【ランサム・サーガ】金を採掘?少年少女のわくわくの夏休み【ツバメ号の伝書バト】【小学校高学年以上】

2024年3月17日

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ツバメ号の伝書バト 上下 ランサム・サーガ6 アーサー・ランサム/作 神宮輝夫/訳 岩波少年文庫

ウォーカーきょうだい、ブラケット姉妹、Dきょうだいの八人は、いつもの湖水地方で夏休みをすごすために合流しました。フリント船長ことジムおじさんは海外で金の採掘に夢中になっており、合流が遅れています。この地方にも金があるらしいとかわら屋ボブから聞いた子どもたちは、フリント船長をびっくりさせようと……

この本のイメージ 山のキャンプ☆☆☆☆☆ 金の採掘☆☆☆☆☆ 伝書鳩☆☆☆☆☆ 

ツバメ号の伝書バト 上下 ランサム・サーガ6 アーサー・ランサム/作 神宮輝夫/訳 岩波少年文庫

 ランサム・サーガ第六作目は、「ツバメ号の伝書バト」です。このシリーズ昔は「アーサー・ランサム全集」として刊行されていて、その後「ランサム・サーガ」として神宮輝夫先生が訳を改訂して岩波少年文庫から出版されました。

 原題はPigeon Post. 初版は1936年。日本語版は、白木茂訳(抄訳)が講談社から「山の伝書ばと」として1961年、同年に神宮輝夫訳「ツバメ号の伝書バト」が出版されています。アーサー・ランサム全集としては1967年に出版されています。

 おはなしは……

 ジョン、スーザン、ティティ、ロジャのウォーカーきょうだい、ナンシイとペギイのブラケット姉妹、ドロシアとディックのDきょうだいは、いつもの湖水地方で合流し、夏休みのキャンプを楽しむつもりでした。

 ナンシイはまた新しい遊びを思いついていて、伝書鳩を三羽、用意していたのです。
 フリント船長ことジムおじさんは、海外に金の採掘にでかけ、失敗つづきで金は見つからずに落胆しているらしい手紙が届いていました。

 ナンシイは、この湖水地方にも未発見の金が埋まっているらしいと言う噂を聞きつけ、近所の老鉱夫に昔話をしてもらいます。

 子どもたちは、最高に面白いことを思いつきました。自分たちで金を探しあてちゃおう! そして、ジムおじさんをびっくりさせるんだ。

 ところが、金があるらしい場所は、ナンシイの家から遠く離れた山の上。母親がしょっちゅう様子を見に来ることもできないので、ミセス・ブラケットは難色を示します。そのうえ、山は雨不足で渓流が枯れており、キャンプができない状態でした。

 そこでナンシイの伝書鳩とディックの発明が連絡手段の問題を解決します。そして、水問題はティティが不思議な能力を発揮して……

 と、いうのがあらすじ。

 携帯電話どころか、固定電話すら交換手が必要だった時代の児童小説です。
 そんな時代に、「一日一回、親が無事を知る手段さえあれば、子どもたちだけでキャンプをしていい」、と言ってくれるとは、なんとすばらしい親でしょう。

 ナンシイの母親、ブラケット夫人は、別荘の改装にてんてこまいで、娘たちがテントで生活してくれるのは大歓迎だったのでした。けれど、目の届くところにいて欲しいというのも確か。それで別荘のそばに、掘り当てられていない金の鉱脈があるはずと言う話をしたのですが、そこは、はるかな山の上だったのです。

 ところがあいにく、この夏は水不足で、山頂のキャンプ地の川は枯れていました。こりゃ無理だといったんは諦めかけます。しかし、そこで諦めないのがナンシイ。近くの農場に協力を得て、どうにかしようとがんばります。

 さて、この山とナンシイの別荘との間はかなりの距離があるため、親が子どもたちの無事を確認する手段がありません。(電話は高額で交換手が必要なので、気軽に使えない時代です。緊急の連絡は「電報」が主流)
 そこで思いついたのが伝書鳩。ディックが鳩が到着するとベルがなる仕組みを鳥かごに取り付け、ブラケット夫人を納得させます。

