【小さな国のつづきの話】日本発ファンタジー児童文学の名作、完結編。大きくひろがる小さな世界【コロボックル物語】【小学校中学年以上】

2024年3月17日

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小さな国のつづきの話 コロボックル物語 5  佐藤さとる/作 村上勉/絵 講談社青い鳥文庫

図書館で働く杉岡正子は、あるとき、ムックリと言うやんちゃな男の子から不思議な本を薦められます。それは「だれも知らない小さな国」。その本には、不思議な小さい人たちのことが書いてあって……

この本のイメージ ほのぼの☆☆☆☆☆ 作中作☆☆☆☆☆ ひろがる世界☆☆☆☆☆

小さな国のつづきの話 コロボックル物語 5  佐藤さとる/作 村上勉/絵 講談社青い鳥文庫

<佐藤さとる>
日本のファンタジー作家。「コロボックル物語」は日本発のファンタジーとして知られる。

 「だれも知らない小さな国」からはじまる「コロボックル物語」完結編です。初版は1983年。青い鳥文庫の初版は1991年です。このシリーズは、現在、講談社青い鳥文庫以外は入手困難なことが多いため、青い鳥文庫でご紹介しています。

※講談社創作童話シリーズの単行本版が少し重版されたようです。そちらもリンクしておきます。今なら全巻揃うようです。(2021.8.13現在)


 昭和34年から開始された本シリーズ、昭和58年に完結です。これは、ほんとうに、昭和の話なんですね。

 せいたかさんが最初にコロボックルの住む土地に家を建てたのは、まだ敗戦後の雰囲気の残る時代で、人が簡単なつくりの小屋を建てたりするのはよくある時代でした。

 この完結編が出版された昭和58年は、かなり文明が進歩していて、日本は豊かになっています。1983年頃と言ったら、日本は本当に景気が右肩上がりで、とてもいい時期でした。

 主人公の杉岡正子は、感情の起伏があまり表に出ない、大人しくて地味な子です。あまりにも感情が表に出ないので、「変な子」と思われている。でも、内面では強く感情が動いていて、繊細で、やさしい子なのです。
 わたしの印象は、フィギュアスケートの宮原知子選手のイメージ。

 正子は、図書館で、小さな女の子に出会います。彼女は、ツクシンボ。好奇心旺盛で、コロボックル仲間のなかでは変わり者扱いの女の子でした。

 ふたりを出会わせたのは、せいたかさんの息子ムックリくんと、コロボックルのオハナです。もともと、正子はせいたかさんの娘「おチャメ」の親友だったので、あとはスムーズでした。

 人間の「ヘンな子」正子とコロボックルの「変わった子」ツクシンボは、あっと言う間に意気投合します。この出会いによって、さまざまな化学反応がおきて、コロボックルの世界はひろがってゆく……と言うのがあらすじ。

 この完結編でいままでの物語の種明かしがされます。

 「だれも知らない小さな国」からはじまる、「豆つぶほどの小さな犬」「星からおちた小さな人」「ふしぎな目をした男の子」は、コロボックルの理解者を見つけるために、せいたかさんの友達(佐藤さとる先生)が書いた物語である、と書かれているのです。

 最後の最後でこういう演出があるのは、粋ですね。

 物語のなかで、「コロボックル物語」が「実話」となっていることで、読んでいるうちに物語のなかに入り込んでゆくような不思議な感覚に陥ります。わたしは大人なので「こういう演出なんだな」と思って読みますが、子どもの頃にこれを読んだら、最高にわくわくすると思います。想像力が刺激される展開です。

 人間とコロボックルの交流を描いた物語でしたが、その物語は、さらにその外側へと広がってゆきます。人間同士の交流もあります。これは、異種族と人間の交流を描いたファンタジーですが、比喩としてとらえ、「違う人たち」と交流し理解しあう物語とも言えます。

 さいごは、しあわせな、そしてひろがりのあるハッピーエンド。

 家の中にいると気持ちもついつい閉塞しがちですが、家のなかで、小さな小さな存在のお話を読みながら、心を大きく広げてゆくこともできるのだなあ、としみじみ感じました。

 日本のファンタジー作家に大きな影響を与えた名作です。この機会に、シリーズ読破はいかがでしょうか。 電子書籍もあります。

 このシリーズ、お話としてはここで完結ですが、短編集があるようです。それも近いうちにご紹介します。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はありません。古き良き雰囲気がいっぱいの、ほのぼのファンタジーです。お話がすべてつながっているので、「だれも知らない小さな国」から順番にお読みになることをおすすめします。

 子ども向けとなっていますが、大人も楽しめる、読み応えのある話ばかりです。昭和のレトロな雰囲気も楽しめます。

 読後は、あたたかい緑茶と和菓子で、のんびりティータイムを。

 

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