【魔女の宅急便】キキの成長ストーリーその5。キキ19歳のものがたり【魔法のとまり木】【小学校中学年以上】
キキは19歳になりました。お届けものをしながら様々な人と出会い、感動したり、傷ついたり、びっくりしたり……いろんなことを体験して、大人になり、将来のことを考えるようになったキキです。
この本のイメージ 自分とは☆☆☆☆☆ 成長とは☆☆☆☆☆ 大人になる☆☆☆☆☆
魔女の宅急便 その5 魔法のとまり木 角野栄子/作 佐竹美保/画 福音館書店
<角野栄子>
日本の童話作家、絵本作家、ノンフィクション作家、エッセイスト。日本福祉大学客員教授。代表作は「魔女の宅急便」。
「スタジオジブリ」宮崎駿監督によって1989年にアニメーション映画にもなった「魔女の宅急便」5巻目です。また2014年、清水崇監督により実写映画化されました。
「魔女の宅急便 その5 魔法のとまり木」は初版が2007年です。
5巻目でキキは19歳。作中でついに20歳になります。あの小さかったキキが、大人になるのでした。
「魔女の宅急便」は、それぞれ、1冊でお話が完結しているのですが、全体でひとつの長いお話として続いているので、ぜひ、1巻から順番にお読みください。1巻のレビューはこちら。↓
今回のキキはすこしスランプ気味になります。
1巻~2巻の頃のキキ自身の精神状態によるスランプとちがって、今回のは「魔法が疲れてしまい、キキから少し遠ざかってしまった」スランプ。
この本の前半は、お仕事をするうえでベテランの域に入ったキキが、その能力の高さゆえに便利に使われたり、好奇心旺盛な小さな子どもたちから自分たちのほうきで空を飛んでとせがまれ、断りきれずにそれぞれのほうきで飛んであげる等のエピソードが書かれています。
これ、もしかして角野先生の実体験じゃないでしょうか。様々なイベントがダブルブッキングされたり、大量のサインを書かなければならなかったり……。それで疲れ果ててしまって、創作意欲が束の間うせてしまったというような。(違っていたらスミマセン……)
創作って、天から降ってきた妖精の羽をつかまえるようなところがあります。
プロと言うのは、この妖精の羽を「定期的に」「締め切りまでに」「間に合うように」自分の頭上に降らせることが出来る人たちで、そこがふつうではないってことなんだと、わたしは思います。魔法ですよ。
けれど、「魔法」をぞんざいに扱ったり酷使すぎると、魔法が疲れ果てて、「魔法のとまり木」に休息を取りにいってしまう……
でも、魔法のほうもただ休みたいだけだから、回復したらもどって来るよ。これが、キキの相談に対するお父さんのオキノさんからのお手紙の内容でした。
なんだか、素敵な表現だと思います。
そんなこんなで、スランプを乗り越えて、キキは20歳になります。
大好きなとんぼさんとの関係も、ゆっくりゆっくり、育ってゆきました。
わたしはねえ、キキのやきもち焼きのところが、とんぼさんの周囲の女の子たちには向かないで、とんぼさんが夢中になっている虫とかに向いているのが、かわいいなあ、といつも思います。
とんぼさんが何にいちばん夢中なのか、キキはちゃんとわかっているんですね。だから、他の女の子のことなんて心配しないけれど、虫の話ばっかりなのは、嫌なんだな……。と考えると、ほほえましい。
わたしは、相手が自分の好きなことに対して熱弁をふるっているのを見るのが好き(たとえ自分の理解できないことでも)なので、キキの気持ちに共感はできないんですが、理解はできます。それに、とっても可愛らしいやきもちです。
キキは13歳のときから一人前に働いていて、いろんなことが一人でできるくらいにしっかりしているのに、こういうところはちっとも変わらない。定期的に黒以外の服を着たくなるし、おしゃれもしたくなるし、とんぼさんと離れ離れでさみしくなるし、自分に自信も失ってしまう。
とんぼさんのほうは、小さい頃から一人前に働いているキキを内心尊敬していて、自分はもっとしっかりしなくちゃと頑張っているのに、キキにはそれはまったく伝わっていないのです。
好奇心旺盛で向こう見ずなところと、自分にまったく自信がないところが同居している女の子、それがキキ。
それでも、ぐるっと回って、一回り成長して戻ってきます。
うんうん、そうだよね、人間ってそんなもんだよね。と、大人はうなずきながらキキの物語を読むのでした。同世代の子は、キキと一緒に成長してゆく気持ちになれるでしょうか。
そうそう、今回のお話で黒猫のジジにも彼女が出来ます。そして、ちょっと魔法猫語があやしくなって、ふつうの猫語でしゃべるようになってしまいます。ジジ、どうなるのでしょうか。このまましゃべれなくなってしまうのかしら。「魔女の宅急便」は、あと1巻あるらしいので、そのあたりも確かめなくては。
字はほどよい大きさで読みやすく、簡単な漢字以外には振り仮名がふってありますので、小学校中学年から。大人でも楽しめます。
表紙絵、挿絵は、ファンタジー児童小説の挿絵を描かせたらピカイチの、安定の佐竹美保先生。
わたし、佐竹先生の描く、ほうきで疾風のように飛ぶキキの絵が大好きなんです。たしかに、疾く飛ぼうと思ったら、空気抵抗を減らすためにこういう飛び方になるわ……と超納得。
年をとってくると、目が利かなくなってきます。それでも、本を読みたいという方には、児童文学がおすすめなんです。字がほどよい大きさで読みやすい。子どもの頃に好きだった本も、大人になってから読むとあらたな発見があります。
それに、人は60歳になると赤いちゃんちゃんこを着て、子どもにもどると言うじゃないですか。
年寄りは子どもなんですよ。
「魔女の宅急便」は小さなお子さまから大人まで、全年齢で楽しめるファンタジーです。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はありません。このシリーズは、キキという女の子の成長物語であり、かつ、群像劇のようなところがあります。
しかし、男の子が主人公の魔法使いもの小説とちがって、敵が出てきて戦うとか、そういうお話ではないので、日常の出来事が淡々と続きます。詩のような小説です。派手なところはなく、心温まる小さなエピソードの積み重ねなので、もの足りない方もいるかもしれません。
これは、女の子の成長と自己実現の物語です。「赤毛のアン」などの少女小説が好きな方ならおすすめです。
読後は、あったかいお団子入りスープが飲みたくなるかもしれません。または、ジャムつき肉団子をご用意くださいね。
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