【虹いろ図書館のひなとゆん】病弱なひなが出会ったのは、ピッピみたいな女の子。ふたりの友情物語【小学校高学年以上】

2024年3月18日

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虹いろ図書館のひなとゆん 櫻井とりお/作 浮雲宇一/絵 河出書房新社

持病があるひなには友達がいない。図書館で本を借りて、家で読む。そんな毎日のひなが、偶然出会った、「長くつ下のピッピ」みたいな女の子。彼女の名前はゆん。ふたりは、大の親友になったのだけど……

この本のイメージ ファンタジーではない☆☆☆☆☆ 回復と成長☆☆☆☆☆ 友情物語☆☆☆☆☆

虹いろ図書館のひなとゆん 櫻井とりお/作 浮雲宇一/絵 河出書房新社

<櫻井とりお>
京都市生まれ。放送大学教養学部卒。2018年、第1回氷室冴子青春文学賞大賞を受賞。19年『虹いろ図書館のへびおとこ』で作家デビュー。20年度まで非正規職員として関東圏の公立図書館に勤めた。

 「虹いろ図書館のへびおとこ」の続編と言うか、「虹いろ図書館シリーズ」。初版は2020年10月。
 「虹いろ図書館」について詳しく知りたい方は、まずは「虹いろ図書館のへびおとこ」をお読みください。「虹いろ図書館のへびおとこ」のレビューはこちら↓

 今回も、図書館とイヌガミさんやうつみさんは登場しますが、メインキャラとしてはではありません。でも、相変わらず、子どもの味方として大切なことを教えてくれています。

 ストーリーは……

 逆井ひな子は、腎臓に持病があり、みんなと同じ給食が食べられませんでした。そのため、お昼になると早引けし、自宅にもどって昼食を食べていました。

 持病があるひなには友達がいなく、かわりに図書館に立ち寄って本を借りて、自宅で本を読むのが好きでした。
 そんなひながある日、へんてこな女の子に出会います。

 彼女の名前はゆん。外国から来た子で、ほんとうの名前は、ユンリウス=ウンスペア=ベスアドル=ミルミル=ルウブラン=ベアトリーチェ姫。長い長いながーい名前でした。

 野良犬に襲われそうになったひなを、格闘技カポイエラで助けてくれたゆんは、強くてかっこよくて「長くつ下のピッピ」みたいな女の子。ふたりは、大親友になりました。

 でも、病気が治ったひなは、ふつうの女の子たちと同じ生活にもどり、だんだんゆんと会えなくなって……

 と、いうのがあらすじ。

 「長くつ下のピッピ」と「ないた赤おに」の合体みたいなおはなしです。でも、ハッピーエンドです。
 どんなふうになるのかは、読んでみてのお楽しみ。

 ただ、このおはなしを読む前に「長くつ下のピッピ」と「ないた赤おに」は読んでおくことをおすすめします。「ないた赤おに」を知らない人はいないかと思うのですが、「長くつ下のピッピ」は、読んだこと無い子もいるかもしれません。

 長くつ下のピッピのレビューはこちら↓

 ゆんちゃんは外国で体験したいろんなお話をしてくれて、どれもめちゃくちゃ面白いのですが、それがどこまでほんとうのことで、どこからはほら話なのか、ちょっとわからないんです。(ほらや嘘じゃなくて、子ども視点ではそう見えてるとか、そう思い込んでいるとかもありますしね)

 「長くつ下のピッピ」のピッピも、まさしくそんな感じの子です。しかし、彼女のお話の中で、いちばん荒唐無稽で嘘くさかった「わたしのお父さんは南の島の王さま」っていうのが、事実だったときの衝撃が、「長くつ下のピッピ」のすごさなのです。

 ふつうの児童文学なら、これを作り話だってことにしますよ。ふつうなら。

 お話のなかで、ピッピはかなりいいかげんなことを山ほど言うのですが、馬を持ち上げることが出来たり、猿を飼っていたり、トランクの中に金貨が山ほど入っていたりと言うのは、ほらではなく事実なわけで、彼女の言うほんとうっぽいのとこのほうが作り話で、まともな人が考えたら絶対嘘でしょうということのほうが本当と言うのが、ピッピの面白さ。

