【朝びらき丸東の海へ】ファンタジーの名作、第3巻。不思議の海の航海【ナルニア国ものがたり】【小学校中学年以上】
ルーシィとエドマンドは、いとこのユースチスとともに、不思議な絵からナルニアに入り込んでしまいます。東の海へ向けて冒険と探索の航海に出ていたカスピアンと出会った三人は、この旅に合流することになり……
この本のイメージ 不思議☆☆☆☆☆ 冒険☆☆☆☆☆ 哲学☆☆☆☆☆
朝びらき丸東の海へ ナルニア国ものがたり 3 C・S・ルイス/作 瀬田貞二/訳 岩波少年文庫
<C・S・ルイス>
本名クライブ・ステープルス・ルイス(Clive Staples Lewis 1898年11月29日 ~ 1963年11月22日)。アイルランド系のイギリスの学者、小説家、中世文化研究者、キリスト教擁護者、信徒伝道者。全7巻からなるハイファンタジー小説『ナルニア国物語』の著者として有名。
世界三大ファンタジーのひとつ、ナルニア国ものがたり第3巻。(世界三大ファンタジーとは、40年くらい前によく言われていた言葉で、善と悪、光と闇などをテーマとした、細密な世界設定のクロニクルものとして、「ナルニア」「ゲド戦記」「指輪物語」をあげる方が多かったと記憶しています。ちなみに、ナルニアの作者C.S.ルイスは、「指輪物語」の作者トールキンの親友です)
第3巻は、かなり哲学的、宗教的な味わいの濃いお話です。
もともと、作者のルイスは敬虔なキリスト教徒で、キリスト教の教えを子どもたちにわかりやすく教えるために「ナルニア国ものがたり」を書いたといわれています。
たとえば、「ライオンと魔女」で、4人きょうだいのうちエドマンドが裏切り者となり、アスランが石舞台で一度死に、その後復活するなどは、キリストのエピソードを模しているのです。
その後もアスランは、子どもたちを導く救世主的存在としてこの物語に何度も登場します。
今回、ナルニアにゆくのは、エドマンドとルーシィ、そして、ルーシィのいとこユースチスです。
不思議な絵を見ているうちに、絵を通じてナルニアに行ってしまったルーシィたち。
そこで、東の海へと行方不明のナルニアの貴族たちを探しに航海に出た「朝びらき丸」とカスピアンに出会います。
ルーシィたちは、カスピアンと冒険の旅をして、様々な場所で不思議な体験をする……
……というのが、今回のあらすじ。
勉強ばっかりしていたせいで、頭でっかちでいじわるに育ってしまったユースチスがナルニアの冒険を通じて成長するのが前半のメインエピソード。
彼は、旅の途中でたいへんな災難に遭うのですが、それを乗り越えることで心身ともに「脱皮」して、成長します。
読んでいて、再発見したことがあります。
ユースチスの心の成長を、知識のように何かを積み上げてゆくのではなく、こんなふうに「脱皮」として描くのは、作者が人の心の奥底の善良さを信じているからなのだと。
ユースチスの心はもともとは善良で、その上に偏った価値観や知識、先入観を幾重にも積み重ねてしまったがゆえに、おかしくなってしまった。
だから、彼は一度、どん底に落ち、困難をきわめ、そのあいだに育っていた「ほんとうの自分」に脱皮して戻っていったのだと思います。
もちろん、それを手伝うのは、神でありキリストの化身であるアスランなのですが……
かなり宗教的ですが、ルイスの、「人間の本質」に対する信頼が感じられます。苦しんだユースチスにいちばん優しかったのは、かつては裏切り者だったエドマンド。
物語の中でいちばん善良なのはルーシィなのですが、今回はその彼女にも心の底の暗い部分が浮き上がってくる時があり、どんな人間の心にも暗い部分があり、それに立ち向かいながら生きているのだと描いています。
キリスト教だけでなく、仏教も、「どんな人間もみな、本質的には罪深く、そして尊くすばらしい」、と言う思想が基本になっています。
このおはなしで、最も尊い場所にゆけるのが、現実世界では「害獣」として認識されているねずみだというのも、意図があるのでしょう。イギリスのファンタジーには、「ねずみもの」が多く、日本人が読むと、どうしてこんなにねずみの話が多いんだろうと不思議に感じてしまうくらいです。
けれども、ねずみは穀物を食い荒らすだけでなく伝染病を媒介するので、当時は現代人の想像以上に「不幸をもたらす動物」でした。このねずみを、「良い生き物」として描く逆転現象が、「固定観念を捨てよ」「自分が軽視していたものの中に宝がある」と描くファンタジーの象徴ではないかと思うのです。
でもまあ、そんなことを抜きにしても、このねずみの騎士、リーピチープは、大変可愛らしい。「かわいい」なんて言うと大憤慨しそうな、誇り高い彼ですが、ルーシィが思わずもふもふしたくなるのもわかります。
このリーピチープ、「十二国記」の楽俊(らくしゅん)のモデルとしても、ファンタジーファンのあいだでは有名です。
過酷な物語「十二国記」の最大の癒し、楽俊。ファンの多いキャラクターですが、楽俊のルーツを知りたい方は、ぜひ、「ナルニア国ものがたり」も読んでみてくださいね。(というか、ファンなら、いわずもがなで読んでいらっしゃると思いますが……)
どちらもまだの方は、これを機会に、ぜひ、両方どうぞ。
※ナルニア国ものがたりは電子書籍もあります。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はありません。今回は、哲学的な、宗教色の強いお話です。HSPやHSCのほうが多くのメッセージを受け取れると思います。
いままでの巻より、すこしだけ難解ですが、ユースチスとエドマンドのエピソードなど、考えさせられる大切なお話もあります。内向的で、完璧主義のお子さまには、とくにおすすめです。救いになるのではないかと思います。
読後は英国紅茶でティータイムを。
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