【虹いろ図書館のへびおとこ】不登校の少女が出会った古い図書館。背中を押してくれるヒューマンストーリー【小学校高学年以上】

2024年3月17日

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虹いろ図書館のへびおとこ 櫻井とりお/作 浮雲宇一/絵 河出書房

あたしは火村ほのか。家の都合で転校してきたの。新しい学校でトモダチになったかおり姫はクラスの人気者。これで安泰だと思っていたのに、ねこをいじめようとするかおり姫を止めようとしたばっかりに、翌日からひどいいじめに。学校にいけなくなったあたしは……

この本のイメージ ファンタジーではない☆☆☆☆☆ 回復と成長☆☆☆☆☆ かなり骨太☆☆☆☆☆

虹いろ図書館のへびおとこ 櫻井とりお/作 浮雲宇一/絵 河出書房新社

<櫻井とりお>
京都市生まれ。放送大学教養学部卒。2018年、第1回氷室冴子青春文学賞大賞を受賞。19年『虹いろ図書館のへびおとこ』で作家デビュー。20年度まで非正規職員として関東圏の公立図書館に勤めた。

 第1回氷室冴子青春文学賞大賞受賞作品だそうです。

 現物を手に取れないインターネットサイトなので、最初に申し上げますと、「ファンタジーではありません」。少女の成長を描いたヒューマンストーリーです。

 ラストがさわやかで、とても素敵なお話だったのでご紹介。

 ストーリーは……

 火村ほのかは、小学校6年生。二学期から家の事情で柿の実町に転校してきました。
 お父さんは仕事を変わったばかりでたいへんそう。家は以前より小さくなり、お母さんは難しい病気で入院していて、お姉ちゃんとふたりで家事を分担しています。

 がんばって新しい環境になじもうとしていたほのかでしたが、クラスの人気者「かおり姫」の不興を買ってしまい、翌日からいじめの対象に。
 ほのかは家族に心配をかけまいと学校に行くふりをして、外ですごすことにします。そんなとき、古い図書館を知り、そこを居場所にすることに。

 そこには、司書のイヌガミさんや、うつみさん、スタビンズ君など、いろんな人がいて、ほのかは彼らと交流するうちに、知らず知らずのうちに成長してゆくのでした……

 と、いうのがあらすじ。

 本は、千人いれば千の解釈が生まれます。
 わたしの解釈が正解ではないかもしれません。けれども、このお話は好きです。思春期にさしかかる前の、この年頃の女の子の成長物語として、かなり真正面から取り組んだ正統派の児童小説だと思いました。

 冒頭の段階から、ほのかの一人称の語りは明るいのですが、かなり深刻な事情を抱えていることがわかります。
 お父さんが何らかの事情で職を変わり、家の収入が減ったこと、お母さんが難しい病気で入院していること、家事を子どもたちで分担していることなどから、すでにほのかはいっぱいいっぱいです。

 新しい環境に1日でも早くなじもうとして、「かおり姫」と遊ぶことにしますが、彼女が猫をいじめようとしたのを止めたばかりにいじめのターゲットにされてしまうのでした。
 クラスメイトたちのいじめの描写も激しく、手加減がありません。

 家族の抱えている事情が深刻なので、ほのかは家族に相談することなく、学校に通うのをやめて町をさすらううちに、図書館にたどりつきます。そこが彼女の居場所となるのでした。

 いじめを親に相談できなかった事情がほかにもあって、ほのかのお父さんの上司がかおり姫のお父さんだったのです。
 小さな町のしがらみというか、こういうケースは確かにすごくある。お父さんが人質に取られているようなものだから、ほのかはお父さんに本当のことが言えないのです。

 最初のうち、ほのかはがんじがらめです。
 そもそも、ほのかが「かおり姫」と友だちになろうと決めたのも、かおり姫が好きだったからではなくて、彼女がクラスの人気者そうで「仲良くしておけばまちがいない」と思ったから。
 サバイバルの手段だったわけです。

 結果的に凶と出て、ほのかは学校というコミュニティからはじき出されてしまいますが、そこで彼女は図書館と言う居場所を見つけます。

 そこにいるのは、身体の広範囲にあざがあることからかおり姫から「へびおとこ」などと呼ばれているイヌガミさん。洞察力にすぐれ、言葉少ないながら、ほのかを気遣い、見守ってくれます。

 ほのかはそこで、たくさんの本と出会います。
 本を読んで、様々な人と交流して、見えていなかったものが見えてきて、そして回復していく。

 わたしは、憤怒のあまりイヌガミさんに「あたしと結婚してください! 絶対幸せにします!」と叫んじゃうほのかちゃんが男前で大好き。
 いやいや、わたしが結婚したいよ、ほのかちゃん。
 「絶対幸せにします」て。
 小学生の女の子が大人の男の人に切る啖呵としてかっこよすぎる。

 それに対する返事もイヌガミさんらしいのです。こう言う人だから、この人はここでこうしているし、ほのかちゃんも好きになったんだなと、納得できる返し。

 好きなくだりはここ。

 「そもそも、小学生が平日の昼間から来ていたら、学校はどうしたと問いただすのが、大人の常識じゃないのですか?」
 イヌガミさんはぎろり、と今度は織田先生に目を向けた。
 織田先生は二歩も三歩も後ろに下がった。
 イヌガミさんの左側のほっぺは赤く、右のほうはどす黒く見えた。あごがふるえているのが、ここにいてもはっきりわかる。
 「問いただしたら、その子はここに、もう来られない。次はどこへ行くんですか?そうやって、子どもの行き場をなくし、追い詰めろと言うのですか?」(引用 P155)

 学校に行けなくなったほのかに「どうしたの、学校にはいかないの?なにがあったの?」と事情を聞かなきゃいけないのは、担任の先生です。それが仕事です。先生は自分ではそれができなかったのに、見ず知らずのほかの大人が、自分の知らないところで勝手にそれをしてくれることを期待してしまう。

 対してイヌガミさんは司書として、図書館利用者のプライバシーを守る。自分の仕事を全うしています。
 イヌガミさんの言葉は、まごうことなきど正論なのですが、実際は子どものためにこの正論を説ける人がどれだけいるか……そりゃ、好きになるよねえ、ほのかちゃん。

 次々と襲い来る問題に対処するだけでせいいっぱいだったほのかが、本や、図書館の人々との出会いをきっかけに、自分を掘り下げて内省するようになります。それによって、また新しい悩み苦しみが生まれたりしながらも、強く成長してゆくお話です。

 ラストは映画のように、美しく映像的。
 途中までは、かなりヘビーな展開もあるのですが、この美しいラストシーンですべてが報われる感じです。

 ボリュームがあり、読み応えがありますが、文章が読みやすいので、小学校高学年からぜひ。
 たくさんの本が登場するので、読後はそれを読むのも楽しそう。

 「終わらない物語を読みたい」スタビンズくんに「大菩薩峠」(終わってない)をすすめるイヌガミさんも渋いけれど、ラストで「グインサーガ」(終わってない)を読んでいるスタビンズ君にはクスっとしました。

 雨の週末に、ゆっくり読みたい一冊です。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 テーマが深刻なので、時間がたっぷりとれて万全の状態で読んで欲しい本です。ただ、現在、学校などでつらい状態にいるお子さまにはおすすめです。

 様々な解釈が出来る本です。本が好きで内省的な方に。HSCのお子様のほうが多くのことを読み取れると思います。

 

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