【コンビニたそがれ堂】たそがれ時に出現する、不思議なコンビニのファンタジック・ハートフルストーリー【奇跡の招待状】【小学校高学年以上】
風早の街、駅前商店街のはずれに、夕暮れ時になると不思議なコンビニ「たそがれ堂」があらわれる。その人の探し物がからなず見つかる、神様のたわむれのようなお店が、今日も迷える人の前に現れる……
この本のイメージ ファンタジー☆☆☆☆☆ ちょっぴりせつない☆☆☆☆☆ 子どもから大人まで☆☆☆☆☆
コンビニたそがれ堂 奇跡の招待状 村山早紀/作 こより/絵 ポプラ文庫ピュアフル
<村山早紀>
1963年長崎県生まれ。日本の児童小説作家。「ちいさいえりちゃん」で毎日童話新人賞最優秀賞、椋鳩十児童文学賞を受賞。主な作品は『シェーラひめのぼうけん』『新シェーラひめのぼうけん』シリーズ、『風の丘のルルー』シリーズ、『はるかな空の東』などであり、近年は風早の街を舞台にした『コンビニたそがれ堂』シリーズ、『カフェかもめ亭』シリーズ等が人気を博している。
初読です。
もとは、2009年にジャイブよりピュアフル文庫で敢行されたものが初版のようです。ポプラ社新装版の初版は2010年。
第1巻に相当する「コンビニたそがれ堂」のレビューはこちら。できれば、「コンビニたそがれ堂」からお読みください。ただし、短編集なので、どの巻から読んでも、また、この巻だけを読んでも、話は理解できます。だいじょうぶ。
イメージとしては、昭和の30分テレビアニメシリーズ。藤子不二雄先生のアニメの、もうちょっと繊細なハートフル版と言う感じです。毎回、主人公が「たそがれ堂」を訪れ、それぞれが、棚に自分の「探し物」を見つけ、買ってゆきます。
不思議な「たそがれ堂」は、たぶんお稲荷さんの化身。探しものがある人の前にあらわれ、問題が解決すると消えてしまいます。
今回のお話は
・雪うさぎの旅
・人魚姫
・魔法の振り子
・ねここやねここ
今回のお話は、ちょっと哀愁のあるお話です。
「雪うさぎの旅」と「ねここやねここ」は、人間ではない存在からの、人間への愛情の物語。「人魚姫」と「魔法の振り子」は、大切な人の死にまつわるお話です。
先週ご紹介した「アルフレートの時計台」が、やはり大切な人の死にまつわるお話だったのですが、この国は2011年を境にして、たいへん過酷な国に変貌したので、出版当時とは違った気持ちで、この本を必要とする人がいるのではないかと思いました。
「人魚姫」は、大切な友達との別れを受け止めきれなかった女の子が、前を向き歩き始めるお話です。
このお話の中に、オンラインゲームが登場します。わたしは、長らく、ふだんは小さなオンラインゲームのカスタマーサポートをしておりますので、身近な題材だということもあって、少しどきどきして読んでしまいました。
わたしたちの運営する小さなオンラインゲームは、ちょっと特殊なゲームシステムを導入していて「プレイ時間の長さ」と「ゲーム世界内のレベル」があまり連動しないように作られています。連動しすぎてしまうと、つねにゲームの中に滞在しなければならなくなるからです。そのぶん、争いや戦いの要素を極力排除しているので、繊細な方がしばしの間ほっとできるように……と居場所を提供するつもりで運営しています。
「人魚姫」の主人公の女の子は、哀しみから立ち上がるさいに、人生を「ゲーム」に見立てて、小さなところから少しずつ、「クエスト」を乗り越えて、「レベルを上げて」ゆこうと決心します。
なんだか、不思議な気持ちがしました。
もともと、ゲームのデザインは、人が成長してゆく過程をプログラムに落とし込んで作られています。だから、最初はスライムのような小さな敵を倒しながら、「少しずつ練習を繰り返し」「経験値を貯めて」「強くなって」「旅をして」「中ボスを倒して」「旅をして」「ラスボスを倒す」のです。
