【オリンポスの神々と7人の英雄】「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々シーズン2」の第1巻。あらたな主人公たちの冒険【消えた英雄】【小学校高学年以上】
気がつくとジェイソンはバスの中にいた。すべての記憶を失って。彼とガールフレンドのパイパーと親友のリオの三人は、怪物に襲われ、ハーフ訓練所にたどりつく。訓練所ではパーシーが行方不明になっていて、アナベスが必死の捜索を続けていた。パーシーの行方は? そして、ジェイソンの正体は?
この本のイメージ パーシーの続編☆☆☆☆☆ ファンタジー☆☆☆☆☆ 疾走感☆☆☆☆☆
オリンポスの神々と7人の英雄 1 消えた英雄 【パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々シーズン2】 リック・リオーダン/作 金原瑞人・小林みき/訳 ほるぷ出版 静山社ペガサス文庫
<リック・リオーダン>
リチャード・ラッセル・ライアダン・ジュニア(Richard Russell Riordan, Jr.、1964年6月5日 ~ )はアメリカ合衆国の推理作家、児童文学作家、ファンタジー作家。通称リック・ライアダン(Rick Riordan)。日本ではリック・リオーダンあるいはリック・ライオダンとも呼ばれている。代表作は「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」。
ギリシャ神話の神々が原題によみがえる、リック・リオーダンのファンタジー「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」(Percy Jackson & the Olympians) のシーズン2「オリンポスの神々と7人の英雄」(The Heroes of Olympus)の第一巻です。
原題はThe Heroes of Olympus;The Lost Hero. 原書初版は2010年。日本語版初版は2011年です。いろいろと大変な時期に、こんなにハイスピードで翻訳してくださっていたんですね。
読書は、どんなときにでも、どんなところででも、本さえあればできます。
本を保管する場所がなければ電子書籍、経済的に苦しいときは古本や、図書館を利用できます。新刊を買って作者や本屋さんを支えるのももちろんですが、お金がなくても人の心を支えてくれるすばらしいもの……それが読書です。
純文学ならすばらしくて、SFやファンタジーはくだらないとか、そういうことはないので、好きだと思うものはどんどん読もう、と言うのがわたしのポリシー。
ファンタジーって、SFより認められにくくて「科学的ではない空想や妄想の世界に浸っていて現実とむきあっていない」などと昔からよく言われたものです。
しかし、わたしたちの子どもの頃、どう考えても空想や妄想の世界としか言えなかったものが、現代では現実になっています。
「高度に発達した科学は魔法と区別がつかない」と言う、アメリカのSF作家アーサー・C・クラークの名言がありますが、スマートフォンやタブレット、オキュラスなんて、子ども時代のわたしにとっては魔法ですよ!
だいたい、わたしの子どもの頃って、学校の先生が配るプリントは、ガリ版だったんですよ? ご存知です?ガリ版。 そして、紙は茶色いわらばん紙(し)。白い紙なんて、小学校中学年くらいまで見たことありませんでした。それが今や、白い紙に大量印刷を通り越して電子書籍の時代です。
緊急時に必ず売り場からなくなるトイレットぺーパーだって、わたしが幼児のころはなかったのです。トイレにあるのは、「ちり紙(がみ)」だったんです。だから、昭和初期が舞台のドラマで、トイレットペーパーが出てくると、異常な違和感があります。なかったんですよ……当時。もう現場に年寄りがいないんでしょうね。
と、言うどうでもいい昔話をしてしまいましたが、そんな時代に「仮面ライダー」を描いていらした石ノ森章太郎先生(当時は石森章太郎)の偉大さははかりしれません。
ちなみに、石森先生はデビューが高校生のときでした。当時でも、高校生であそこまで上手いって、とんでもない才能だったんです。便利な道具なんてほとんどない時代でしたからねえ。
しかも、ストーリーはちょっと大人っぽくて哀愁がある。今年で仮面ライダーは50周年らしいですが、50年前にあの発想力は、驚異的だと思います。手塚先生と石森先生で、シリアスなヒーローものの原型はほとんど描きつくしてしまったくらい多くの名作が生まれました。
あの時代に漫画を読んで育った人たちが、科学者になったり建築家になったりクリエイターになったりして現在があります。そう、かつて漫画で読んだ世界が現実になっているのです。
さて、前置きが長くなりましたが(年寄りの昔話は長い)、本日の本のご紹介は「オリンポスの神々と7人の英雄」第1巻「消えた英雄」です。
これは、「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」のシーズン2となっており、お話が完全に続いているので、まずは「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」からお読みになることをおすすめします。
シニアオタクだと、ギリシャ神話で思い出すのは「聖闘士星矢」だと思います。あれで、なんとなくギリシャ神話に親しみを覚えた方も多いのではないでしょうか。
オタクは、漫画やアニメのおかげで、ギリシャ神話に詳しくなったり、仏教に詳しくなったり、スポーツに詳しくなったりと忙しいのです。偏った知識で、ときどき間違っていたりするけど。
シーズン2の主人公は記憶を失ったジェイソンという高校生。
自分が何者かもわからないまま、同じバスに乗っていたリオとパイパーとともにハーフ訓練所に連れて行かれます。そこは、神々と人間のあいだに生まれたハーフ(原作ではデミゴッド)を訓練する特殊な場所。
どうやら、ジェイソンの記憶喪失には、行方不明の女神ヘラが関っているらしい。
ジェイソン、リオ、パイパーの三人は、ヘラ救出の旅に出ることになります。
はたして、ジェイソンは何者なのか? そして、ヘラは救出できるのか?
