【ドリトル先生】100年前の動物ファンタジー! 動物と会話できる獣医さんと緑のカナリアの大冒険【ドリトル先生と緑のカナリア】【小学校中学年以上】

2024年3月11日

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ドリトル先生と緑のカナリア 【ドリトル先生シリーズ 12 】 ヒュー・ロフティング/作 井伏鱒二/訳 岩波少年文庫

これは、ドリトル先生がカナリアのプリマドンナピピネラと出会った頃のお話。ピピネラの数奇な生い立ちと、そして、ドリトル先生がピピネラのかつての飼い主を探す冒険譚です。

この本のイメージ 女の半生☆☆☆☆☆ 後半はサスペンス☆☆☆☆☆ 歴史背景を知ろう☆☆☆☆☆

ドリトル先生と緑のカナリア 【ドリトル先生シリーズ 12 】 ヒュー・ロフティング/作 井伏鱒二/訳 岩波少年文庫

<ヒュー・ロフティング>
1886~1947年。イギリス生まれ。土木技師を経て、1912年アメリカで結婚し、文筆活動に入る。著書にドリトル先生シリーズ。

 ドリトル先生シリーズ第12巻、「ドリトル先生と緑のカナリア」のご紹介です。原題はDoctor Dolittle and the Green Canary.初版は1950年。日本での初版は1961年です。

 これはロフティング最後の作品で、あと一息で完成と言うところで作者が死去したため、ロフティングの妻ジョセフィンの妹オルガ・マイクルによって完成されました。
 オルガはロフティングの執筆中資料集めなど、かなりの部分で関っており、文才も彼から高く評価されていたことから、これを引き受けたそうです。 実際、自然に最後まで読めるので、どこから引き継いだのかわからないほどみごとです。

  このお話は、「秘密の湖」のあとに書かれ、文字通りロフティング最後の作品なのですが、ロフティングが「月から帰る」を書いてから「秘密の湖」を執筆するまでには、15年の歳月が流れています。 

 「月に行く」と言う、夢あふれるサイエンスファンタジーで幕を下ろしたように見えたドリトル先生の物語が、どうして「ノアの方舟」のような旧約聖書時代にかかわる物語となって15年後に戻って来たかと言うと、それは再び世界が戦争に巻き込まれたからでした。

 ドリトル先生シリーズは、もともと、第一次世界大戦に出征していたロフティングが、大戦中、負傷した人間は助けてもらえるのに負傷した馬は捨て置かれるのを見て、「動物の命も人間と同じように尊重されるべきだ」と思ったことから書かれた物語だと言われています。
 第一次世界大戦当時は、まだ槍騎兵がいたんですね。驚き。第二次の時には戦闘機による空中戦があったかと思うと、この短期間の人類の進歩はめざましかったのです。

 そして、暫くの平和な期間のあと、再び戦争が始まりました。

 「秘密の湖」が出版されたのは、第二次世界大戦が終了した三年後、ロフティングの死後一年後ですが、戦時中の様々な想いが作品になったはずです。「秘密の湖」に登場したシャルバのマシュツ王は、ヒトラーをモデルにしたのではないかと噂されました。

 その後執筆された「緑のカナリア」ですが、「秘密の湖」が遺作として出版され、絶筆となった「緑のカナリア」が、ほぼ完成間近だったことを考えると、この二作品は並行して書いていたのではないかと思われます。

 なぜなら、「秘密の湖」は、ドリトル先生物語の、ピピネラ以外のオールスターキャストだからです。この作品が完全に最後の話なら、この物語のどこかにピピネラを登場させるはずで、ピピネラが登場しないのは、わざととしか考えられません。

 おそらく、「秘密の湖」と「緑のカナリア」はセットの物語なのでしょう。

 この物語の前半は、カワラヒワとカナリアのハーフの緑の雌カナリア、ピピネラの激動の半生です。
 ピピネラは、混血の雌カナリアですが、美しい声で鳴く小鳥です。カナリアは、雄しか歌わないと思われていましたが、ピピネラは常識を覆す美声で歌いました。

