【ナンシー・ドルーミステリ】一度は読みたい、90年前から愛されてきた少女探偵の事件簿。善良な男の濡れ衣を晴らせ【日記の手がかり】【電子書籍】【小学校高学年以上】

2024年3月17日

広告

日記の手がかり ナンシー・ドルーミステリ 7  キャロリン・キーン/作 渡部庸子/訳  創元推理文庫

ナンシーと親友二人がカーニバルで出会った女の子は、父親が行方不明で生活が苦しいらしい。なんとか助けられないかと相談しながらの帰り道、不審な爆発と火事に遭遇します。そこで拾った日記が、ナンシーに事件の匂いを感じさせるのでした……

この本のイメージ 謎また謎☆☆☆☆☆ 濡れ衣を晴らす☆☆☆☆☆ ついにボーイフレンド登場☆☆☆☆☆

日記の手がかり ナンシー・ドルーミステリ 7  キャロリン・キーン/作 渡部庸子/訳  創元推理文庫

<キャロリン・キーン>
エドワード・ストラテマイヤーが設立した、「ストラテマイヤー工房(シンジケート)」が生み出した作家チームのペンネーム。チームには、エドワードの娘ハリエットを含めた複数の作家が所属している。

 チームキャロリン・キーンがおくる、少女探偵の事件簿シリーズ、ナンシー・ドルーミステリの第七巻です。The clue in the diary. 初版は1931年です。

 「ナンシー・ドルー」シリーズは、アメリカの人気作家エドワード・ストラテマイヤーが「キャロリン・キーン」名義で執筆しようとしていた矢先に死去したため、そのアイディアをもとにして、複数の作家で世に出したシリーズです。メインメンバーのなかには、エドワードの娘ハリエットも参加していました。

 1人の総合監督が全体設計を作り、設定書やあらすじを共有して複数の作家がシリーズを執筆する方法は、テレビドラマシリーズの手法によく見られます。

 アメリカの長期連続テレビドラマシリーズでは「ショーランナー」と言う、全体構成とあらすじを決める作家がいて、その全体構成にあわせて、複数のシナリオライターが執筆する形になっています。

  小説の世界ではドイツの「宇宙英雄ペリー・ローダンシリーズ」や、アメリカの「サーティナイン・クルーズ」などで行われている手法です。日本では、「グインサーガ」が作者の死後、この手法で続行中です。

 今回のお話では、ナンシーのボーイフレンド、ネッド・ニッカーソンが初登場。彼はメインメンバーに参加して、今後、ナンシー、ジョージ、ベス、ネッドの四人組が長くシリーズで活躍するようです。

 このナンシー・ドルーミステリ、1930年に第一作目「古時計の秘密」が出版されてから、今も続いている大人気シリーズだというのが驚きです。ここまで続いたら、すでにインフラと同じですよ。

 こんな長いシリーズって、日本にはないので驚きですが、それほどアメリカには定着したコンテンツといえるでしょう。

 ナンシーはすでにアメリカの文化的アイコンとなっているようで、最高裁判事 サンドラ・デイ・オコナー、ソニア・ソトマイヨール、ヒラリー・クリントン元国務長官や元ファーストレディ ローラ・ブッシュなどが子どもの頃愛読し、大きな影響を与えられたと言います。

 1930年って言うと、第2次世界大戦より前、いわゆる戦前なのですが、ナンシーはほがらかではつらつとした美人、そして、なんでも自分でやってしまう、行動的で自立した女性として描かれています。

 ピンチのときに男性キャラが助けてくれることもなく、むしろ父親の敏腕弁護士カーソンは、シリーズ中でたびたび浚われたり、襲われて気絶したりもしますし、あまりあてになりません。ナンシーはいつも自力で危機から脱出します。

 また、たいへん美しくおしゃれなのに、色仕掛けのような手段もとらず、他人との交渉はあくまで理詰め、暴力にも体力で対抗するだけの強さがあります。乗り物についても車の運転からモーターボートまでなんでもござれ。まさに完璧超人です。

 作品中、ナンシーが美しく装ったり、意味もなく何度も着替えたりするシーンがあるのですが、たぶんこれは読者へのサービスシーンなんですよね。

 ナンシーは、男に対抗しようと男装するわけではなく、身なりを気にしないワイルドなタイプでもなく、フォーマルな場所にはドレスを着て、アウトドアではスポーティなスタイル、女の子同士のショッピングではかわいく装います。
 そして、高級ホテルでのパーティやランチにも行くけれど、山奥の廃墟にだって一人で行くし、モーターボートもスキューバダイビングも、コンパーチブル(オープンカー)でドライブもします。なんでもありなのです。