……と、いうのがあらすじ。
「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」はパーシーの一人称でしたが、今回のお話は、ジェイソン、リオ、パイパーの三人の視点で交替で書かれています。
ジェイソンは記憶喪失なので自分のことがほとんどわかりません。ジェイソン視点だと、何もわからない人が知ってゆく話なので世界設定の説明にはよいのですが、なかなか感情移入することができないので、リオやパイパーの視点が入ることでとても読みやすくなっています。
多視点になることでヒロインのパイパーの掘り下げが深く、主人公なみに描かれているのも本作の特徴。
パイパーには特殊能力があり、それが本人のコンプレックスでもあり武器でもあるという設定。彼女は自分自身にもコントロール不能なくらい強力な話術(Charmspeak)を持ち、その力で仲間を助けます。
これは、かなり現代的というか新しい設定で、かわいい女の子が周囲に影響力を及ぼす力について、「かわいさ」とか「愛の力」とか「色仕掛け」とかではない、別の力を「能力」として表現したことに魅力を感じました。
現実にも「説得力」とか「納得力」「リアリティ」などと表現されることもありますが、他人に話を理解してもらう、納得してもらうと言うのは、ひとつの能力です。男性だとそれを「カリスマ」などと表現されることもありますが、「リーダーシップ」ともちょっと違うのです。最近の偉人だと、アップルの創業者スティーブ・ジョブズが有名です。
ところが、女性がそれを行うと、どうしても「色仕掛け」と混同されがち。パイパーはあえて目立たないような地味なファッションをしており(基本的な容姿はかわいい)、ノーメイクで、美やかわいさ、色気のアピールはしませんが、不思議な力で相手に自分の話を納得させます。
男性作家の書いた物語で、女性キャラクターを描くさい、ここまで「色仕掛け」と「人を惹きつける魅力」をはっきりと切り離して描かれたものを今まで読んだことがなかったので、感動しました。わたしも、このふたつはまったく別のものだと思います。
謎だらけだったジェイソンが自分を取り戻してゆく物語もわくわくなのですが、パイパーが自分の能力を見出し成長してゆく物語も、女性読者にとっては胸が熱い展開です。
まだまだジェイソンの冒険は始まったばかり。
ラストで、「どうしてパーシーが行方不明なのか」がわかったとき、「こう来たか!」と膝を打ち、わくわくしてきました。
いつもながら鈍器になるほどの分厚さですが、ぐいぐいと引き込まれるお話なので、あっと言う間に読めます。ただし、カタカナの名前が英語、ギリシャ語、ラテン語と入り乱れるので、メモを取りながら読んだほうが混乱しないでしょう。
とはいえ、まずは「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」から。
自粛期間にぴったりの、読み応え満点のシリーズです。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
戦闘シーンや暴力シーンはあるのですが、気をつけて書かれており、驚くほど残酷シーンはありません。「そういうシーンがあるのだな」と身構えていれば大丈夫な方にはおすすめです。
だいたい、少年ジャンプくらいの程度なので、少年ジャンプが読めれば大丈夫だと思います。
リオがとても料理上手なので、読後はおなかがすくかもしれません。ハンバーガーやフライドポテト、コーヒーなどで気分を盛り上げてくださいね。
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