 この物語のゆんもそういう子として描かれています。

 前半は「長くつ下のピッピ」のオマージュ、後半は「ないた赤おに」のオマージュです。

 ひなちゃんは本が大好きで、作中にはイマジナリーフレンドをテーマにしたファンタジーの名前も登場することから、ゆんちゃんが本当に実在するのか、それとも空想の中の女の子なのかと惑わせるような描き方もしています。

 病気が治ったあと、ふつうの子たちと同じように学校に通い、ふつうの子たちのコミュニティーに入ったひなちゃんが、ゆんちゃんと一緒に楽しく遊んでいた日を、別の世界のできごとのように遠く感じ始めたり、ゆんちゃんの悪い噂を「それはほんとうではないよ」といえなくなってしまったりするのが、胸が痛い展開です。

 でも、これはすごくリアル。あの「ふつうの人たちのコミュニティ」って、一種の洗脳効果がありますよ。大人になったときにそれが「同調圧力」と言うものだと気がつくのですが、子どもの頃はそれは気づかない。

 ゆんちゃんは「ふつうではない」環境で生まれ、育ち、これからもずっとそうして生きて行くけれども、ひなちゃんは「腎臓の病気」と言う一時的なもので「ふつうの子の世界」から弾き飛ばされていただけなので、病気が回復したら「ふつうの子」たちと同じ環境にもどり、ふつうの人生を生きて行くことができる子でした。

 あこがれていた「ふつうの子たちの世界」に入ったとき、その同調圧力の魔力をはじめて知ったのです。

 いままで身体が弱いこともあり、環境に順応することで生きてきたひなちゃんが、はじめて、自分の頭で考えて自分の環境に異をとなえることができるようになる……

 おっとり大人しいひなちゃんが、ゆっくりと確かに成長してゆく過程は、とてもほほえましく、そして応援したくなります。

 「虹いろ図書館のへびおとこ」は、辛い状況に追い詰められたほのかちゃんが立ち上がる、再生と成長の物語でした。今回の「虹いろ図書館のひなとゆん」は、もう少し穏やかで、そして、もっと身近な心の動きがテーマです。

 わたしはどちらも好きですが、現在おかれている環境が辛すぎて「虹いろ図書館のへびおとこ」はハードすぎて読めない、というお子さまには、「虹いろ図書館のひなとゆん」を先に読んだほうがいいかもしれません。

 「ひなとゆん」のほうがずっとマイルドになっていますが、底に流れている共通のテーマはたくさんあります。

 大切なことは、自分の頭で考えて自分の心に聞いてみよう。図書館にはたくさんの知恵があるし、本をたくさん読んで、自分の頭でいっしょうけんめい考えれば、答えが出せるはず、と言う、子どもだけでなく大人にも大切な、人生における基本のようなところに立ち戻らせてくれる物語です。

 非常に読みやすい文章ですが、難しい漢字にしか振り仮名が振っていないので、小学校高学年から。かしこい子なら中学年からでも読めると思います。「へびおとこ」同様、様々な物語や本が登場していて、巻末にリストがあるのもうれしい。

 「へびおとこ」のラストも映像的で美しかったのですが、今回も映画のような素敵なラストシーンです。

 子どもから大人まで。本と図書館を愛する人におすすめです。

 ※この本は電子書籍もあります。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 HSCのお子さまにおすすめの物語です。
 でも、読む前にはまず「長くつ下のピッピ」をお読みになることをおすすめします。この物語は「ピッピ」のオマージュです。

 「ピッピ」をピッピの気持ちではなく、トミーやアンニカの気持ちになって読む子におすすめです。
 繊細で感受性の高い小さな女の子が、子どもの頃に考えたり悩んだりすることが、細やかに書かれています。

 読後はココナッツケーキと花茶でティータイムをしましょう。

 

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