【ニワトリ号一番のり】児童文学の名作。ティー・クリッパーたちの過酷なレースを描く海洋冒険小説です。【中学生以上】

2021年6月8日

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ニワトリ号一番のり  J.メイスフィールド/作 木島平治郎/訳 寺島龍一/画 福音館書店

クルーザー・トルズベリー二等航海士は、ブラックゴーントレット号に乗って中国からの茶葉をイギリスへと運ぶ途中でした。しかし、汽船との衝突事故で、船は沈没、難破してしまいます。救命ボートで海を漂流し島を目指すうちに、彼らは偶然、あるところにたどりつきます…… 十九世紀中ごろ、チャイナ・クリッパーたちのレースを描く、怒涛の海洋冒険小説。

この本のイメージ 海の恐怖☆☆☆☆ サバイバル☆☆☆☆☆ どん底からの大逆転☆☆☆☆☆ 

ニワトリ号一番のり  J.メイスフィールド/作 木島平治郎/訳 寺島龍一/画 福音館書店

<J.メイスフィールド>
ジョン・エドワード・メイスフィールド(John Edward Masefield, OM、1878年6月1日 – 1967年5月12日)はイギリスの詩人および作家。 1930年から1967年に死去するまで、イギリスの桂冠詩人。「海の詩人」として知られる。
父を失い、十四歳のときから四年ほど商船に乗り込み、世界各地をまわった。
詩集『海水のバラード』所蔵の『Sea Fever』を含む数多くの名詩と、『夜中出あるくものたち』、『喜びの箱』、『ニワトリ号一番のり』などの児童文学作品の作者として知られている。
詩のほとんどは船員であった経験から生み出された海への強い憧れを高らかに歌い上げており、海洋冒険小説などによく引用される。

<木島平治郎>
1890年、京都に生まれた。三高時代に「海潮音」の著者、上田敏に師事。1917年、東京帝国大学英文化卒業。東京高等商船学校(後の東京商船大学)で十九年間教鞭をとった。

<寺島龍一>
寺島 龍一(てらしま りゅういち、1918年4月27日 ~ 2001年10月26日)は、洋画家、日本芸術院会員。寺島竜一とも。東京出身。東京美術学校卒。寺内萬治郎らに師事。1979年まで筑波大学教授。1997年「アンダルシア讃」で恩賜賞・日本芸術院賞受賞。1998年芸術院会員。日展理事、顧問。光風会理事長。
人物画、特にエキゾチックな女性像で知られた。ほか児童書の挿絵・表紙画でも知られ、特にJ・R・R・トールキンの作品の挿画が名高い。また自身でも子供向けの著作を著した。「なんきょくへいったしろ」「あふりかのたいこ」「ホビットの冒険」など。

ニワトリ号一番のり  J.メイスフィールド/作 木島平治郎/訳 寺島龍一/画 福音館書店

 ティー・クリッパーをご存知でしょうか?
 19世紀、イギリス人は、中国から輸入される茶葉をこよなく愛しました。その年で最初に入港した船の茶葉には法外な値がつき、船員たちにも莫大な報奨金や賞金が与えられたのです。
 これが、ティー・クリッパーレースです。

 ゲームの題材になったこともありますから、ご存知の方もいるかもしれません。ウイスキーの名前にもある「カティーサーク」も、このティー・クリッパーレースの優勝船の名前です。

 この物語は、まさにティークリッパーレース全盛期の、大冒険の物語。人も殺せる鈍器本ですよ!
 原題は、THE BIRD OF DAWNING. 原書初版は1933年。日本語版初版は1967年。90年近く愛される、色あせない古典名作です。

 物語は……

 クルーザーことシリル・トルズベリー二等航海士はブラックゴーントレット号に乗って、中国からイギリスへと向かう途中でした。当時のイギリス中国航路は、スエズ運河が無いためアフリカの南端を回らなければならず、たいへんな航海を必要としたのです。

 ところが夜間、汽船に当て逃げされ、ブラックゴーントレット号は、大破して沈没、クルーザーたちは救難ボートで避難しますが、難破してしまいます。

 なんとかボートで漂流しながら近くの島を目指していたクルーザーたちですが、今度は航路の真ん中で、あるものを発見します。
 はたして、それは一体何なのか……そして、今年のレースの行方は? 

