が前向きに生きてゆくためのパワーのみなもととは何か、を誠実に描いています。
現在、苦しい状態でがんばっているお子さま、大人にもおすすめの名作。

 読後は、温かいお茶と、パンとジャムで、素朴なティータイムを。

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