【新シェーラ姫の冒険】世界を救え!双子のお姫様の大冒険。日本発アラビアンナイト・ファンタジー。【小学校高学年以上】
ルビーとサファイアは双子のお姫さま。ふたりとも、本名はシェーラザード。かつて砂漠の国々を救った強くてやさしいお姫さま、シェーラザード姫とファリード王のあいだに生まれた娘たちです。幸せな日々は、ずっと続くと思われましたが、世界には危機が近づいていたのでした……
この本のイメージ 冒険☆☆☆☆☆ 成長☆☆☆☆☆ 仲間たち☆☆☆☆☆
新シェーラ姫の冒険 (愛蔵版) 上下 村山早紀/作 佐竹美保/絵 童心社
<村山早紀>
1963年長崎県生まれ。日本の児童小説作家。「ちいさいえりちゃん」で毎日童話新人賞最優秀賞、椋鳩十児童文学賞を受賞。主な作品は『シェーラひめのぼうけん』『新シェーラひめのぼうけん』シリーズ、『風の丘のルルー』シリーズ、『はるかな空の東』などであり、近年は風早の街を舞台にした『コンビニたそがれ堂』シリーズ、『カフェかもめ亭』シリーズ等が人気を博している。
2003年~2007年、フォア文庫から出版されていた「シェーラひめのぼうけん」シリーズの続編「新シェーラひめのぼうけん」愛蔵版です。2021年3月に出版されたばかり。10巻の物語を上下巻の二冊にまとめました。2冊積むと枕になるほどのボリュームです。(いや、枕にしちゃいけません)
わたしが、人生でいちばん忙しかった頃ですね。本を読む暇はぜんぜんなかったので、今読むことができて幸せ。
時代は、「シェーラ姫の冒険」から20年後くらい、主人公は赤い目黒髪のルビーと青い目金髪のサファイヤ。ルビー・ジェーラザードとサファイヤ・シェーラザードの双子のお姫様です。
強くて素敵なお母さまと優しいお父さま、そして平和なシェーラザード王国。幸せな日々はずっと続くと思われました。
ところが、古い時代から、恐ろしい魔物たちが時空を超えて押し寄せてくることがわかり、突然、世界に危機が訪れます。
それだけではなく、その危機について人知れずずっと調べていたファリードは、自分の身体を錬金術の「考える機械」に接続し、命を犠牲にして調査していたため、城から離れることができない身体になっていました。
ついに時空の扉から魔物があふれ出ようとしたとき、シェーラとファリードは力の限り扉をおさえ、その力を維持するためにみずから石になってしまいます。
世界を救うため、そして石になった両親を救うため、ふたりのシェーラ、ルビーとサファイヤと、ハイルとミリアムの息子たち、ハッサンとジュドルの四人は、錬金術の飛行船に乗って、魔法使いサウードに望みを託し、彼を探す旅に出るのでした。
旅の途中で出会う、不思議な少女ナルダ、おとぎの島の王子ミシェール…… さまざまな人たちと出会い、困難を乗り越えながら、シェーラたちは旅をします。
はたして、世界を救うことは出来るのでしょうか?
……というのがあらすじ。
今回は、ヒロインが二人と言うこともあってか、キャラクターは多め。
偉大な親たちの子どもたちの4人、それぞれが自分たちの親に対して憧れとコンプレックスがあるようです。
親世代より「新シェーラ」の子どもたちはより繊細で、さまざま思い悩みます。
シェーラの性格をより濃く受け継いだのはルビー。黒髪で赤い目の体育会系女子です。剣が強くて腕力もある。そして、明るくて食いしん坊。金髪で青い目のサファイヤは性格的にはファリードに似た、真面目で考え込むタイプ。魔法と錬金術が得意です。
ハイルとミリアムの息子たちは、長男のハッサンが明るく陽気で歌が大好きな王子、弟のジュドルはちょっとぽっちゃりした錬金術の得意な男の子です。ジュドルは陽気なハッサンよりずっと頭がいいのですが、ついついいろんなことを悩んでしまう。
子供向けの物語で「頭のいい子」って言うと、ジュドルやサファイヤのように「内向的で真面目で大人しく、悩みがち」な子が多いように思います。そうでなければ、「都会のトム&ソーヤ」の竜王創也のような毒舌系ですね。
でも、実際のエンジニアには、ジュドルみたいなタイプだけでなく(います)、案外ミリアムのタイプが多いのです。好奇心のモーターをぐるんぐるん回して暴走しちゃう人。男だと朝ドラ「まんぷく」の萬平さんみたいな。
あの人たちって、仕事こそデスクワークしているけど、精神的に文化系じゃないんですよ。だから、繊細なジュドルがミリアムに憧れるのはよくわかるだけでなく、母と同じ道を志すのは、息子としてめちゃくちゃ大変だろうなと思ってしまいました。何しろ父親も兄もどっちかと言うと体育会系ですからね。がんばれ、ジュドル。
とはいえ、わたし、ハッサンも大好きです。もともとハッサンじいちゃんが大好きだったのですが、「新シェーラ姫の冒険」は「シェーラ姫の冒険」よりずっと深刻で深いお話になっているので、ハッサン王子の存在は貴重な清涼剤。
ともすれば暗闇におっこちそうな物語を、つねに明るく照らしてくれる王子です。「プリデイン物語」のフルダーみたいなポジション。(フルダーも大好き)
今回のお話は、「子どもたちが世界を救う」お話。
この物語が最初に書かれた2006年頃は、東日本大震災の前で、この国はとにかく平和で豊かな国でした。今から思い返しても、別の世界のようです。遠い過去からやってくる世界の脅威に立ち向かう子どもたちの物語を今読むと、別の気持ちが押し寄せてきます。
予言的な物語です。
わたしたち、平和な時代に幸せに生きられた大人が、子どもたちにして上げられることは、本当にわずかです。けれど、ささやかでも助けになりたい。
良質な物語は、子どもたちの心を支え、背中を押す役目をします。「新シェーラ姫の冒険」の少年少女たちは、彼らには重すぎる「世界の存亡」を背負いながらも、せいいっぱい運命に立ち向かいます。
ひとりひとりの力は小さいけれど、みんなの力を集めることで、大きな力となり、世界を救う物語です。もちろん、大事なところでは初代シェーラも活躍します。やはり、この人がいないと!
行間はほどよく開いていて読みやすいのですが、振り仮名が難しい漢字にしかふられていないので、小学校高学年から。かしこい子なら、文章が平易なので中学年以上でも読めると思います。
親子のこと、人生のこと、世界のこと、小さなことから大きなことまで、様々な困難に子どもたちがまっすぐに立ち向かいます。決して都合のいい話にはなりませんが、それぞれが救いのある、納得のゆく展開になっています。
この混乱の時代に、子どもたちに、そして疲れた大人の心にも、おすすめしたい正統派ファンタジーです。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
戦闘シーンや、人が死ぬシーンはありますが、気をつけて書かれているのでそれほど残酷ではありません。「そんなシーンがあるのだな」と身構えていれば大丈夫な方にはおすすめです。HSPやHSCの方のほうが、多くのメッセージを受け取れるでしょう。
哀しいシーンや切ないシーンも多いのですが、透明感のある、さわやかなファンタジーです。主人公は女の子ですが、男の子にもおすすめ。
読後は、ハチミツで甘くしたミントティーでティータイムを。
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