 ……というのがあらすじ。

 なんか、タイトルで盛大にネタバレしているんですけど、ストーリーは息もつかせぬ怒涛の展開です。

 このお話、子どもが読むときと、大人になって読むのとでは、おそらく、かなり違った感想になるでしょう。

 子どもが読めば、ティー・クリッパーたちのレースや、海の冒険、サバイバルの面白さを楽しめると思います。
 大人になってから読むと、それぞれのクリッパー船のようすが、なんだか今のブラック企業を思わせて、いろいろと考えさせられます。企業ものの小説の側面もあるのです。

 船長や航海士は超人レベルのエリートなのですが、下っ端の船員の一部には字も読めない人もいて、彼らをとりまとめるのは困難を極めます。

 しかも、レースの結果で茶葉の価格が変わってしまうので、船長は必死。一秒でも早くロンドンに到着しようと風をつかまえることだけを考えて、ほとんど寝ないで航海しています。
 ところが、下っ端の船員たちのなかには、酒倉からブランデーやラム酒を失敬することしか頭にないやつらがいる。
 このメンバーが閉鎖空間で激務をこなしながら長期の旅をします。まさに、それだけでも地獄です。

 それだけに、ティー・クリッパーの船長たちは、どの船でもたいていどこかおかしくなってしまうのでした。ブラックゴーントレット号の船長は、船が大破した瞬間に、絶望して船とともに沈む決意を固めてしまい、船員の救助を放棄してしまいます。

 なんだか、現代でもよく聞く話ですよ。激務の連続。帰れない職場。終わらないデスマーチ。壊れる社長。混乱する現場。沈没する会社……。

 激務の職場の宿命なのか、クルーザーの船には、聖人みたいな真面目な人と、とんでもないろくでなしの二種類しかいません。そして、水夫たちは、航海ごとに船を横移動しているので、ベテランだと、他のクリッパー船の船長や船をよく知っています。
 所属選手がめまぐるしく移動するプロスポーツリーグとも似ていますね。

 海賊は、おきてを破った手下をわりと簡単に海へ投げ込みますが、この小説を読んでしまうと、あながち間違っていないのかも……とつい思ってしまいそうになるほど、ひどい水夫たちが続々登場。(いや、殺すのはいけません)

 船が沈没しかかっているとき、水樽を救命ボートに運べと言う上司の指示を別の船員に任せて逃げてしまい、まかされた船員たちは水樽を運ばずに厨房にラム酒をくすねに行くと言う、狂気の沙汰。指示した水樽がないことを知って、クルーザーは呆然とします。(報連相と確認の大切さがわかる地獄展開)
 この間、クルーザーはクロノメーターや六分儀などを沈みつつある船から回収していて、きわめて有能な航海士なのですが……

 そのうえ、まだまだ水があるとき、とある水夫は、自分の汗を流すために水樽の真水を使ってしまい、かわりに海水を入れると言う暴挙に出ます。恐ろしい。

 大海原で難破して、真水が無かったら死にます。海水を飲んだら発狂して死にます。
 酒より水だろ!と、読みながら絶叫しそうになりました。

 彼らを許してボートに乗せてあげるクルーザーは、仏様のような聖人です。ありえない人たちですが、許されて仲間たちと航海しますし、途中も、足を引っ張り続けますが、それぞれに成長します。(少しは) いやあ、児童文学はやさしいな、と大人になってからはしみじみと思います。

 海軍や海賊だと、そこまでおかしな人間はいないけれど(すぐ殺されてしまうから)、この、商船ならではの大変さも物語を盛り上げる要素になっています。

 乗っている船が大破したり、救難ボートで大海原を漂流したりと、ハードモードの物語ですが、後半に向かって尻上がりに面白くなってゆき、最後は怒涛のハッピーエンド。途中のフラストレーションが一気に解消される、大盛り上がりの結末です。

 十九世紀の船乗りたちの日常と、サバイバルを描いた名作です。ラスト近く、水先人の引きによる港内の争いになるまで気が抜けません。わくわくの海洋冒険ロマンです。

 字が細かく、内容がかなり高度なので中学生から。ボリュームのある本なので、読み応えがあります。大人にもおすすめです。
 紅茶がお好きな人は、ぜひ、読んでみてくださいね。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 船が難破したり、人が死んだりもしますが、気をつけて書かれているのでそれほど残酷ではありません。「そういうシーンがあるのだな」と身構えていれば大丈夫な方にはおすすめです。

 最初はフラストレーションがたまる展開ですが、後半に向かってどんどん盛り上がり、ラストは爽快、すっきりとしたハッピーエンドです。
 読後は、ぜひ、英国紅茶でティータイムを。

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