 そして、食べるときは遠慮なんてしない。おいしいものはもりもり食べる。

 1930年の頃、上流階級の女の子は運転手に車を運転してもらい、上品なワンピースでおちょぼ口で大人しく食事していたのが主流だったと考えると、とてつもないヒロインを創り出したものです。

 ちなみに、日本では1932年に、白木屋大火事件が起きています。
 八階建てのデパートの四階から出火した炎はたちまちのうちに燃え広がりましたが、着物のすそがはだけるのを恥じた女性たちが命綱を握れなかったり、すそを押さえようとして命綱から落下したりして命を落としたと言う、有名な事件です。
 女性はつつましくあれ、恥をかいて生きるか、それとも死ぬか、くらいの時代でした。

 そんな時代に、海の向こうではナンシー・ドルーですよ。

 ナンシーはいつもおしゃれをして、美しく装っています。しかし、必要と有らば山や崖も登るし、暴漢にも立ち向かいます。たぶん文章には書かれていないけど、アクションシーンではパンチラなんて気にせず戦っているのだと思います。

 そして、自力でコンパーチブルを乗り回し、事件の匂いがあれば、どこへでも行ってしまう。車が故障したりパンクしたりしたら、自分で修理工場に持ってゆき、自力で交渉して修理代を支払います。

 美人で性格が良いうえに、なんでもできるので「出来すぎ」「優等生すぎ」と言われることもあるナンシーですが、この時代にここまでできる女の子を主人公にしたストラテマイヤー・シンジケートには途方もない功績があります。これは覚悟がないとできない。

 「女の子なんだから、ここは一歩引いておこう」とか、「男性にも花を持たせておくか」みたいなところが一ミリもないのです。

 多少のやりすぎ感はありますが、当時、エドワード・ストラテマイヤーとストラテマイヤー・シンジケートがまったく新しい、新時代の女性のアイコンを生み出すために注いだ、並々ならぬ熱意を感じます。
それくらい、時代を考えたら、とんでもない女の子なのです。

 その後のアメリカ女性に大きな影響を与え、今なお継続しているシリーズだと考えると、教養として読んでおくのも悪くはないでしょう。

 今回のお話は、高台にある大金持ちの家が突然の爆発事故で全焼し、その火災の犯人と疑われた男性ジョー・スウェンソンの冤罪をナンシーが晴らす事件。

 スウェンソンがスウェーデン人で、彼の日記がスウェーデン語で書かれているため、ナンシーに読むことが出来ず、重要な手がかりから情報が引き出せないなど、移民国家であるアメリカ特有の事情も描かれています。

 夜中に事件の調査に行くナンシーに、ぶつぶつ言いながら付き合うベスとジョーの女の友情も健在。この人たちも、ナンシーの規格外の行動にごまかされていますが、たいがい無鉄砲ですよ。

 「子どもたちのための良質のミステリを」と言うストラテマイヤーの理念から、残酷シーンや流血シーンはなし。けれど、アクションは満載。ハラハラドキドキしながら最後まで読めます。

 現在、紙の本は中古か図書館でしか楽しめませんが、電子書籍で楽しめる良質な子供向けミステリとして、ナンシー・ドルーはおすすめ。ただし、漢字にほぼ振り仮名がふってないので、自力で読める子向けです。

 このブログでは、ナンシー・ドルーミステリが本来は子ども向けに書かれていることと、小学生にも挑戦してほしいのであえて「小学校高学年以上」としておきますが、振り仮名のなさでは「中学生以上」の作品です。もちろん、大人でも楽しめます。

 スカッとした、人の死なないミステリを読みたいときは、ナンシー・ドルーを。

 このシリーズは、日本ではあと一作です。最後までご紹介します。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ナンシーは推理はしません。ですから、推理ものと言うよりも、美少女探偵の事件簿という感じのシリーズです。
 ハラハラドキドキはしますが、残酷なシーンはないので、水戸黄門のような予定調和を安心して楽しめるミステリです。たまにはオーソドックスを楽しみたいときに。

 読後はコーヒーとアイスクリームでほっと一息。

 

商品紹介ページはこちら

 

 

この本の続きはちら

https://www.youtube.com/watch?v=E1oFW1RUC6g
お気に入り登録をしてくださればうれしいです。また遊びに来てくださいね。
応援してくださると励みになります。

にほんブログ村 本ブログへ

広告