【桜風堂ものがたり】本好きさん必読。本を愛する人たちのハートフルストーリー。【中学生以上】

銀河堂書店店員、月原一整は、ある事件によって、長年働いていた職場を辞めざるをえなくなってしまいます。失意の一整は、ネットで交流のあった桜風堂書店のある桜野町を訪れますが……
この本のイメージ ハートフル☆☆☆☆☆ 再生☆☆☆☆☆ 本好きの底力☆☆☆☆☆
桜風堂ものがたり 村山早紀/作 げみ/挿画 PHP研究所
<村山早紀>
1963年長崎県生まれ。日本の児童小説作家。「ちいさいえりちゃん」で毎日童話新人賞最優秀賞、椋鳩十児童文学賞を受賞。主な作品は『シェーラひめのぼうけん』『新シェーラひめのぼうけん』シリーズ、『風の丘のルルー』シリーズ、『はるかな空の東』などであり、近年は風早の街を舞台にした『コンビニたそがれ堂』シリーズ、『カフェかもめ亭』シリーズ等が人気を博している。
<げみ>
1989年生まれ。兵庫県三田市出身。京都造形芸術大学美術工芸学科日本画コース卒業後、イラストレーターとして作家活動を開始。主に書籍の装画や挿絵、CDジャケットなど幅広い分野でイラストレーションを制作。
このサイトで取り上げるには、少し対象年齢が高いかな、と思ったのですが、登場人物全員本好きさんという、本への愛がほとばしる作品だったので、思わずご紹介。
心に傷を負った、ひとりの書店員の心の再生と、小さな書店の再生、そして、一冊の本が誕生して育ってゆく物語が絡み合う、ハートフルストーリーです。
物語は、
主人公、月原一整は、星野百貨店にある銀河堂書店で長年働く書店員。「宝探しの月原」と呼ばれ、隠れた名作を探し出し売るのがうまい書店員でした。
しかし、あるとき、ある事件により、一整はやむなく職場を離れることになります。
失意の一整は、ネットで交流のあった桜野町の桜風堂書店をたずね、店長が入院中であると知ります。
そのころ、一整を守りきれなかった無念の思いを抱えた銀河堂書店の面々は、一整が売り出そうとしていた「四月の魚」を、全力で売ろうと決意していました……
と、いうのがあらすじ。
「ある事件」と言うのが、ちょっとややこしいのですが、いじめの被害者の少年が脅迫されて書店で万引きしていたのを、書店員の苑絵が見つけ、一整が追いかけるが、狼狽した少年は車道に飛び出して交通事故で思わぬ重症を負ってしまう。
それが、騒動になってしまい、一整の行動が加害者のように炎上してしまったため、店とデパートのブランドを守るために、彼が自ら職を辞した、と言う流れでした。
なんともやるせない話です。
一整は幼い頃父を交通事故で亡くしており、そのさい、父が飲酒運転だったと言うデマを自分の力で打ち消せなかったトラウマがありました。そのため、今回の体験は彼をいっそう苦しめました。
「自分がやめれば騒動はおさまる」と考えた彼は、みずから職場を離れたのです。
この物語では、「たとえ事実ではなくても、個人の力ではネガティブな噂は打ち消せない」と言うシビアな展開とともに、「みんなの力を合わせればムーブメントはおこせる」と言うポジティブな展開が同時進行しており、世界の光と闇を両方見せてくれます。
一整の父親の不名誉な噂は、結局は晴らされることなく、哀しい記憶となって残っていますし、銀河堂書店のトラブルに関する噂も解消することもなくそのまま残ってしまいます。
しかし、かつての有名シナリオライター団重彦の小説「四月の魚」は、書店員たちの熱意で小さな波が大きな波となってゆくのでした……。
わたしは、インターネットで本の紹介をしていますが、時折、こういうサイトは書店の邪魔になるのか助けになるのか……複雑な気持ちになることがあります。
ただ、わたしは本屋さんが大好きです。もし、この世に本屋さんが無くて、ネットの販売サイトだけになったら、本の装丁に惚れこんで買うような本との出会いは無くなってしまうでしょう。それはさみしいことです。
それとは別に、わたしはインターネットのポジティブな力を信じているので、ネットでの新しい文学の形、販売の形が広がってゆくのはいいことだと思っています。そうそう、ネット発祥の本は、出版界では「新文芸」と言うらしいです。この本を読んで初めて知りました。
