【まぼろしの薬売り】ふしぎな薬売りのふしぎな旅。明治時代が舞台の和ファンタジー【小学校中学年以上】

2024年3月17日

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まぼろしの薬売り 楠 章子/作 トミイマサコ/絵 あかね書房

明治のはじめ、時雨と言う美しい薬売りと、小雨と言う元気な小僧が薬のとどかない地を渡り歩いていました。彼の薬つくりの知識と才能は、他の薬売りたちがうらやむほどで、彼は「まぼろしの薬売り」と呼ばれたのです……

この本のイメージ 不思議☆☆☆☆☆ 人情☆☆☆☆☆ 哀愁☆☆☆☆☆

まぼろしの薬売り 楠 章子/作 トミイマサコ/絵 あかね書房

<楠 章子>
1974年、大阪府生まれ。第45回毎日児童小説・中学生向きにて優秀賞受賞。2005年、「神さまの住む町」(岩崎書店)でデビュー。作品に「古道具ほんなら堂」「はなよめさん」など。 自身の介護体験を生かした絵本「ばあばは、だいじょうぶ」(童心社)が、第63回青少年読書感想文全国コンクール課題図書・小学校低学年の部に選定、児童ペン賞童話賞を受賞。

<トミイマサコ>
1980年生まれ。漫画家。イラストレーター。漫画作品に「マゴロボ」(講談社)「脳Rギュル-脳或公使-」(夢野久作/原作 佐藤大/構成 小学館)など。挿画では、「妖怪びしょ濡れおかっぱ」(松原真琴/作 集英社)、「古道具屋皆塵堂」(輪渡颯介/作 講談社)、「黄泉坂案内人」(仁木英之/作 角川書店)など

ふしぎな薬を売る薬売り、時雨と、その弟子の小僧、小雨の二人旅をえがく、「まぼろしの薬売り」。初版は2012年です。

時代は、明治のはじめ。美しい薬売り時雨と、その弟子の小僧、小雨が薬を売りながら、各地の村や町をめぐり、その土地の人々と交流するオムニバス。

今回のお話は、

・椿屋敷の娘
・なみだ病の生き残り
・バカ吉の薬
・土もこの目玉

の四本です。

 昔の日本では、店舗としての「薬屋」をかまえているのは江戸や上方のような都会だけで、「薬屋」とは、薬の入った柳行李(やなぎごおり)を背負って売り歩く、行商人のことでした。また、薬箱を置いていって、一年後に使った分だけお金を払ってもらうというシステムもありました。「冨山の薬売り」で有名なあれです。

 このお話の主人公、時雨は、柳行李に薬を入れて、背負って旅をする、さすらいの薬売りです。

 登場する病は、架空の病が多く、薬も架空の薬です(たぶん……)。時雨は、病の人を救えるときもあるし、救えないときもあります。けれども、それぞれの苦しみを受け止めて、向き合って、できるかぎりのことをします。

 時雨は苦しんでいる人たちのために「薬」を配り、小雨は「元気」を配る。それが、それぞれの役目。

 この世界では、獣が人間に化けて人間と結婚することもあるし、不思議と現実がとなりあわせの世界のようです。また、時雨の身の上にも、少し、秘密があるみたい。

 登場人物はいい人ばかりで、あたたかい心の交流があるお話なのですが、なんともいえない、独特の哀愁があります。

 時雨の薬は、魔法のようによく効く薬ですが、万能ではありません。時雨の薬でも、救えない病気、治せない病気があり、それによって時雨は苦しみます。その繊細な心が、元気な小雨によって救われているようです。

 四本のお話とも、薬によって困りごとが万事解決するわけではなく、むしろ「病が治らないときに、人はどう生きるか」がテーマになっているように感じます。
 現実でも、すっきり治る病はまれで、どちらかというと病と共存してゆく人生のほうが実際的ですよね。
 そして、生きている限り、やがていつかは、人は何かの病に負けるのです。

 どうにもならないやるせなさや、物悲しさを描きながら、人間の強さも思い出させてくれます。

 時雨の配る薬は、医者や薬屋のない村には、なにより必要なものですが、小雨の配る「元気」も、忘れてはいけない大切なもの。時雨の薬でどうにならないときに、小雨の薬が必要なのです。

 現実でもそうですよね。飲む薬だけじゃなく、人間には「元気」も大切な薬。

 字は程よく大きく読みやすいのですが、総ルビではなく、時代用語の解説が無いので、小学校中学年から。かしこい子なら低学年から読めると思いますが、単純なハッピーエンドではない話が多いので、深い情緒を理解するなら小学中学年からでしょう。大人でも楽しめます。もちろん、読み聞かせにも。

 ほんのりとした哀愁の漂う、ハートフル和ファンタジーです。
 雨の日の午後に、静かに読みたいお話なので、この季節にぴったり。お子様がひとりで静かに読んでいるとき、そして読み終わってしずかにしているときは、どうぞそっとしてあげておいてくださいね。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 スカッとするハッピーエンドではなく、どことなく哀愁の漂うお話が多い本です。病気が治らなくて死んでしまう人がいたりもするので、そういうお話がダメなタイミングでは、気をつけてください。小さなお子様(HSCのような繊細なお子様)にプレゼントされる場合は、まず保護者の方がご確認されてください。

 けれども、深い情緒があり、HSPHSCのほうが多くのメッセージを受け取れるでしょう。万全の状態のときにお読みになることをおすすめします。しみじみと、いいお話です。

 

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