【ガラスの靴】シンデレラの物語をエリナー・ファージョンの児童文学で。砂糖菓子みたいなキラキラのおとぎ話。【小学校高学年以上】

継母と二人のいじわるな義理の姉に、虐待されながら下働きをさせられる16歳のエラ。あるとき、お城から舞踏会の招待状が届きますが、継母の意地悪で、留守番させられてしまいます。ところが、不思議なおばあさんが現れて……
この本のイメージ キラキラ☆☆☆☆☆ 美しい☆☆☆☆☆ ミュージカル風☆☆☆☆☆
ガラスの靴 エリナー・ファージョン/作 野口百合子/訳 いわがみ綾子/挿画 新潮文庫
<エリナー・ファージョン>
エリナー・ファージョン(Eleanor Farjeon,1881年2月13日-1965年6月5日)は、イギリスの児童文学作家、詩人。父は流行作家、母はアメリカの有名な俳優の娘。正規の教育をうけておらず、家庭で教育を受け、膨大な父の蔵書と、家に訪れる数多くの芸術家達の会話によって、知識と想像力を養った。著書に「ムギと王さま」「リンゴ畑のマーティン・ピピン」など。
先週のフィギュアスケート世界選手権、男女ともにたいへんな空中戦となりました。こんな時代になったんですねえ。高難度ジャンプ時代は、少しのミスもゆるされないので、ちょっとした崩れで大きく順位が変動してしまいます。
羽生選手と紀平選手は残念でしたが、ショートはすばらしかった。鍵山選手、快挙です。なんという安定感でしょう。それに、のびのびとした雰囲気がいいですよね。あんなにあどけない感じなのに、伸びしろいっぱいありそう。宇野選手はちょっぴりほろ苦い結果となりましたが、エモーショナルな表現は世界一だと思っているので、来期プログラムが楽しみです。坂本選手のダイナミックな演技は、もっと点がもらえてもよかったなあ……と思ったり。(個人の好みです)
でも、海外選手もすばらしく、見ごたえのある試合でした。
フィギュアスケートの演技を見ているといつも思うのですが、人間が信じられない動きで跳んだりはねたり、猛スピードで移動しながら華麗に舞ったりするので、妖精みたいですよね。リアルなのにファンタジーな感じ。
と、言うわけで、本日は、正統派ファンタジー「ガラスの靴」のご紹介です。(おいおい、無理のある前フリでしょ!)
これは、イギリスのアンデルセンと言われるエリナー・ファージョンが書き起こした、童話「シンデレラ」の小説版です。
もともとは、1944年にエリナーと弟のハーバートとで共同で書いたファンタジー舞台の脚本で、それを書籍化したもののようです。初版は1955年。原題は、The Glass Slipper.
この物語を最初に翻訳したのは、石井桃子さんで、石井版は「ファージョン作品集」の7巻となっています。
石井版は全体的に言葉遣いがやわらかく、古風だけど、やさしい雰囲気。
野口版は華やかで、キラキラしていて、ゴージャスな感じです。
どっちも魅力的なのですが、時代の流れもあり、現代的な野口版のほうがわかりやすいと思い、本日はこちらをご紹介。
舞踏会のシーンのキラキラ感は、圧倒的に野口版のほうが素敵です。
さて、おはなしは、誰もがご存知の物語ですが、
16歳の少女エラは、いじわるな継母と二人の義理の姉に虐待されながら、下働きの女中のように働いていました。父親は気弱な男で、いつも働きに出ていて留守でした。
あるとき、お城から舞踏会の招待状が届きます。
王子様は運命の女性と出会うために国中の若い未婚の女性を招待したのでした。
期待に胸を膨らませるエラですが、継母によって、招待状を破り捨てさせられてしまいます。
悲しみにくれながら、留守番をしていたエラを、妖精が「ドコトモシレヌ王国の王女」に変身させて、かぼちゃの馬車でお城まで送り届けてくれました。けれども、その魔法の期限は夜の12時まで。エラは王子様と夢のような時間を過ごします。
しかし、ついに魔法の期限が来てしまい……
と、いうのがあらすじ。
ちょっとびっくりなのは、昔話ではたいてい死んでいるはずのお父様が、この物語では生きているのです。でも、ものすごく気が弱くて、モンスターみたいな継母に、いっさい逆らえません。
また、王子様は、優しくて素敵な方のようなのですが、なんだかちょっと繊細で頼りない感じなんですよ。
こんな世界で、日々辛い毎日に耐えながら頑張るエラは、芯の強い子です。
面白いのは、夢見がちなのは、エラのほうじゃなくて王子のほうなのです。エラも、若い娘らしい夢見がちなところはあるのですが、あんまりにもつらい毎日を耐えているので、どちらかというとあきらめ癖も強い。
ところが、夢見がちなほうの王子は、逆にあきらめないのです。「ドコトモシレヌ王国」の王女の残したガラスの靴を手がかりに、粘り強くエラを捜し求めます。
芯は強くて頑張り屋だけど、あきらめがちなエラと、夢見がちだけどあきらめない王子は、お似合いですね。欠点を補い合えると言うか。
グリム童話のシンデレラは、義理の姉二人の顛末が残酷でかわいそうなのですが(じつは、ふたりの姉は靴に足のサイズをあわせるために母親に指やかかとを切り落とされてしまいます。ちなみにグリムでは靴はガラスではなくふつうの靴)、この物語での姉二人はそこまでひどい目には遭いません。
エラの姉たち、アレスーザとアラミンタは、悪役としてなんともいえない愛嬌があって、最終的には和解します。
正統派のシンデレラ物語です。シンデレラってどういう話だっけ、と小説で読みたくなったらこれをどうぞ。
とくに深刻な人生訓や教訓話でもなく、残酷なシーンもなく、ただただ夢のように美しく豪華で、みんなが幸せになるハッピーエンドです。
ファージョンは、家中本だらけの家で、本にまみれながら読書漬けの毎日を過ごして育ちました。学校には通わず、正規の教育は受けませんでしたが、長じて作家となり、また、この「シンデレラ」のように舞台の脚本を手がけたりもしました。
作家としては、カーネギー賞とアンデルセン賞を受賞しています。
学校教育を受けずに育ったファージョンの書く世界は、浮世離れした独特の広がりがあり、固定された枠のない、自由なファンタジー世界は、魂ごと癒されるような魅力に満ちています。
この「ガラスの靴」は、ミュージカルの脚本を小説化しただけあって、お城や舞踏会のシーンがとにかくゴージャス。不思議なフェアリー・ゴッドマザーの魔法も、そして、エラが変身する「ドコトモシレヌ王国」の王女すがたも、まばゆく可憐で美しい。目に浮かぶような描写力です。
学校や仕事場で、がんばりすぎて、心身ともに疲れ果てて、ただ純粋に美しいものを感じたいときに、読んでみてほしい物語です。
大人なら、小さなころ憧れたおとぎ話の世界に包まれて、子供心が戻って来た気分になります。もちろん、いま子ども時代まっさかりの「幼心の君」にもおすすめ。
乙女心に癒される一冊です。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はありません。徹頭徹尾、キラキラのシンデレラストーリーです。
くたくたに疲れた週末には、とっておきの紅茶と、パステルカラーのカラフルなマカロンや砂糖菓子、マシュマロなんかをお供に、この小説で癒されてみてください。
たまには、そんな時間もね!
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