【12歳のロボット】少女とロボットたちの奇妙な冒険の旅。映画化決定のジュブナイルSF【ぼくとエマの希望の旅】

2024年3月17日

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12歳のロボット ぼくとエマの希望の旅  リー・ベーコン/作 大谷真弓/訳 朝日川日和/絵 早川書房 (HAYAKAWA JUNIOR SF)

ぼくはXR935。ソーラーバネルの据付け第9世代ロボットだ。毎日、同僚のシーロン902とskD988と協力してソーラーパネルを据付けている。人類が滅亡して30年経つけれど、この世界は、人間がいないほうがずっと美しい。ところが、ある日……

この本のイメージ 冒険☆☆☆☆☆ 友情☆☆☆☆☆ 共存☆☆☆☆☆

12歳のロボット ぼくとエマの希望の旅  リー・ベーコン/作 大谷真弓/訳 朝日川日和/絵 早川書房 (HAYAKAWA JUNIOR SF)

<リー・ベーコン>
1979年アメリカ・テキサス州生まれ。ニュージャージー州在住の児童文学作家。ほかの児童書に「Joshua Dread」「Legend
topia」シリーズなどがある。

<大谷真弓>
1970年愛知県生まれ。愛知県立大学外国語学部フランス学科卒、英米文学翻訳家。訳書に、マーク・フロスト「秘密同盟アライアンス」(早川書房)ケン・リュウ編「折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー」(早川書房/共訳)
ブルース・コウヴィル「ラッセルとモンスターの指輪」(講談社/共訳)、アンドルー・フォックス「ニューオリンズの白デブ吸血鬼」(アンドリュース・プレス)、カルメン・ビンラディン「遅すぎないうちに」(青山出版社)などがある。

<朝日川日和>
日本、大阪府在住のイラストレーター。
フリーランスでイラストレーターの活動をしている。主にゲームや書籍のイラストを手掛けている。男性向け・女性向け(BL含む)の両方を取り扱っている。

 早川書房のジュニアレーベル、HAYAKAWA JUNIOR SFから出版された、ジュブナイルSFの新刊です。原書タイトルはそのものずばり、The Last Human.(最後の人間) 原書初版は2019年。日本版初版は2021年5月25日です。「スパイダーマン:スーパーバース」でアカデミー賞を受賞したコンビ、フィル・ロード&クリス・ミラーによる映画化が決定しています。

 (関係ないけど、この翻訳の大谷真弓先生ってすごいですね。プロフィール見てびびりました。世の中にはこういう超人がいるんですね……)

 ストーリーは……

 主人公XR935は、ソーラーパネル据えつけ用ロボット。同僚のシーロン902とskD988とで協力してソーラーパネルを据付けるのが仕事。毎日、決まった時間に決まった仕事をして、決まった時間に帰る。この繰り返しの生活。

 ところがある日、ソーラーパネルの上にうずくまっている「ありえないもの」を発見します。それは人間の女の子。
 なぜなら、人間は30年も前に絶滅したはずだからです。

 人間の女の子エマは、生き残った人間たちが暮らしていた地下の「バンカー」が伝染病で全滅したため、たった一人で旅をしている途中でした。
 彼女がひとりで、生きて目的地にたどりつく可能性は1.6パーセント。XR935たち三人のロボットは、エマと一緒に旅をする決心をしますが……

 というのがあらすじ。

 この物語は、全編ロボットの一人称で描かれています。ですから、「ロボットの目から見たら世界はどう見えるか」と言うのが読んでいてわかってきます。これがとても面白い。

 この世界では、30年前に人間は滅んでいました。地球環境を破壊し、お互い争いあい、殺しあったあげくに、ロボットの反乱をうけて滅ぼされてしまったのでした。

 XR935は、人間がいなくなったあとに生まれた12歳のロボットです。

 すべてを論理と計算で行っているロボットたちにとって、人間の女の子エマのすることは予測不能で意味のわからないことばかり。急に虫を観察したり、まずいリンゴを嫌がりおいしいリンゴに喜んだり、ロボットに服を着せようとしたり。

 「わけのわからない」エマと一緒に旅をしながら、ロボットたちもだんだん変化してゆきます。

 XR935のデータの中に「パラドックス」と言う言葉がありました。それは、ふたつの矛盾したものが共存していると言う意味です。彼はその言葉の意味を、エマと出会って知ります。エマは彼にとってのパラドックスでした。

 「エマ」は古代ゲルマン語で「宇宙」と言う意味だそうです。エマとの出会いで、XR935の知っていた「宇宙」は一変します。

 コンピューターは0と1で出来ています。有るか無しか、白か黒か、二元論の世界です。

 けれども、人間はそんなに単純ではありません。黒であり白であったり、その中間であったり、黒や白どころか、黄色だったり赤だったり、緑だったりする。白と赤のあいだにもピンクという色があったりとか、とにかくさまざまです。

 XR935は、人間と言うのは強欲で暴力的で見栄っ張りで、有害な生物だと思っていました。たしかにそう言う側面はあります。けれども、人間には愛や思いやり、他の存在を助けたいと言う欲求や何かを生み出したい、育てたいという気持ちもあります。

 人間が滅んで30年後の世界で、12歳のXR935たちは、人間の良い側面を知りませんでした。
 それを知って、ロボットたちにも変化が起きます。「思考」が「心」になってゆくのです。

 とても純粋でまっすぐなXR935の一人称でお話がすすむので、バンカーを出て知らないことばかりのエマとともに旅する彼の物語は、純粋な好奇心と驚きに満ちています。また、力持ちのシーロンは頼もしく、SkDはとにかくかわいい。

 skD988は、小さな箱型ロボットで、手は精密機械を組み立てるためのはさみがついています。ところが、このロボット、言葉ではなくて自分のディスプレイに表示された顔文字でしゃべるのです。この顔文字が表情豊かで、愛らしい。そして、言葉よりもずっと多くの、深い意味も絵で表現します。

 絵のほうが言葉よりも多くのことを表現できる、と言うのも、このストーリーのテーマと関っているように思います。

 ロボットだけの世界は、正確に決められた毎日を繰り返す世界でした。
 しかし、予測不能の因子エマが混入したことで、XR935たちの生活は一変します。

 やがて、エマを助けたことで、XR935たちは追われる身となるのですが、しかし、彼らの旅は最終的に、世界をポジティブな方向に変える旅となるのでした。

 善と悪、白と黒に割り切れる世界は、とても単純で楽です。けれど、人間は、そうでないからすばらしい。

 新しい世代のロボットと、新しい世代の子どもが手をつないで、新しい時代をつくってゆく、希望に満ちたお話です。もちろん、その前に人間の文明は一度滅んでいるので、それは人間に対する警告でもあります。そっちへ行かないようにと……。

 文章の中に絵文字が出てきたりして、今風の雰囲気はありますが、かなり正統派のジュブナイルSFです。
 字はほどよい大きさで、難しい漢字に振り仮名がふってありますので、小学校中学年から。絵も今風ですごくかわいいし、挿絵もたくさん入っています。

 白と黒だった世界が、だんだんカラフルになってゆく物語をあなたも体験してみてください。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はほぼありません。伝染病の描写はありますが、マイルドです。

 夢と希望と冒険がたっぷりの、正統派SFストーリー。ロボットたちが全員、いいやつで、気持ちが晴れ晴れとします。「絵文字くん」skDには癒されます。

 子どもにも大人にもおすすめ。

 食べるシーンはあまりないのですが、エマがリンゴを食べるシーンはとても幸せそうなので、読後はリンゴが食べたくなるかもしれません。

SFが好きなら

 

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