今度は、ひどく哀しい思いをしてゲームの世界に閉じこもっていた女の子が、ゲームシステムを参考にして現実の困難をクリアしてゆく………
これこそが、ゲームクリエイターの夢見る理想の「正の循環」だと思います。
わたしたちの運営しているゲームは、とても小さい手づくり感満載のゲームで、ユーザーさんたちは非常に穏やかで繊細な方ばかりです。
いつもまったりしていて、常時滞在やリアルタイム性をあまり必要としないので、「あなたでもこれならできるんじゃないの」とすすめられてプレイすることになったという、内向的な方が多い世界です。
そういう方々は、現実の世界が大きく揺れるとき、傷つきやすく、ダメージが残りやすい。
そんなユーザーのみなさまが傷ついたとき、ゲームでひと時休んで、そして、こんなふうに歩き出せたとしたら、これ以上うれしいことはありません。
オンラインゲームと言えば、一時はずいぶん問題になりました。その当時は、テレビドラマなどでゲーマーやゲーム会社の社長と言えば、悪役や嫌われ者ポジションだったなあ、と懐かしく思い出します。
最近、そのポジションがユーチューバーになってきたのが、とても興味深いです。
なんかねえ、その昔は、アニメーションが好きだったり、漫画が好きだったりすると、わりとそんな感じでしたよ。
わたしは、年寄りだからわかる。もう少し時間がたつと、今度はまた別のものが現れて、そのうち動画配信は落ち着いた大人の趣味扱いされる時代が来るんですよ。そんなものですよ。
わたしは、ITは農業と似ている、と思います。
少しずつ育てて、手を入れる必要があるんです。
ブログだったら、毎日少しずつ更新したり、オンラインゲームだったら毎日保守して、サポートして、時々新機能や新しいイベントを更新したりとかです。ソフトウェアも日々アップデートが必要です。
園芸とか、そういうものに似ているなあ、といつも思います。ひとつひとつのやるべき事は、とても小さいのです。でも、それが、いつか大きく育つのです。
だから、「人魚姫」の主人公の女の子が、小さなことから少しずつ少しずつ前に進んでゆく姿が、とても身近なこととして感じられます。悲しいことがあっても、つらいことがあっても、小さなことをコツコツ続けてゆくことで、きっと遠くにゆけるはず。
読書していると、こんなふうに本との出会いがあります。
この本は、初版の2010年当時ではなく、「今」が、わたしが読むべきタイミングだったんですね。
この本の短編はどれも少し切ない話なのですが、この10年を振り返って、「今読んでよかったな」と思える本でした。
2011年から激動の10年を走り続けて、一休みしたいな、と感じた方にはおすすめの一冊です。
作中にハロウィンやクリスマスが登場するので、この季節にぴったり。
やさしく温かみのある、読みやすい文章です。ただ、大人向けの文庫なので、振り仮名はあまり振られていないので、小学生が読むときは、それだけ、ご注意ください。
内容的に小学生にも読んでほしいと思い、このサイト的には「小学校高学年以上」としましたが、振り仮名が少ないので、ちょっぴり難しいかもしれません。でも、いいお話ばかりなので、ぜひがんばって読んでほしい一冊です。
大人が読むと、どこか懐かしい気持ちに包まれると思います。やさしい気持ちになりたいときにおすすめです。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
大切な人の死を乗り越えるお話です。まだまだそういうのは読めない、という方は、気持ちが落ち着いてからお読みください。ネガティブな要素はありません。せつないけれど、あたたかいお話です。悪人がいない、やさしい世界です。
HSPやHSCの方のほうが多くのことを感じ取れると思います。
読後はパンプキンケーキと紅茶でティータイムがおすすめです。
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