【ターシャ・テューダーのクックブック】スローライフのカリスマ、ターシャのイラストつきレシピ集。古き良きレシピが満載です。【大人のなごみ本】
ターシャ・テューダーは、2008年にこの世を去った絵本作家です。彼女は57歳のときにアメリカ、バーモント州のおよそ30万坪の土地に、18世紀ふうの家を建て、自給自足の生活をはじめました。彼女のライフスタイルは、今なお、多くの人のあこがれです。
この本のイメージ フルカラー☆☆☆☆☆ ターシャのイラスト☆☆☆☆☆ 古き良きレシピ☆☆☆☆☆
ターシャ・テューダーのクックブック ターシャ・テューダー/本文・イラスト 相原真理子/訳 文藝春秋
<ターシャ・テューダー>
ターシャ・テューダー(Tasha Tudor、1915年8月28日~2008年6月18日)はアメリカの絵本画家・挿絵画家・園芸家(ガーデナー)・人形作家。彼女の絵は「アメリカ人の心を表現する」絵と言われ愛されている。50歳代半ばよりバーモント州の小さな町のはずれで1800年代の農村の生活そのままの自給自足の一人暮らしを始める。彼女の住む広大な庭でのライフスタイルはいまなお多くの人々のあこがれである。
ターシャ・テューダーが文章とイラストをかき、ふだん使っているレシピをまとめたレシピ集です。原題はThe Tasha Tudor Cookbook. 原書初版は1993年。日本語版の初版は1998年です。
ターシャ・テューダーは、20世紀に活躍した絵本作家です。父ウィリアム・スターリング・バージェスはヨットや飛行機の設計の業界ではアメリカを代表する有名な技師・実業家で、母ロザモンド・テューダーは肖像画家、双方の家もかなりの名家だったため、電話を発明したベルなど、錚々たる面々が家に出入りしていたそうです。
けれども、ターシャはそんな華やかな社交界には興味がなく、13歳のときの誕生日プレゼントにほしがったのが「牛」だと言うからおどろきです。
それは、両親が離婚した後預けられた農場の暮らしがとても楽しかったから。
おそらく、周囲の人は、「えっ、牛? 馬じゃないの?」と仰天したことでしょう。お嬢様と言えば馬。でも、ターシャのほしいのは牛だったのです。
これが原体験となり、57歳のときに、人生の大事業に乗り出します。それが、広大な庭つくりと、古風な家での自給自足の暮らしでした。
この生活を送るさい「ウォールデン森の生活」と言う本が強い影響を与えたようです。
これは、アメリカのヘンリー・デイヴィッド・ソローと言う学者さんが、ウォールデン池のほとりで、1845年7月4日から2年2ヶ月2日に渡って小屋で送った自給自足の生活を描いた回想録です。
なにがすごいって、この人、学術的興味で、自分を使って実験するためにこういう生活をするんですよ。頭のいい人は、わけわかんないことをしますねえ。
結局、2年後にはふつうの生活に戻るのですが、隠遁生活中も、自分は町に出てゆかないのに、わりと人が訪ねてきて、ときには狭い家にぎゅうぎゅう詰めになるくらい、お客さんが来たこともあったようです。
そこで気がついたことや、考えたことなど、観察したことなどの記録で、自然との付き合い方や、自給自足のあり方など、考えさせることも多い本です。(ターシャ関係の本なので、一応、読みましたが……ちょっとわたしには……難しかったです! でも、興味深い本でした)
ターシャはよほど、この古風な暮らしが性にあっていたようで、電気もガスも無く、薪ストーブと暖炉だけの暮らしで、ヤギや鶏を飼い、野菜や果物を育て、コーギーを飼って楽しく暮らしました。
客室には電気があったそうですが、自分ではいっさい使わなかったようです。この気合の入りようはすごい。
わたしは、こんなにまで強い信念はないので、すべてをターシャふうにしたいとは思いませんが、内向的で考え込むことが多い性格の自分が、どう社会と付き合ってゆくかについて、彼女はひとつの解答を与えてくれた気がしました。
騒がしくて、忙しくて、処理すべき情報が膨大な日々。頭と心のバランスをどうとってゆくか、自分の心地よい時間をどうつくってゆくか……
