【ジンジャーとピクルズやのおはなし】トラ猫ジンジャーとテリア犬ピクルズの雑貨屋さんのおはなし【ピーターラビットの絵本】【4歳 5歳 6歳 7歳】
ねこのジンジャーと犬のピクルズは、村で小さな雑貨店をしていました。お客さんはたくさん来るけれど、ふたりはとても貧乏でした。なぜなら、ふたりは「かけ売り」をしていたからです……
この本のイメージ 商売の教訓☆☆☆☆☆ ブラックユーモア☆☆☆☆☆ 動物たちはたくましい
ジンジャーとピクルズやのおはなし ビアトリクス・ポター/作・絵 いしいももこ/訳 ピーターラビットの絵本 福音館書店
<ビアトリクス・ポター>
イギリスの絵本作家。ヴィクトリア時代の上位中産階級に生まれ、遊び相手も少ない孤独な環境で育ち、学校に通うことは無かった。幼いころから絵を描くことを好み、多くのスケッチを残している。代表作は「ピーターラビット」シリーズ。
おはなしは、黄色い猫ジンジャーとテリア犬ピクルズは、小さな雑貨店を商っていました。しかし、彼らはすべて「かけ売り」(ツケのこと)で売っていたため、お店に現金がなく、貧乏で困っていました。
ついにふたりは、お客さんにお金をまとめて請求しようと請求書を書こうとしますが、そのとき税金の徴収にあい、払えないふたりは店をたたみます。
ふたりの店が潰れたと知ったライバル店のタビタさんは、すべての商品を値上げしました。
ジンジャーとピクルズやを引き継いだめんどりのヘニーペニーは、現金のみで商売をし、うまくゆきました。
と、言うのがあらすじ。
これは、商売について、かなりシビアな内容のお話です。
お客さんにお金をなかなか請求できないジンジャーとピクルズの店は、結局潰れてしまいました。
しかし、料金を踏み倒していたお客さんがこのまま無事だったわけでもなくて、お店を閉めたあと、ジンジャーが、かつてのお客さんだった森のねずみたちやうさぎたちをどうやらおいしくいただいて、その後はけっこう幸せに暮らしたらしいことが描かれています。お店をやっているときは、お客さんだから、食べたくても我慢していたというわけです。
なかなか、ブラックですね。
また、その後、二軒しかない雑貨屋の一軒がつぶれたことで、店が一軒だけになったと知ると、即座に全品値上げするタビタさんも、たくましい。
タビタさんと言うのは、ほかのお話にもよく登場する、トムやモペットちゃんのお母さん猫です。こんなにがめつい人(猫)だったんですね……。
すごいですね、この判断。なかなかできないですよ。いい意味でも悪い意味でも。でも、つぶれない店と言うのはこういうものなのだろうか。
その後、ヤマネのジョンさんと娘さんがはっかドロップとろうそくの店をやりますが、品質に問題があり、あまり評判はよくありませんでした。
ジンジャーとピクルズやは商品の質も良くて、いい店だったのです。なくなってから気がつく、店のありがたみ。だったら、みんなお金を払ってあげればよかったのに……。でも、世の中なんてそんなものですよね。
ビアトリクス・ポターは、こういうところは、すばらしく世の中を観察していると思います。とても、家庭教師に育てられ、お屋敷から一歩も外に出なかったお嬢様とは思えません。
どうやら、この動物たちは、それぞれ、その当時のビアトリクス・ポターの周囲の人々には、わかる人にはわかるモデルがいたようです。
よろず屋のヤマネのジョンさんは、娘さんに店をきりもりしてもらっている寝たきりのお父さんという設定ですが、ご近所にジョン・テイラーという、3年ねたきりで不平一つこぼしたことのないと言う人格者のおじいさんがいらしたらしく、この本はその方に捧げられています。
世間の厳しさ、世知辛さをシビアに描きつつも、動物たちはみな可愛らしく愛嬌があります。
挿絵は、ところどころが白黒で、大きな挿絵がフルカラーです。ねこのジンジャーと犬のピクルズがとてもかわいい。
文章のボリュームとしてはわりと多く、絵本の中でも長めの物語のほうなので、絵本と小説の中間くらいの位置づけです。しかも、内容にも少しブラックユーモアが含まれています。
でも、ただでものを売ってはいけないとか、わりと大切なことも書かれているので、小学校低学年くらいにこれを読むのは大切なことかも知れません。
字はすべてひらがなとカタカナなので、50音が読めれば、どなたにも読めます。もちろん、読み聞かせにも最適。
かわいいだけでなく、世間の厳しさも描いてくれているので、この絵本は「ピーターラビットの絵本」シリーズのなかでも、重要な位置づけにあると思います。似たような意味でおすすめなのは「あひるのジマイマのおはなし」です。
かわいいだけではない絵本ですが、そろそろ絵本を卒業しつつあるお子さまにいかがでしょう。
かわいいだけでなく、ピリリとしたところもある名作です。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はありませんが、シビアな要素はあります。人生や世間、商売というものについて、なかなか、考えさせられます。
読後は、ミントキャンディーが欲しくなるかもしれません。
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