【迷子の魂】美しい絵本。魂を探して旅をする男の話。【子どもから大人まで】【大人のための絵本】

2024年3月16日

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迷子の魂   オルガ・トカルチェク/作 ヨアンナ・コンセホ/絵 小椋彩/訳 岩波書店

昔、よく働く人がいました。ある日、彼は自分が何者でどこへ行こうとしていたのかわからないと気がつきます。彼は自分の魂を置き忘れてしまっていました。医者は彼に「迷子の魂」を待つように言いましたが…… 

この本のイメージ ひたすら美しい☆☆☆☆☆ 癒し☆☆☆☆☆ 哲学☆☆☆☆☆

迷子の魂   オルガ・トカルチェク/作 ヨアンナ・コンセホ/絵 小椋彩/訳 岩波書店 

<オルガ・トカルチュク>
1962年ポーランド生まれ。ワルシャワ大学で心理学を専攻。セラピストを経て作家。「逃亡派」でニケ賞受賞。2018年ノーベル文学賞受賞。 

<ヨアンナ・コンセホ>
1971年ポーランド生まれ。イラストレーター。 

<小椋彩>
小椋彩(おぐらひかる)
日本の文学博士。ロシア・ポーランド文学、比較文学専攻。日本スラヴ学研究会。日本比較文学会。日本ロシア文学会。

 美しい本です。原題は、ZGUBIONA DUSZA.原書初版は2017年。日本語版は2020年11月5日です。

 数年前から「情報オーバーロード」「デジタルデトックス」などの言葉が、見られるようになりました。
 「情報オーバーロード」とは、多すぎる情報で必要な情報が埋もれてしまい、必要な情報がわからなくなることや、頭の中がいろんな情報でいっぱいになって、過剰な負担がかかってしまうことです。

 現代社会は情報でいっぱいです。テレビ、ラジオ、SNS、動画、メール、そして、街を歩けば、ネオンサイン、街頭アナウンス、車のクラクションなどなど……目から、耳から、周囲から様々な情報が洪水のように入り込んでいます。

 この場合の「情報」と言うのは狭義の「知識やお知らせなどのニュース」のことではなく、人間の五感から取り込まれるあらゆる「情報」のことです。人が多い場所での雑踏やおしゃべりの声、店のアナウンス放送や街の入り乱れるBGM、大量のメールやSNS、読みきれない新聞や本も「情報」です。

 10年前、20年前にこんなに情報があったでしょうか。いまでは、複数のSNSを活用している人は珍しくありませんし、動画配信サイトも複数登録して楽しんでいる人も多いようです。

 しかし、この急激な生活様式の変化が、人の心に負担をかけないわけがありません。

 そこで生まれた言葉が「デジタルデトックス」。
 最近ではテレビでも取り上げられるようになりましたが、たまにいっさいのデジタル機器(スマホやパソコン、テレビ)とデジタルサービス(動画やテレビを見る、メール、SNSの使用)から離れて、自然の多い場所で心身を休めよう、と言うものです。(生活に支障が無い範囲で)

 現代人の生活は忙しすぎます。人生の一時期にはそれでよくても、かならずどこかで無理が来ます。そのとき、自分の魂を癒すのは、自分自身の仕事なのです。

 この絵本は、そんな現代人が魂を取りもどしてゆく物語です。

 あるところに、忙しく働く男がいました。
 毎日めまぐるしく働いていた彼はある日、自分が何者で、何をしようとしていたのか、わからなくなっていました。スーツケースの底から見つけ出したパスポートから、かろうじて自分の名前は「ヤン」だと知ります。

 賢い老医師のもとに言った彼は、彼女から「あなたは魂を失っている」と診断されました。

 「わたしたちを上から見たら、忙しく走り回る人で世界はあふれかえっているでしょう。みな汗をかき、つかれきっている。そしてかれらの楽しいは、いつも背後に置き去りにされて、迷子になっています。魂がじぶんの主に追いつけないのです。これが混乱のもとです。魂が頭を失う一方で、人びとは心を持つのをやめるのですから。魂にはじぶんがあるじを失ったのがわかるのに、人びとは魂をなくしていることら往々にして気がつかない」(引用p12)

 彼女の「魂が動くスピードは、身体よりもずっと遅いのです。あなたはじっくりじぶんの魂を待つべきです」という助言にしたがい、ヤンは街外れの小さなコテージを手に入れ、そこで「迷子の魂」をじっと待つことにしました。

 魂(少年の姿をしています)は、彼の人生をゆっくりと追いかけ、彼を探しにきます。

 彼は、コテージで魂を待ちながら、じっと、静かに暮らし続けます。髭が腰までのびるまで。
 魂を待っている間、彼のコテージには様々な動物が訪れ、家の中も外も緑にあふれ、花が咲き乱れるようになります。

 そして、ようやく、魂が帰ってきました!

 魂を取り戻した彼は、スーツケースと時計を庭に埋め、魂とともに幸せに暮らしました。そして、それからは、魂が追いつけなくならないように、なにごともゆっくりと行うことにしたのです。

 ……と、言うおはなし。

 字がたいへん細かく、文章も難しいので、これは大人のための絵本だと思います。
 しかし、とにかく、絵が美しい。

 魂を待つ間、ヤンはコテージで静かに暮らしていますが、そこに様々な動物たちが訪れます。そして、時の流れとともに、部屋の中の観葉植物が立派に茂り、庭の草花や木々も成長してゆきます。

 そのなかでも、天に届くほど茂り、咲き誇るナスタチウム。
 わたし、お花の中で、ナスタチウムはかなり好きな花です。

 いろんな種類があって、ナスタチウムだけ植えても様々な色が楽しめます。それにコンパニオンプランツと言って、周囲に植えた植物を元気にする能力があります。
 それに、葉っぱもお花も食べられるんですよ。

 ナスタチウムの葉っぱをサラダに入れてもサンドイッチにしてもおいしいし、お花は飾り付けると華やか。
 そのうえ、丈夫でとっても育てやすいんです。

 絵本の中で、ぐんぐん成長して花を咲かせてゆくナスタチウムが夢のように美しい。

 少年の心を取り戻したヤンが、緑と花あふれるコテージで、ゆっくりと暮らすハッピーエンドは、忙しさで疲れた大人の心をじんわり癒してくれます。

 この男のように、すべてを投げ捨てて魂を待つことが出来なくても、1日のなかで少しでも静かな時間を作って、追いつけないでいる魂が戻ってくるのを待つ時間を持つといいのかもしれません。

 ただひたすら美しく、癒される絵本です。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 おすすめです。これは、大人のための絵本なので、小さなお子さまにはわかりにくいかもしれません。字も小さいので、子ども向けの読み聞かせには向きません。けれども、美しいので、大人が自分のためのに買って、自分のために読むのはおすすめです。
 そして、ふと置いてあれば、必要なときにお子さまも読んで、何らかのメッセージを受け取るかもしれません。

 

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