信頼できる数人の人間関係とスローな暮らしをしながら、外界と完全に断絶することもなく、「絵本作家」として、広い社会とのチャンネルも持ち、経済活動もする……内向的な人間にとって、理想の暮らしだと思います。
ちなみに、ターシャ・テューダーは電気やガスを使わなかったことで誤解されがちなのですが、それはただ単に彼女が「薪やろうそくを使う古風な生活が好きだから」であって、「文明に対する批判」ではありませんでした。
また、自給自足と言うとベジタリアンと思われがちですが、ターシャはベジタリアンではありません。
レシピには、ビーフシチューやローストチン、ローストビーフのレシピもありますし、お砂糖をたくさん使ったお菓子のレシピもあります。
「ウォールデン森の生活」のソローが、森の生活中は菜食で暮らしていたため、誤解をうけたのかもしれませんが、彼も「動物がかわいそう」と言うようなベジタリアンではなく、衛生面のための菜食主義でした。
古風な家で自給自足の暮らしをする場合、肉食を生活に導入すると、血の処理で掃除に手間がかかり、大量の清潔な水が必要になる、また、肉の腐敗により病のリスクが高まる、などの理由から、ソローは菜食を通しました。
それによって、掃除が格段に楽になり、生活費も安く抑えられ、健康的な生活ができたそうです。(水道がなく、電気もなく冷蔵庫もないとなると、確かにそうかもしれません)
ターシャ・テューダーの自給自足、スローライフは、彼女の「好きな暮らし」であり、特定の思想活動ではなかったからこそ、いまでもファンが多いのだと思います。
このレシピ集は、イラストはすべてターシャのもの。そして、レシピは彼女が考案したものやふだん使っているもの、友達から教えてもらったもの、娘さんの得意料理のレシピなど、生活に根ざしたものばかり。
レシピだけでなく、そのお料理やお菓子に関する家族のエピソードや思い出話が書かれているので、ターシャの生活を垣間見ることが出来ます。
ただ、この本には、一箇所、ミステリーがあります。
「マカロニチーズ」のレシピの説明に、「トマス・ジェファーソンの大好物」と書かれているのですが、いきなりそう書いてあるだけで、何の説明も無いのです。
じつはターシャは「ベンジャミン・フランクリン」と「トマス・ジェファーソン」と言うコーギー犬を飼っていたのでした。
本物のジェファーソンのことなのか、(本物はアメリカの第3代大統領なので、ターシャよりかなり昔の人です)ターシャが飼っていた「トマス・ジェファーソン」と言う名前のコーギー犬のことなのか……これがまったくわかりません。
大統領がマカロニチーズ好きでも、コーギー犬がマカロニチーズ好きでも、どっちでも意味が通じるし、違和感がありませんし……これは永遠の謎です。正解をご存知の方、ぜひ教えていただきたいです。
レシピは素朴でシンプルなものが多いのですが、材料には「産みたての卵」とか「農家で飼育されたチキン」とか、こだわりがあり、お料理より材料調達がたいへんそう。でも、そこにこだわらなければ、そんなに難しいレシピではありません。スープがすごくおいしそう。
あたたかみのある、のんびりした気持ちになれるお料理ばかりです。
また、イラストも装丁もすばらしいので、休日のなごみ本としても最適。読み終わったら、リビングに飾っても。
忙しい現代の生活ですが、時々、ゆったりとした生活を取り戻してみてください。そして、心身ともに栄養補給を。鶏がらとたっぷりのハーブを使ったコーギー・コテージ・スープがおすすめです。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はありません。ただし、ターシャはベジタリアンではないので、肉を使った料理もあるし、お菓子のレシピはお砂糖がたくさん入っています。現代の感覚での、いわゆる「ヘルシー志向」ではなく、古風な昔ながらのレシピです。
昔の人はこういうのを食べていたんだな、と言うのがわかるレシピ集でもあります。イラストはすべてターシャが書いているため、ほんのりとしたあたたかい雰囲気の本です。
読んでいるだけでも、心がなごむ本なので、大人の癒し時間に、ぜひどうぞ。
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