このサイトでは、時々、本屋さんでは入手困難な本のご紹介もしていますが、これには理由があります。
わたしは、小さな子どもたちにはたくさん本を読んでほしいという気持ちで、児童文学の書評を書き続けています。
けれども、お子さまをとりまく環境、状況にはさまざまあって、ふんだんに本を買ってもらえる家の子だけではなく、なかなか本を買ってもらえない子もいます。また、我が子に好きなだけ本を買ってあげたくても、経済的に難しい保護者の方もいるでしょう。
そんなとき、活用してほしいのは図書館です。地元の図書館は、そこに住んでいれば誰でも図書カードを作れます。
しかし、「図書館で借りやすい本」と、「本屋さんで買いやすい本」は違うのです。
本屋さんには、主にそのときの新刊が並びます。ある程度並べて、売れなかった本は返品されます。市場で手に入りやすいのは、もちろん最新の本です。
ところが、図書館では逆で、最新のベストセラーは予約者数が何十人、何百人といて、なかなか借りることが出来ません。図書館で待たずに借りられる本は、世間で話題になっていない本のほうなのです。
このサイトでは「電子書籍オンリー」や「市場にはないが図書館にはある」本など、様々な本を「わたしが好きだから」と言うだけの理由でご紹介しています。入手困難なのにレビューを書くってことは、それだけ推してるってことなのです。「プリデイン物語」とかね。
わたしも、この物語の月原さんみたいに、宝探しが出来て、こうやって本を育ててゆくことができたら、どんなに素敵かなと思いながら読んでいました。
書店員さんたちの、手づくりPOPとか、ポスターとか、帯とか、ちょっと文化祭みたいであこがれます。いいですよねえ。
特にインパクトがあるのが、柳田店長の壮大なPOP。動くPOPとか、光るPOPとか。いや、それもうPOPじゃないですね、ディスプレイっていうか、装置ですよね。モデルがいらっしゃるというから驚きです。世の中には、すごい人がいるものです。
ブログで同じようなことしようとしたら、どうしたらいいんでしょう。光るバナーとか?(いや、光るの無理だから)漫画のバナーでは、紙芝居みたいになっているのありますよね。あれはわかりやすい。動いて、音が出て、光るバナー……(いや、光るの無理だから)
「桜風堂ものがたり」は、本好きさんの情熱が伝わってくる小説です。そして、「何かを好きであること」のパワーを再確認させてくれます。登場するキャラクターは善い人ばかり。そしてそれぞれが成長します。
わたしのお気に入りは、苑絵ちゃんのお母さんの茉莉也さんと女優の柏葉鳴海さん。もう、この二人、最高です。最大の推しキャラ。この二人のお話は、読んでみたいですね。ちょっぴりファンタジー風味で。
本好きさんは一度は読んでみてください。漢字にほとんど振り仮名がふっていないので、対象年齢は中学生から。でも、出版の裏側が知りたければ、小学校高学年でもチャレンジしてみてもいいかもしれません。
書店員さんたちの日常と、本を愛する人たち、本を世界に送り出す人たちの情熱を感じ取ることが出来ます。
インターネットの発達で、書籍の形は大きく変わろうとしていますが、「人と本の関係」はこれからも変わらず、あたたかく夢にあふれたものであると信じています。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
おすすめします。淡々とした物語ですが、本が好きなら共感できるところがたくさんあると思います。登場人物が全員、本が好き、と言うお話なので、とても繊細で、内省的なお話です。HSPの方のほうが多くのメッセージを受け取れるでしょう。主人公が「宝島」を愛読していて、オウムが登場するのも地味にうれしい。
一整さんが紅茶をいれるのが得意という設定です。読後は、おいしい紅茶をどうぞ。
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