【地底旅行】ジュール・ヴェルヌの傑作SF。地底に広がる広大な世界への探検【中学生以上】

2024年3月11日

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地底旅行 ジュール・ヴェルヌ/作 平岡敦/訳 エドアール・リゥー/挿画 岩波少年文庫

アクセルは、叔父で鉱物学者のリーデンブロック教授とともに、地球の中心を目指して旅にでることになります。途中で、無口で頼りになるアイスランド人ハンスが加わり、三人は、火山の火口から地底に向かいます……

この本のイメージ 地球空洞説☆☆☆☆☆ 古典SF☆☆☆☆☆ 奇想天外☆☆☆☆☆

地底旅行 ジュール・ヴェルヌ/作 平岡敦/訳 エドアール・リゥー/挿画 岩波少年文庫

<ジュール・ヴェルヌ> 
1828~1905年。ブルターニュ地方生まれ。フランスの作家。法律を学ぶが,文学の道を志す。30代半ばに出した『気球に乗って五週間』で成功をおさめ,以後つぎつぎに80作を超える冒険小説を書き「空想科学小説の父」と呼ばれる。著書に「地底旅行」「月世界旅行」「八十日間世界一周」など。

 地球空洞説をご存知でしょうか。
 一般的に、地球は地下へ掘り進んでゆくとだんだん地熱が上がってゆき、灼熱のマントルがあり、その先にコアという地球の核があると言われています。

 ところが、この地球空洞説というのは、地下に広大な地下世界があり、海や陸地があり、生物がいて、独自の文明があると言う説です。

 最近の若い方はご存じない方のほうが多いかもしれませんが、一時期、SFやファンタジーでたいそう流行したネタです。

 いにしえの話ですが、昔は少女漫画にもSFやファンタジーというジャンルがあって、ひとつの雑誌に一人か二人、SF担当とファンタジー担当の漫画家さんがいたのです。歴史ものもありました。

 少女漫画のSFは、いま読んでも面白いものが多くて、山田ミネコ先生の「最終戦争シリーズ」、木原敏江先生の「銀河荘なの!」、萩尾望都先生の「11人いる!」など、名作ぞろいです。(古い!めまいがするほど古い!)

 地球空洞説を取り扱った作品では、高階良子先生の「はるかなるレムリアより」、石森章太郎先生の「星の伝説アガルタ」(石森(石ノ森)章太郎先生は、少女漫画家でもありました。というか、どんな雑誌にも縦横無尽に描きたいものを描いていた感じ)、わたなべまさこ先生の「プルトンの息子たち」などがあります。

 「はるかなるレムリアより」と「プルトンの息子たち」は当時大好きでした。あの当時は、宇宙だけでなく、地底にもロマンがあったんです。

 この物語は、そんな「地球空洞説」SFのなかの一つ。
 原題は、Voyage au centre de la terre. 初版は1864年です。挿絵はエドアール・リウー。

 物語は……

 ハンブルグで鉱物学を研究するリーデンブロック教授は、古書店で謎めいた古文書を入手します。そこに挟み込まれていた紙片には、ルーン文字による暗号が書かれていました。

 暗号の主は、16世紀の錬金術師にして学者、アルネ・サクヌッセンム。

 解読した内容は驚くべきもので、アイスランドのスネッフェルス山の火口から地下に降りてゆくと地球の中心にたどりつけるというのです。

 興奮したリーデンブロック教授は、甥のアクセルを連れて地底への旅に出ます。途中、アイスランドで無口で頼れる道案内のハンスを雇い、三人は、未知なる地下への冒険に乗り出します……

と、いうのがあらすじ。

 この物語は、純粋なる空想と冒険の物語です。
 サバイバルものにありがちな、人間関係のこじれや、教訓的エピソードなどはいっさいありません。ただただ、少年らしい好奇心に満ちた、わくわくした冒険物語です。

 このリーデンブロック教授というのが、「動物のお医者さん」の漆原教授系というか、とにかく猪突猛進、自分の好奇心と研究のためには人生のすべてを犠牲にしてもいいタイプ。そして、信じられないほどのスーパーポジティブシンキングで、最終的には「まあ、なんとかなるだろう」と、いかなるときも「前進」の方向に舵を切る人です。

 あれですね、よく、ビジネス書や自己啓発書で「こうしなさい」とすすめられていることがすべて息をするようにできる人。

 ですが、そう言う人は、傍にいるとたいへんな迷惑になることもあるという見本のような人です。

 甥のアクセルは、この物語の主人公。
 ごくふつうの、しかし、異様に耐久力の強い青年です。
 「ええ~っ、勘弁してくださいよ~」って言いながら、とんでもないことに耐え切る人がいますよね。あれです。勘弁してくださいよとか苦笑いしているレベルじゃないだろ、っていう。

 アクセルは常に、このトンデモ教授に振り回されますが、どういうわけか死なない。作品中も、ふつうの人間ならどう考えても死んだだろう、と言うシーンが3~4回あります。でも死なない。
 これはこれで、たぶん、ふつうの人間ではない。ふつうっぽく見えるけども。

 最後がハンス。「海底二万里」のコンセイユのような真面目さと、ネッド・ランドのような強さを兼ね備えた男です。無口で頑丈で頼りになり、ピンチのときは絶対助けてくれる、真面目で無骨なケワタガモの猟師。ジュール・ヴェルヌの小説ではわりと出てくる縁の下の力持ちタイプですが、見た目は、青い目と赤い長髪という、一行の中ではいちばん派手な容姿です。

 この三人が、誰も見たこともない、地下の世界を大冒険します。

 地下の世界は、当時の科学的根拠はあるにせよ、ヴェルヌの完全な空想の世界なので、次は何が出てくるのかな、どうなるのかな、と言うわくわくの連続です。
 生きるか死ぬかの冒険譚にありがちな、メンバー内のケンカや水や食べ物の取り合いなどのエピソードはまったくありません。こんな勝手なリーベンブロック教授ですが、地底では自分のぶんの水を我慢して溜めておいて弱っているアクセルにあげたりします。いい人。

 戻ることも考えず、ただひたすら地球の中心へ向かう三人ですが、最後はおっとびっくりな形で、地上に戻ってきます。
 けれど、当時はこういう説があったんですよ。

 ヴェルヌの持つ、歴史や、火山や、地質学、鉱物学の豊富な知識をもとにして書かれた奇想天外な地底世界の描写は、さすがの臨場感。

 人間同士の小競り合いや揉め事などがなくても面白い冒険小説は成立するのだと、ラストまで読むとしみじみと実感します。チームリーダーはあきらかにド変人なのに、物語は正統派。

 地底世界って、もう21世紀ではかなり忘れられたSFネタですが、このレトロな雰囲気も含めて、楽しんでみてください。ややこしい人間ドラマはいっさいなし、のシンプルなアドベンチャーストーリーです。

 リーベンブロック教授のスーパーポジティブと、アクセルの打たれ強さ、無口なハンスのたのもしさも、さわやかな癒しになります。

 まだの方は、ぜひ、この不思議レトロなSFを、体験してみてくださいね。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素がほとんどありません。危機に継ぐ危機、冒険に継ぐ冒険ですが、わくわくドキドキいっぱいの、正統派古典SFです。人間同士のもめごとや小競り合いなどはいっさいなく、読後感もさわやかです。
男の子にも女の子にも、大人にもおすすめ。

 読後は、ドイツ菓子とコーヒーか紅茶で、ほっと一息してください。

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