 しかし、かごで飼われている小鳥だったので、自分の意思と関係なく、様々な人々のもとにゆくことになります。
 小さな旅館の入り口で、お客さんへの歓迎の歌を歌ったり、孤独な公爵夫人の部屋で歌ったり、フュージリア連隊のマスコットとして歌ったり、炭鉱で危険探知のために飼われたりと、流転の生活を続けます。

 その生活の中で、やがて「窓拭き屋」と言う孤独な男と風車小屋で暮らすことになりました。しかし、この窓拭き屋との生活も、ピピネラが突然かごごと盗まれると言う事件で別れることになります。

 この後、ピピネラは動物屋に売られ、ドリトル先生に助け出され、その後「カナリア・オペラ」のプリマドンナとしてデビューするわけですが、これは「ドリトル先生のキャラバン」で語られた通り。

 後半は、ピピネラがドリトル先生の助けを借りてかつての相棒「窓拭き屋」を探す、ちょっぴりサスペンス風味の冒険物語です。

 実はあとでわかることですが、この「窓拭き屋」もとは、イギリスのかなりちゃんとした家の跡継ぎだったのが、みずから望んで作家になり、ある国の悲惨な状態について本を書き、出版しようとしていたのです。そのため、その国の者たちに追われ、風車小屋で暮らしていたのでした。

 その「ある国」とは……?

 作品中では「ある外国」「その国」としか語られていませんが、時代背景を考えると、おそらくナチスドイツだったのだろうと思われます。
 「秘密の湖」のマシュツ王についての記述といい、「緑のカナリア」の窓拭き屋のエピソードと言い、この2作品はドリトル先生シリーズのなかでも、異質の雰囲気があります。

 ドリトル先生の世界は、一見ほのぼのとした動物ファンタジーに見えますが、その裏には様々なメタファー(比喩)に満ちています。

 動物たちとドリトル先生の交流、そして、ドリトル先生がペットショップの動物を逃がしたりする事件は、当時「動物のように扱われていた人たち」への想いやその扱いについての怒りをあらわしたものでした。

 カワラヒワとカナリアの混血の、歌う雌カナリアのピピネラは、ふるさとを持たず流浪する存在、家庭に縛られて自由のない女性、または「女にはできない」と決め付けられた分野で働く女性の比喩でもありました。

 「秘密の湖」では、シェルバ王国の栄枯盛衰とマシュツ王の横暴を描くことで、人間のあくなき欲望への警告や、人類の過ちを忘れないように書き残したい意思を感じます。

 そして、「緑のカナリア」の「窓拭き屋」のエピソード。
 信念を貫く作家窓拭き屋は、おそらくロフティングの分身だと思われます。もしかしたら、この物語は「秘密の湖」を書いていたときの苦労話がもとになっていたかもしれません。

 物語のラストは、すべての伏線が回収された見事なハッピーエンド。
 ほのぼのとしたラストで締めくくられます。

 じつは「ドリトル先生シリーズ」は「アフリカゆき」などの黒人描写に当時の誤解があり、問題があるとのことで本国アメリカでも出版されていない時期が長くありました。
 しかし、よく読むと、黒人やアフリカに対する誤解はあるものの、描こうとしていることは差別とは正反対の、多様性に満ちた世界への提言だとわかります。

 100年前の作家が夢見たユートピアですが、ただの夢夢しいファンタジーではなく、後世に伝えたい熱いメッセージに満ちています。

 ドリトル先生シリーズは、「秘密の湖」と「緑のカナリア」がいちばん熱いので、ぜひ読み通してくださいね。
 ラストは短編集の「楽しい家」。さいごまでご紹介します。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はありません。HSPやHSCの方々のほうが多くのことを読み取れると思います。
ほのぼの動物ファンタジーですが、多くの比喩に満ちているので、子どもの頃に読んだきりという方も、どうぞ読み返してみてください。新しい発見があります。

 読後は熱々のミルクティーでティータイムを。

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