【岬のマヨイガ】岬の先の小さな古い家で暮らす、奇妙な家族のファンタジックストーリー【小学校高学年以上】

2024年3月16日

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岬のマヨイガ   柏葉幸子/作 さいとうゆきこ/絵 講談社

岩手の海沿いの小さな町で、あの日、三人は出会いました。血のつながりどころか、縁もゆかりもない三人が、家族として暮らし始めた小さな家。三人は、そこを「マヨイガ」と呼びました。そして、それが、不思議な事件のはじまりでもありました……

この本のイメージ 和ファンタジー☆☆☆☆☆ 絶望から立ち上がる☆☆☆☆☆ 家族とは☆☆☆☆☆

岬のマヨイガ   柏葉幸子/作 さいとうゆきこ/絵 講談社

<柏葉幸子>
1953年、岩手県生まれ。東北薬科大学卒業。『霧のむこうのふしぎな町』(講談社)で第15回講談社児童文学新人賞、第9回日本児童文学者協会新人賞を受賞。『ミラクル・ファミリー』(講談社)で第45回産経児童出版文化賞を受賞。『牡丹さんの不思議な毎日』(あかね書房)で第54回産経児童出版文化賞を受賞。『つづきの図書館』(講談社)で第59回小学館児童出版文化賞を受賞。近著に『竜が呼んだ娘』(朝日学生新聞社)、『モンスター・ホテルでひみつのへや』(小峰書店)など。

<さいとうゆきこ>
1981年、青森県十和田市生まれ。岩手大学教育学部特別教科(美術・工芸)教員養成課程で染織を学ぶ。グラフィックデザイナー、イラストレーターとして活動。現在、盛岡市在住。

 この夏、アニメーション映画化される和ファンタジーです。映画のほうは、少し設定が違うらしいので、原作と映画、両方で楽しめると思います。初版は2015年。

 物語は……

 岩手の海沿いの狐崎という小さな町に、東京からゆりえさんと言う女の人が一人旅をしてきました。萌花ちゃんという女の子は、ボランティアの人に連れられて、叔父さんに引き取られるためにやってきました。
 ふたりが偶然、同じ食堂に入ったとき、大地が大きく揺れました。

 ゆりえさんと萌花ちゃんは、手をつないで必死に逃げ、その後、避難所でキワさんというおばあさんに出会います。
 キワさんは、ふたりを自分の嫁の結と孫のひよりだと言い、三人で暮らすことを提案します。

 三人が手に入れた小さな家は、高い岬の突端にある、古くてかわいい家でした。
 そこで、三人は穏やかに暮らすことにしましたが、実は、その近くにある袖ヶ浦と言う場所の神社が津波で流されたことで、おそろしい封印が解かれてしまったのです。

 キワおばあちゃんは、異変を察して、遠野から「友だち」を呼びました。それはカッパや狛犬やお地蔵様……

 すべてを失ったふたりと、遠野に親しい「友だち」をたくさん持つ、キワおばあちゃん。三人は、新しい家族として、新しい土地で、不思議な事件に巻き込まれます……

 と、いうお話。

 岩手出身の柏葉先生の物語に岩手出身のさいとう先生が絵を添えました。縁もゆかりも無かった三人が、小さな家で家族として暮らしてゆく物語に、ちょっとオカルトなファンタジーがプラスされています。
 カッパや、狛犬など、目に見えない存在たちと仲良しのキワおばあちゃんは、人間なのか、妖怪なのかわからない、ミステリアスで、かわいいおばあちゃんです。

 キワさんに「結」と名づけられたゆりえさんは、DVの夫から逃げてきた主婦でした。「ひより」と名づけられた女の子萌花ちゃんは、両親を失い、声を失ってしまった少女でした。

 心に深い傷を負っていたふたりが、偶然、狐崎で出会い、キワさんに出会い、一緒に暮らしながら、心を回復させてゆくヒーリングストーリーと、袖ヶ浦に封印されていた「おそろしいもの」が、津波で神社が流されてしまったゆえに封印が解かれてしまい、地元の人たちを襲うオカルトストーリーが同時に進行します。

 児童文学では、もともと家族ではなかった人たちが、家族として生きてゆくお話がわりとあります。
 「ルイスと不思議の時計」の主人公ルイスと、ジョナサンおじさん、親友のローズ・リタと近所のツィマーマン夫人の四人組や、「グリーン・ノウ」のトーリーとピン、オールド・ノウ夫人の三人などもそうです。

 「家族とは何か」「血がつながっているから家族なのか」「心がつながっているから家族なのか」。そのような問いかけが、この物語のなかでは何度も浮かび上がってきます。

 これは、ばらばらに育ち、血のつながりどころか縁もゆかりもなかった、赤の他人の三人が「ほんものの家族」になるまでの物語です。

 字は程よく大きく、文章は平易で読みやすく、難しい漢字にはふりがながふってあります。だいたい、小学校高学年から。かしこい子なら、中学年くらいから大丈夫。

 地元の人にしかわからないような描写も多々あり、柏葉先生の岩手への愛が、ひしひしと伝わってきます。
 傷ついた心をマヨイガがゆっくりと癒し、立ち上がる力をくれます。遠野の目に見えない存在たちが、人間にやさしく、守ってくれ、力を貸してくれます。

 平和な時代につくられたファンタジーによくある、「恐怖は自分自身が作り出したもの」と言うタイプのお話ではなく、世界には天変地異や、悪い人や、目に見えないおそろしいものや、そういう、怖いものは確かにあるけれども、優しい人や目に見えない優しい存在も確かにあって、それが世界なのだと語りかけてくる物語です。

 突然の不幸があるなら突然の幸福もある、悪い人がいるなら善い人もいる、目に見えない恐ろしいものがあるなら、目に見えない優しい存在もいる。世界も人生も、悪いことばかりじゃないよと。

 その、ごまかしのなさが、心に響きます。

 様々な人の心の傷に、やさしく沁みこむ、ハートフルなファンタジーストーリーです。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 地震の描写があります。気をつけて書かれているので、激しい描写はありませんが、ダメージを受けやすい人は、気をつけてください。けれども、とてもいいお話で、HSPやHSCの方のほうが、多くのメッセージを受け取れると思います。

 恐ろしい敵と戦うシーンはありますが、あたたかくて、ほのぼのとしたハートフルストーリーです。
 ユイママのカルボナーラとティラミスがとてもおいしそうなので、読み終わったら食べたくなるかもしれません。

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