 そして、山頂の水問題は、ティティがなんとダウジングで水脈を見つけてしまい、子どもたちは井戸を掘り当てて解決してしまうのです。(ダウジングというのは、二股に分かれた木の枝を持って歩き回り、水脈を探し当てる西洋の伝統的な方法。ちょっとオカルト的なのですが、できる人は本当にできるそうです。もちろん、わたしはできません)

 今回の裏テーマは「宝探し」。

 おそらく、ベースになったのはジュール・ヴェルヌの「神秘の島」でしょう。あの話では、主人公サイラスたちがほぼ手ぶらで無人島に漂着し、そこで陶器の食器からレンガ、鉄の精製、鉄器の製造までなんでもやってしまいます。「嘘だろう」と思うくらいの主人公の有能ぶりなのですが、科学的知識が下敷きになっているため、不可能なことは書いていないのです。

 今回のお話は、少年少女の夏休み版「神秘の島」と言う感じ。

 「ツバメ号の伝書バト」では、最初はブラケット家の別荘の庭でのご近所キャンプから、タイソン農場の果樹園へとキャンプ地を移し、最終的にはティティが発見した水脈に井戸を掘り、山頂にキャンプ地を移します。

 キャンプ地とブラケット別荘の連絡手段は伝書鳩。鳩が鳥かごを開けるときにベルが鳴るような仕組みをディックが設置しました。まさか作れるはずがないと思ったナンシイのお母さんが「そんな仕組みがあったら」などと言ってしまったのが運のつき、ディックが作ってしまったのです。

 今回、内向的で控えめなディック・カラムは大活躍。鳩システムを作ったり、旧い坑道に生き埋めにされそうになったときは冷静なリーダーシップを発揮、金を発見してからは鉱物の精製方法を調べたりと、みんなから頼れる発明家として一目置かれるようになります。

 そして、このチームを裏から支えるのは、もちろん、ウォーカー家の長女スーザン。保護者たちからの絶対的信頼を集めるスーザンは「スーザンが同行するなら」と保護者たちが許可してくれるのを知っているので、今回も全力でみんなをサポートします。

 ランサムの物語には、当時の子どもたちから「これは実際にあったことですか」と言う手紙が数多く届いたそうです。フィクションなのにかぎりなくリアリティがあり、子どもたちが「頑張ればできそう」に思えるように書かれているところがたまらない魅力だったのでしょう。

 令和の今読んでも、スマートフォンもインターネットも無し、最新のキャンプグッズも無しで、ここまでやる子どもたちの大冒険にわくわくしてしまいます。

 また、この「ツバメ号の伝書バト」は、インドア組がそれぞれに大活躍。
 「発明家」ディックはもちろんのこと、繊細なティティはハシバミの枝で水脈を発見しますし、ドロシアも要所要所でサポートします。

 外向的な子どもたちも、内向的な子どもたちも、それぞれがお互いに支えあいながら問題を乗り越え、冒険を楽しむ。こんなふうにできたら、最高ですよね。

 そして、この物語のすごいところは、ここまでの大冒険をしたというのに、この子たちの夏休みの本番はこの後始まるという事です。イギリスの夏休暇は長くてうらやましいなあ。

 今年も、外出しないほうがいい夏ですが、どんな大変な時代が来ても、それを「冒険」ととらえ、乗り越えてゆけたらきっと楽しいですね。

 どんな困難に出会っても、「おもしろくなってきたじゃないの」と楽しんでしまうナンシイたちから、学ぶことはたくさんあると思います。こんなときこそ、ぜひランサムを。

 ランサムのシリーズは、はずれなしの面白さです。単行本で、図書館で、電子書籍で。可能な手段でお楽しみください。夏休みにぴったりのシリーズです。

※現在、上巻は新刊が入手可能、下巻は中古になってしまうようです。電子書籍もありますので、電子でよければそちらを。電子書籍には、読書専用の端末をおすすめします。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はありません。
 ディックが鳩システムを作ったり、鉱物を採取して精製する方法を調べて実行したりと、「調べる」→「試す」と言う楽しさを教えてくれます。
読んでいると、様々な未知のことにチャレンジしたくなる、元気の出る物語です。

 読後は、ミルクたっぷりの英国紅茶をキャンプ用のカップに淹れておうちティータイムはいかがでしょう。スーザンが作ったみたいな、コンビーフで作ったハンバーグのサンドイッチを添えて。

 

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